明鏡日記9.10:EYL2日目

朝1時―2時半「Values and Constructive Politics(価値観と建設的政治)」

「私は民主主義の護衛という高い理想と自意識を持ってジャーナリストになりました。」デンマークの公共放送局元報道局局長であるウルリク・ハーゲルップ氏は、そう言ってプレゼンを始めました。「政治家を感情的にさせることで本音が引き出せると思っていた。政治家を、隠された真実を、あばくことがジャーナリズムだと教えられたし、信じていた。」でも過激化するジャーナリズムとそれに翻弄される政治の相互関係に気づき始め、ジャーナリズムのあり方に疑問を持ち始めたある日、送られて来た詩のヴィデオに号泣して、ジャーナリストを辞めたそうです。

”You are what you eat(あなたはあなたの食べたもの)”ということわざをもじったタイトルの詩、”You are what you read(あなたはあなたの読んだもの)”には情報と食べ物の類比が続きます。“If information is to the mind what food is to the body, then it is time we become aware of the impact of our informational diet on our mental health(体が食事から出来るように知性が情報が成り立つならば、今こそ我々は消化する情報の精神衛生への影響を考える時です” 

ハーゲルップ氏はメディアと政治の悪循環を停めるべくConstructive Insituteを創立し「Constructive Journalism(建設的ジャーナリズム」を提唱します。読者数を上げるための扇情報道を辞め、多様な意見を冷静かつ客観的に事実に基づいた情報として提供し、対立や懐疑ではなく協力や建設を促す姿勢を基本としたジャーナリズムです。

一方Kirsten Brosbøl氏はデンマークで環境大臣まで務めた後、やはり政治に幻滅して、2030Beyondという環境運動NPOのCEOを勤めています。「知名度を上げるためには報道されなければいけない。でも政治家同士の対立とかスキャンダルとか扇情的な発言とかしかニュースにはならない。例えば可決された環境方針については、どんなに凄い内容でも「良いニュース」にはならないから報道されない。でも知名度を上げなければ次の選挙が心配だから政治家の多くは70パーセントの勤務時をSNS発信に費やしている。」

報道と政治の悪循環を停めるための対話には、多くの参加者が賛同し、意見が飛び交いました。

3―4時:フェミニスト都市計画

道や駅や広場の名前は全て男性。銅像や記念碑も歴史的男性を讃えたものばかりで女性はいない。そういうことの積み重ねが女性のセルフイメージに与えるインパクトは計り知れない…ニューヨークの地下鉄地図に歴史に貢献した女性の名前を付けるプロジェクトに触発されて、ブリュッセルでも同じ試みが。さらに女性を差別する社会は、性嗜好・身障者・年齢・人種・文化・宗教など他のグループも差別するという事実の基に、都市計画に色々な人の事情や視点を考慮する「フェミニスト都市計画」

5:15ー6:45:治癒効果を持つ芸術を社会は復興させられるか。

参加者がランチをしている間に私は素早くコーヒーと砂糖(パイナップルケーキ)を自己投与し、メールをちょっとだけチェック。日本のMさんから「寝る間もなく、大活躍中のようですね。日本(アジア)代表として頑張ってください!!」思わず笑顔になってしまう。いつもコメントをくださるOさんからも「知識と知恵を存分に発揮してください。」応援ありがとうございます。

ルネッサンスウィークエンドの成功もあって、勇んで始めたプレゼン。でも結果は...愕然。

「音楽は世界の共通語。社会的動物としての人間の特性を引き出し、社会の結束を強め、私達の共感力を促し、苦痛やストレスを和らげる。これから気候変動で災害が多くなること予想される中、音楽の効用を活用化する事は必須」という私のプレゼンを受けて、最初のコメントが「文化の中心地としてヨーロッパは...」「文化推進はヨーロッパのアイデンティティーの為の得策」「伝統の正当後継者としてヨーロッパは...」「ヨーロッパに生まれた伝統を正しい形で残していくためにも幼児期からの教育が必須でその為の予算は...」

え?…ええ?...えええええ~~~~????

手を挙げて必死に訴えてみる。「私は西洋クラシックのピアニストです。ヨーロッパでの演奏旅行の経験も何度も頂いています。しかし日本生まれのアメリカ在住者としてヨーロッパとの実際の関係は比較的希薄です。このようなピアニストを皆さんはどうお考えになっているのでしょうか?『音楽は世界の共通語』の概念については?そして環境問題などグローバルでの取り組みが必要な現在の音楽や音楽家の活用法は?音楽の治癒効果の活用を妨げているものの一つに、19世紀ヨーロッパの音楽の哲学と産業革命の後遺症としての音楽の商品化があると思うのですが、それについては皆さんはどうお考えなのでしょうか?」

ところが全くのスルー。(もしかしてオーディオに問題が?)と思うほどの馬耳東風。急いでWhatsappでテックの担当者に「ちゃんと聞こえていますか?」と確認するも、「完璧です。問題ありません」との返答。それなのに、Q&Aは私のプレゼンの内容とは全く関係のないフィンランドの文化教育や、NPOの試み、など。

問題の一つはEYLでは、新参者に発表の場が特設されていない事。私の様なゲストスピーカーを招待してプレゼンをさせている。そうすると若手リーダーたちは自己PRをしようと思ったら『質問』をするしかない。それぞれのセッションの内容はあらかじめ分かっているので例えば文化庁の役人は「よし、このセッションで最近可決された芸術の為の予算枠について話しをするぞ」と山を立てて準備をする。質問者の中には、書き出してある質問をポケットから出して読み上げる人もいるほど。だから『質問』への応答は期待していないし、プレゼンターからの応答への答えも勿論ない。

が、私自身にも反省点は多いにある。

  • ArtsAhimsaやルネッサンスウィークエンドで温かく支援され、気を良くし過ぎていた。
  • 政党党首だろうが何だろうが40歳以下なら私より年下!というちょっと上から目線が何となく伝わってしまったかもしれない。
  • このグループ特有のニーズをあまり考えずに、自分のしたい話しをしてしまった。
  • ヨーロッパの西洋文化に対する気負いとか誇りを甘く見過ぎていた。
  • 私自身が「東洋人女性だから過小評価されないように」と気負い過ぎていたかも知れない。むしろ彼らが見慣れないキャラだからこそ、もっとにこやかに愛想よく、能力やリサーチをひけらかすのでは無く、個人的エピソードなどで人情に訴えた方が良かったかも知れない。

7:15―8:15:ヨーロッパを連係して未来をより緑にする鉄道産業

意気消沈して、でも次のプレゼンも聴講続行。ここでまたもや私の知らなかったヨーロッパに出会う。「それぞれの国の鉄道会社が別々の時刻表・発券・価格設定システムに固執している。例えば一時間の列車の旅でも国境を超える場合はオンラインで一枚のチケットを購入して済ませることができない。」「EUで鉄道を統一しようとしてもそれぞれの鉄道会社がそれぞれの顧客やシステムや伝統に固執して反対勢力が強い。」

み、みんな、鉄道くらいでこんなに同意できないのに、どうやって環境問題で協力できるの?英語が共通に喋れたって、これじゃあだめじゃん!

私の愚痴を受けて野の君一言。「歴史的にライバル心を持ち続けた独立国家同士がEUでも欧州でも一つのユニットとして世界での存在感を主張しようとしても、結局鉄道とか事務仕事とかそういう違いでこじれる。だから文化とか芸術とかそういう物にアイデンティティの統一を頼るしかないんじゃないの?」

今日の教訓

  • 私はまだまだ世間知らず。
  • 連戦連勝はあり得ない。マキコ、頭を冷やせ。
  • 世界は広くて多様。これを面倒くさがらずに面白がらなくてはやってられん。
  • 政治というのは兎に角世間の同意の取り付けが必要らしい。それには忍耐力と時間がかかる。
  • 本当に環境問題対処をそんな政府に頼っていて良いのか。
  • 古い体制は歴史に足を取られ過ぎて、判断も行動も遅い感じ。環境問題は即決力が必要ーどうすれば良いのか?

1 thought on “明鏡日記9.10:EYL2日目”

  1. お疲れ様です。

    反省点の列挙は、明日への懸け橋。
    その橋を渡ったら、文化の中心は、ヨーロッパ。
    出生国主義となってアングロ・サクソンの文化は混乱。
    で、満を持したカラード真紀子の出番です。
    赤裸々の真紀子あってのピアニストであり脳科学者です。
    大きな画車は動いた。
    もう止められないから、躍動あるのみ。

    小川久男

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