タイガー・マム

ライス大学が国立図書館に送り込むために選んだ音楽専攻の修士あるいは博士課程の生徒は5人。
台湾系アメリカ人のヴァイオリニスト(女)、韓国人のチェリスト(女)とピアニスト(女)、日本人の私と、アメリカ人の作曲家(男)である。作曲家以外はすべてアジア人女性なのである。作曲家は演奏はしないから、舞台上は全くアジア人の女性だけになってしまう。
世界的に、クラシック音楽界にはアジア人が目覚ましく進出を続けている。これは、例えば私のお友達でアメリカ文化研究者、ハワイ大学の教授である吉原真里さんの著書、『Musicians from a Different Shore: Asians and Asian Americans in Classical Music』Temple University Press, 2007でも大いに検討されている現象である。
しかし最近、アジア人がクラシック音楽をすることがさらに注目を浴びている。今年の1月に出版された、Battle Hymn of Tiger Mom (タイガー・マムの聖戦歌)がその理由だ。Amy Chuaと言うエリート中国系アメリカ人女性(イエール大学で法律を教えている)が、その子育ての記録を綴っている。アメリカ人男性(この人もイエールの教授)との間に二人の娘をもうけたエイミーは、この二人をビシバシとスパルタ教育している。泣き叫ぶ7歳の娘を夕飯抜きで、トイレにも行かせず何時間もピアノの練習を「曲が弾けるようになるまで」強制したり、A以下の成績を許さなかったり、毎日何時間も計算と綴りのドリルをさせたり。。。
「幼児虐待!」と叫ぶアメリカ人読者もいる。アメリカでは子供は褒めまくって育てる伝統が在る。しかし批判されているだけならばこの本はこんなに話題にならない。この本が今、話題になるには在る特殊な背景が在るのである。それは国際的に行われる小学生の学習能力の結果である。アメリカの小学生の数学能力は世界25位、そして理科も21位と決して好ましい物ではない。ところがそんなアメリカ人小学生が必ず一位になるのが、「自信」。これら学習能力のテストの後、「このテストは上手く言ったと思う―yes or no – 」とチェックする所で、アメリカ人の小学生は突出して自己肯定的なのである。この統計が最近ドキュメンタリー映画などで取り上げられ、話題に上るに従って、アメリカ人たちは静かに焦り始めている。そして学習能力のトップに出てきたのが、上海などの中国の都市。この本が話題になるわけである。自信たっぷりのはずのアメリカ人が、自分たちの今までの教育方針に疑問を持ち始めているのである。
明日とあさって、国会図書館で演奏する私たち4人のアジア人は、もしかしたら受けるかもしれない質問に備えて、昨日の夕飯時は「タイガーマム」の是非、そして自分たちの幼少時代の両親との関係の話題で盛り上がった。

2 thoughts on “タイガー・マム”

  1. 調性の話、実際にピアノの調べを聞き比べれば変ト長調とト長調の違いは瞭然で非常に判りやすいものです。そこで浮かんだのが、なぜ人間の耳は単なる波長の違いという物理現象に、ある種の感情移入ができるのだろう?という疑問です。チョムスキーは言語は人間に特有の能力といっています、ところで音を音楽として体験する能力はこれも人間に固有なものなのでしょうかね?人間は面白い存在です。

  2. >abbros/kawashimaさん
    音を音楽として体験する能力が人間特有の物か、と言う疑問は面白いですね。意識して体験出来るのは人間だけかもしれませんが、例えば音楽が植物の成長を促進させたり、牛の乳の出を良くする、と言った統計は出ています。
    マキコ

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