2005年夏のプログラム

 大変ご無沙汰してしまいました。皆さん、お変わりありませんか?  NYも大分暖かくなってまいりました。この頃よく雨が降りますが、去年の4月1日に雪が降ったのを思い出せば、今年のやわらかい雨(寒い時の雨は痛い)は、大歓迎です。  先週の土曜日、4月2日はジュリアードでチェロと室内楽の教授をしているチェリスト、アンドレ・エメリアノフとリサイタルをしました。シューマンのFantasystucke, ブラームスの歌の編曲と、ブラームスのチェロソナタ、一番を弾きました。16才で初めて室内楽を教わった時は、こんな日が来るとは思わなかった。ここ4年、彼の生徒達のレッスンを伴奏しているし、向こうも私の事をよく分かってくれているので、本当に楽しく弾けました。(こう来るかな)と思うとちゃんと来るし、(ついておいで)とこちらが揺らせば、本当についてきてくれるし、夢の様だった。今月半ばは、ドビュッシーのチェロソナタ、フランクのソナタ、そして小品の数々で又、リサイタルをします。本当に楽しみです。  私は今まで本当に暗中模索の無我夢中の我武者羅で、ただただ量を練習してきたけれど、この頃は一寸息を抜いて、距離を置いて、コンサートや美術館にたくさん行って、練習も鍵盤に向かって実際指を動かす練習を最低限に、楽譜や文献を読む時間を増やすようにしています。又、音楽が楽しくなってきました。  さて、締め切りを押してしまいましたが、今年の夏のプログラムです。「音楽に組み込まれた暗号」と言う題(そういう意味の題、もっと語呂が良いのがあったら、教えてください)。 このプログラムの中心は、シューマンの幻想曲になります。この曲はロバート(作曲家)とクララ(リストと並ぶ当時最高のピアニスト)が結婚する前、クララの父親の反対によって引き離されていた二人が曲に暗号を組み入れる事によってその愛を確かめ合っていた時期の究極的なロマン派の曲です。色々組み込まれているのですが、それをお客様に聞き分けていただく為には、まず、前半に簡単なモチーフを見つけていただく事だと思いました。ベートーベンは、私が弾きたいので弾きますが、ベートーベン以降、前半の全ての曲はソ#からド#への下降(舟歌だけは、ド#からソ#への上昇)を発展する事で成り立っています。これは、誰でも簡単に聞き分けられると思います。  それから、今年は前半はトーク無しでやってみようかとも思案中です。このモチーフは本当に簡単に見つけられると思うし、曲と曲の間に、私がピアノで「ポーン、ポーン」と弾けば、さらに間違いなく聞こえてくると思う。そうしておいて、後半の始まりで、モチーフの概念の簡単な紹介(前半の曲を引き合いに出して、説明する)、とそれがシューマンの幻想曲でどのように使われているかを説明する。「愛のテーマ」、「クララのテーマ」、「夜のテーマ」、「伝説のテーマ」など、こちらがてれてしまうくらい一杯あって、しかもその全てを手紙の引用などで立証できるのです。 あんまり一杯あるので、もしかして人手とスライドかプラカードがあれば、誰かに「クララのテーマ」、「愛のテーマ」などと、表示してもらうというのも、考えたのですが、これはどうかな。  リハーサルが必要になるし、それにお客さんの気が散っちゃうかもしれない。 ジョークになっても困るし(こっちは大真面目なので。 これを弾く事で、自分にも良縁が回ってくればいいと密かに思っている。)…それに、二つ以上のテーマが同時に出てくる時は、どうすればいいか、と言う問題もある。 前置きが非常に、非常に長くなりました。プログラムです。 ベートーベン    ソナタ(作品54、ヘ長調-11;56か              作品27-2嬰ハ短調「月光」-12;33              又は作品57へ単調「熱情」-23;59) バッハ       前奏曲とフーガ4番、嬰ハ短調、BWV849(10分くらい) ラフマニノフ    前奏曲作品3-2 (3分くらい) ショパン      幻想即興曲、作品66 (4;55) ショパン     舟歌、作品60 (8;27) ――――-――――休憩―――――――――――――――― シューマン     幻想曲、ハ長調、作品17 (32;49) どうでしょうか。 ご感想、お聞かせいただければ、幸いです。ぁ、それから、CD夏に間に合う様に創ってしまおうと思っていますが、ショパンのソナタとハイドンのソナタに、何を加えたらいいでしょう。案があれば、なるたけ早くお聞かせください。

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読書

 風邪の具合はいかがですか? 今風邪をひいている人がとても多いようですね。  私は今本をたくさん読んでいます。今は、同時進行で3冊読んでいます。英語、日本語、小説、短編、エッセイ、などなど全てちゃんぽんです。一時大流行した、”Da Vinci Code”(ダ ヴィンチのコード)と言う本を遅ればせながら、何所へ行くときも手放さずに夢中で読んでいたらば、地下鉄で”That`s a good book!” と通りがかりの人に大声で云われました。何所までが事実で、何所からがフィクションか分からないのが一寸曲者だけど、要するに、カトリック教会が自分の都合の為に歴史をどう、どれくらい捏造したか、さらにそれに対抗するため秘教が色々出来て、真実を象徴として語りついで行こうという、(大声で言うと、殺されてしまったりするらしい)彼らのメッセージを推理小説的に解いていく、と言う本(小説)です。確かにこの本が大流行した1年ほど前、タイムズ誌や、ニューヨークタイムズなどが、こぞって、秘教や、聖書に取り入れられなかった人の書いたキリストの話等を大きな記事にしていたし、この本に書いてある事の多くが事実である、という事は前書きにも書いてある。そして、それが本当なら、かなり愉快です。  しかし私が面白いと思ったのは、この本がベストセラーになったという現象です。この本は、それぞれの章が、とても短い。ハードカバーで読んでいるので、一頁が大きいのも事実だが、時には一頁に満たなかったりする。長くてもせいぜい4、5ページ。さらに秘教を守ろうとして殺された祖父が、死ぬ直前に自らの血で書いたメッセージを解いて祖父の無念を晴らそうと、ブロンドの美しい暗号解読者と、かっこいい中年の学者が、なぞを解きながら恋に落ちると言う、いかにも陳腐なストーリーに基づいていたりする。推理小説としても、とても思わせぶりなことを色々書いておいてから、トリックの種明かしをするので、謎解きがとても簡単で(もしかして、自分は平均よりも頭がいいんだろうか)、といい気持ちになってしまうが、きっとそれもマーケット戦法のうちで、皆がそうやって、気持ちよく読むから、売れるんだと思う。  しかし、「謎解き」いう事では、もう一つ読んだ”アムステルダム”と言う小説でも私は易々と解いてしまった。この小説では、ロンドンで首相候補の大きなスキャンダルを握った人が、そのスキャンダルを利用していいものかどうかに悩む、と言う小説だが、このスキャンダルが実際どういう類なのかは、かなり長い事明かされない。しかし私は二章くらい先読みして、(へへ、こんなの簡単だ、これは「女装」です)と分かってしまった。しかし、これは優越感を感じるよりも、なんだか自分の周囲の生活環境や、人間関係の超多様さを反映している様で、もしや自分は普通ではないのかも、と一寸あせったりもした。  久しぶりに子供の時のように夢中で本を読んでいる。とても面白い。練習も毎日しているので、ご心配なく。今日の大きなトピックは、運転免許の書き換え。待ち時間が長そうなので、読書が楽しみです。

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ニューヨークのインフレ

 ニューヨークでとても有名な ”Gray’s Papaya” というホットドッグ屋さんがあります。ウィンナーは少し小さめだけれど、玉ねぎのケチャップ煮とキャベツの酢漬け(ザワークラウト)をどっさりのっけてパンにはさんでくれます。ある映画ではホームシックな恋人の為に誕生日にそのホットドッグを中西部まで宅急便で送らせる、と言うシーンが出てくるほどのニューヨーク名物です。その理由はやはり美味しくてしかも安いからです。2000年にこのホットドッグは50セント(約60円)でした。しかし2002年に75セントになり、今年日本から戻って昨日はじめてこのホットドッグを買い求めたら、何と95セント(114円)になっていたのです!!これは4年にして倍の値上がり!  これは極端な例としても、ニューヨークの地下鉄1回の乗車料金も、私がニューヨークに住み始めた1993年に1ドル25セント(145円)だったのが2004年現在2ドル(240円)になっています。それに比べジュリアード音楽院から伴奏者に払われる時給は2000年の14ドル25セント(1710円)から値上がりはしたけれど、2004年現在16ドル(1920円)です。何か割に合わない、インフレを肌で実感する今日この頃です。  でも、私は今ジュリアードでとても楽しく毎日過ごしています。ここで正式に伴奏者として雇われた2000年、私は兎に角練習室が使いたかっただけで仕事は欲しくなかったので隠れてこそこそ一日中練習室にいました。でも段々と自信と気持ちの余裕が出てきて、ジュリアードにいることを大いに楽しもうと思い始めて、今本当に楽しいです。お友達も沢山できたし、上手い子と一緒に弾くと本当に刺激を得られるし、レッスンでも教授が生徒もピアニストも同じようにしごいてくれます。ヴィオラの先生に「もっとブラームスっぽい音を出して!」とヴィオラで手本を示されたりします。図書館も宝庫と言う感じで、練習中ちょっと疑問が湧いたら階段を一階駆け上れば何でもすぐ調べられるし、録音も一杯あるし、、、、、とっても幸せだなあ!

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私のコンサート

 皆さん、お元気でいらっしゃいますか。  私は日本での計7回のコンサートをおかげさまで好評の内に終える事が出来ました。今年4年目、だんだん恒例となってきて、毎年楽しみにしてくださるお客様も増えてきました。  今年は、新しい試みとして、2回ほど親子コンサートを開きました。身近な友人が子供を置いて外出できない為、コンサートにいかれないと嘆いている実態を見て、小さなお子さんのいらっしゃる親御さんへの単なる試みとしてやってみたのですが、需要の大きさもさることながら、泣き出されてしまうお母さんの多かった事に非常に考えさせられました。  これは、私の演奏がどうこうと言うよりも、泣く場所を必要とされている若いお母様が多いのだと思います。こういう場の必要性を感じ、今後の参考にしようと思いました。  又新たなエネルギーと課題を持ってニューヨークでの新しいシーズンを始めています。18日にジュピターでの室内楽コンサートは既にリハーサルを開始しました。いい感じです。  サン・サ―ンスの動物の謝肉祭は、二台のピアノを弦楽四重と木管のアンサンブルが支えます。ナレーターがそれぞれの曲の動物の音楽的描写を面白おかしく解説しながら進行します。白鳥、象、水族館、などに混じって、なぜか「ピアニスト」と言う曲も入っています…!ん?  ドビュッシーの「白と黒」という曲は、1915年に書かれた、ドビュッシーの個人的な戦争に対する反応です。 フランス国歌に似たファンファーレや、ドイツ軍のテーマ、そしてそれらがぶつかり合う戦闘の場面など、かなり直接的に描写が進みます。  ドビュッシーは、第一次大戦開始後、しばらく作曲をする事が不可能なほど鬱状態に陥りました。この曲は、鬱脱出直後に書かれ、二楽章は、戦死した友人に捧げられています。素晴らしい曲です。 18日月曜日の2pm、7;30pmと二回のコンサート 場所は 152 West 66th St. 詳しくは、www.jupitersymphony.com まで。 ご都合がよろしければ、是非いらしてください。  18日の直後の21日から、ポーランドから来米するポーランドのオーケストラとショパンの協奏曲1番で全米ツアーを一ヶ月ほど行います。 去年は、ショパンの2番でツアーに参加させていただきました。ポーランドのオーケストラや指揮者とショパンを弾ける仕合せを満喫しながら、貪欲にポーランドっぽさを吸収して、触発されて、演奏したいと思っています。  これから、紅葉の素晴らしい季節になりますね。皆様、気候の変化の最中お体にお気をつけられて、秋を満喫してください。

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55歳以上の人だけの街 サン・シティー

 今、私は西海岸に近いアリゾナ州からニューヨークに戻る飛行機の中です。昨晩、アリゾナ州のサン・シティーというところで私の大学時代に室内楽の教授だったK.氏の伴奏をしました。  K氏は大変多才な方で、ジャズ、クレズマー(東ヨーロッパのユダヤ人の伝統音楽、おめでたい時に演奏され、即興を沢山含む。リズムは123、123,12,123,123,12、スケールは中近東風)それにクラシックとこなし、今回のプログラムもこの3つのジャンルを交えて、私はブラームスのソナタ、ドビッシーのラプソディー、そしてカルーザックの小品を共演しました。打ち上げのときはジャズのパートを共演した人たちや、K氏のお父様でチャーリー・バーカーやビリー・ホリデーなど沢山の歴史的ジャズ奏者達の治療にあたった元精神科医に色々ジャズのエピソードを教えてもらい、私は今大変触発されています。  それにしても昨晩コンサートをしたサン・シティーというところはとても変わったところでした。アリゾナ州の首都フェニックスから車で一時間弱と砂漠の中にあるのですが、住民はすべて55歳以上でなければならないのです。夫婦の片方が55歳であればその伴侶も住民になれるのですが、仮に55歳以上の方が亡くなった場合、55歳以下の伴侶はすぐに家を売って引き払わなければなりません。  アリゾナは夏は40℃とか50℃とか、体温をはるかに超える非常に暑いところですが、冬が温暖で雨が少ないため退職した人たちが多く隠居してくるそうです。サン・シティーの他にもそういう「55歳以上に限る」という街が後2つあるということでした。話を聞いたときには暗いイメージを抱いてしまいましたが、一日だけにしろお邪魔してちょっと納得したかも、、、、  勿論、街の外からその街に働きに来ている人も沢山いるのですが、サン・シティーの住民で働きたい人はサン・シティーで働くわけです。一番印象に残ったのはコンサート会場となった高級レストランで働いていた女性です。たぶん70歳は超えていたと思いますが、タキシードを着こなしてきびきびと本当に楽しそうに働いていました。この人が仮にサン・シティー以外の場所で同じような職を得ようとしても、年齢のために差別を受けて難しいだろうなと思いました。その他に気がついたのはコンサートの聴衆、特に女性が驚く位華やかにドレスアップしていたことです。頭のてっぺんから靴の先まで真紅の羽飾りだったり、キラキラ光るドレス、アクセサリーどっさり、、、、等々実に堂々と華やかさを楽しんでいらっしゃいました。  日本を始めとする東洋とか、ちょっと話を聞いたところではアフリカ等でもお年寄りを敬う文化や習慣がまだ健在だと思いますが、アメリカではまずハリウッド映画界、テレビ、化粧品の宣伝等で年配者は美的感覚の対象からはずされ、次に資本主義では生産性の劣る人材となり、消費者としての価値も財産を沢山持たなければ落ちるし、、、ということでお年寄りが余生を楽しむというのが難しいのかもしれない。「年寄り」のレッテルを貼られて肩身の狭い思いをするよりは、同年代同士で楽しく、華やかに、賑やかに暮らしたいのかもしれない、と色々考えてしまいました。医学が発達して長生きが当たり前のようになりましたが、世代間の関係とか、どうやって始めから終わりまで充実した人生を送れるか、とか、その「充実」も個人的満足、幸せも勿論ですが,社会的貢献をどうできるか、等色々課題が残っているなあ、と思いました。  一泊二日の短い旅行でしたが、色々見て、聞いて、感じて、音楽共同制作して、とても楽しかった。

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