(The English translation of this review is here.)
タイトルにもある「核心」に徹した、シンプルかつ重要な本。
メッセージ性が明瞭でぐいぐいと引っ張られるように読んでしまう。
創造力=エンパシー(相手を思いやる勇気と能力)
STEAM人材=ヒューマニスト・人類主義者。
シリコンバレーのSTEAM人材をモデルに、
今後の日本社会に適した新しい人材像とその養育法を提示する一冊。
産業革命以来、各国が競い合ってきたのがSTEM:
Science(科学), Technology(技術), Engineering(工学), Mathematics(数学)。
これらはすべて数量化できる分野。なので前進にも競争にも、拍車がかかる。
ここに新しくArts(芸術)を加えたのがSTEAM.
ArtsをSTEMに加える実際的な理由はいろいろ文中に挙げられている。
- 「対象物の特性をつかみ取る」「意味を昇華させる」「3次元で考える」「体を使って知覚する」など、これまで芸術家が使ってきた技術的なスキルの多くが、STEM領域の学びに有用。
- 今まで関連性が低いとされてきた複数の領域をつないで、活動や学びを活性化
- 未完で在ることに対する包容性の高さ
- Artsがもたらす集中力、記憶力、学習能力、探求心、コミュニケーション能力などの向上。
そして実際にSTEAMを養成するための教育上の試みや具体的な例、さらにSTEAMを活かして活躍している前衛的なSTEAM人材もストーリー性豊かに本書では紹介されている。
STEAM教育現場では、生徒主体の体験ベースの学習:Project Based, Problem Base, Design Thinkingで生徒たちはそれぞれの発見を積み重ねて、個性と自信と知識を育んでいく。
そしてSTEAM人材は「デザイン思考」を駆使して、潜在的なニーズにうまく答えたイノベーターたち。
「デザイン思考」とは「なぜ作るのか(WHY)」「何を作るのか(WHAT)」「どう作るのか(HOW)」を模索するプロセス。それは実際的な製品だけではなく、体験・概念と言った抽象的なモノにも適応される、世にあるすべてを対象にした営み。
既存の枠組みにとらわれずに大胆に発想し、柔軟かつ濃厚なネットワークで
答えの無い問いでも追い続ける、探求に対しての真摯な姿勢を持って
複雑化する世界に対応していく能力を養成するのがSTEAM。
しかし、本書が一番強調しているのは、STEAMとは新しいヒューマニズムだ、と言うことだ。
STEAM人材とはAI時代に、人間性を大切にし、人間性を取り戻そうとする新しいヒューマニスト。
本書からの引用でこの書評を締めくくりたいと思う。
「人間を取り巻く環境が、かつてない大きな変革期を迎えている21世紀。科学技術は日々飛躍的な進歩を続けています。そのような時代に私たちが直面している真の課題は、より新しい商品を開発して競争に勝つことでも、より多くのテクノロジーで世界を満たすことでもありません。真の問題は、この世界を、すべての人間にとって優しい場所にできるかと言うことではないでしょうか。人類にとって本当に役に立つものを作りたい。人間とは何かを問い続けたい。専門性を研鑽し続けながら、それぞれの熱い想いを活動につなげる最先端のSTEAM人材たち。彼らこそ、次世代のポスト情報社会がどう進むべきかの道筋を示す、21世紀を牽引する人材なのです。」
おこがましいようだが、私が音楽でやろうとしていることが如実に記されている。
なんだか鬨の声を上げたくなる。
ヤング吉原麻里子・木島里江共著「世界を変えるSTEAM人材:シリコンバレー『デザイン思考』の核心」朝日新書出版。初版2019年1月30日。