レベッカ・クラーク(1886-1979)はイギリスでアメリカ人の父親とドイツ人の母親の間に生まれた作曲家である。生前は女性にしては珍しく作曲のコンクールで賞を取り、その為に何度か脚光を浴びたが、主にヴィオラ奏者として活躍し、パブロ・カサルス、ルービンスタイン、マイラ・ヘスなどの超有名演奏家と室内楽の共演をしたり、イギリス四重奏と言う、女性四人の四重奏と世界中演奏旅行したりしていた。アメリカでその人生の大半を送っている。90代になってから偶然、ピアニスト、マイラ・ヘスを記念するラジオ番組にマリア・ヘスの幼馴染として出演した際、彼女自身の作曲の多くの初演をマイラ・ヘスが手掛けていた事が話題に上り、やがて彼女自身が同じ番組で後日取り上げられることが決定。そしてその番組で演奏された彼女のヴィオラ・ソナタ、ピアノ三重奏などが思わぬ反響を呼び、シンデレラの様な好運なカム・バックを他界寸前に果たした。
私は来る3月の4日と五日にワシントンD.C。の国立図書館(library of Congress)での演奏会で、彼女のピアノ三重奏を演奏する。Library of Congressには彼女が生前書いた直筆の楽譜(ピアノ三重奏も含め、数点)や、手紙などが多数残されており、この演奏に向けて私は彼女の伝記や、エッセー、当時の女性の投票権運動に関してや、世界大戦がどのように女性の社会的立場を向上したか、と言う事についてもちょっと調べた。
芸術家が良い仕事をするためにはいかにどれだけの好条件がそろわなければいけないか。そして、その好条件が必ずしも本人にとって「楽」な人生では無い、と言う事も中々興味深い事実である。例えば、第一次世界大戦の勃発は彼女自身にとっては在る「好条件」の一つとなっている。大戦勃発前の1910年、彼女は長年行き違いの多かった父親と最後の大げんかをし、家を放り出されている。学校は当然(学費を払えないから)退学。そしてその後彼女はヴィオラ奏者として、自らの生計を立てるのである。かなり上手い奏者だったようだが、それでも女性蔑視の強い当時のイギリスである。まだ女性の参政権も認められていない。その彼女が大成した背景には、大戦で多くの男性奏者が参戦してしまったから、と言う事実もあると思う。
彼女の作曲活動は家族にとってはからかいの種でしかなかったらしい。それでも断固として書き続けた彼女のハングリー精神はむしろ反抗精神なのかもしれないが、他界3年前に思わぬ偶然から脚光を浴びたにも関わらず、彼女の遺族が彼女の残した直筆の多くや、自伝などの研究を許していないらしい。ピアノ三重奏や、ヴィオラ・ソナタなど、それでも主な作曲は再出版を最近果たし、ヴィオラ・ソナタに至ってはすでにヴィオラ奏者なら誰でも勉強する曲になっているが、彼女の他の作品や、彼女自身の人生についてはそういう訳で余り多くの資料が無い。
彼女のピアノ三重奏は、文句無しに素晴らしい、訴えかける物を多大に持っている作品である。胸をかきむしるような、悲痛な演説の様な一楽章の第二テーマは、何か童謡や民謡を思わせるような、耳馴染みが無いのに懐かしいメロディーで在る。2楽章の沈痛な美しさも胸を打つし、3楽章のドライなユーモアには思わず踊りだしたくなる。私はこの余り知られていない作品を、library of congressで演奏出来る事を誇りに思っている。
レベッカ・クラークについてはまったくの無知です。
レベッカ・クラーク・ソサイエティというHPを見つけました、そこでは彼女世の曲が聴けるようなのです。ピアノ三重奏もあるとよいのですが。
ワシントンDCでのコンサート聴きたいですね。私、今度千葉市議に挑戦することになりました。政治もまた必要です。
>abbros/kawashimaさん
ピアノ三重奏はヴィオラ・ソナタに次いで、彼女の代表作なので、聴けるのではと思います。Youtubeでもこの三重奏はお聴き頂けますよ。Rebecca Clarke Piano Trioで検索なさってみてください。
マキコ
>ちばのおばさん
いつも新しいチャレンジに挑んでいられるおばさんは素晴らしい!私の誇りです。次回の帰国の際は色々お話を聞かせてください。
マキコ
聴いてみました。ちょっとラベルのようなモダニズムな感じの音色のように感じました。なかなか素敵です。
>abbros/kawashimaさん
ドンぴしゃ、ご名答です! 彼女自身がヴォン・ウィリアムズなどのイギリス作曲家の影響と並べて一番強く影響を受けた作曲家として挙げているのがラヴェルとドビュッシーなのです。
マキコ