ピアニストが大学で仕事を得る方法
今日は、博士課程セミナーが在った。 今日のトピックは「大学で仕事を得る方法」。 音楽家が博士課程の勉強をする理由の大きな一つは、大学で教職を得たかったら博士課程は大抵必要、と言う事が在る。ライスの音楽の博士課程はそのことを念頭に、いかに大学側にとって魅力的な卒業生を作り上げるカリキュラムとなっている。博士課程に入学して最初の学期にまず、大学でのポジションをゲットする為に必要な履歴書の製作、面接に向けての訓練、大学側が何を新規採用の教授に求めているのか、大学で仕事をするという事がどういうことか、教わる。 今日のクラスではまず、大学の教授の階級から教わった。 アメリカの大学では、教師のポジションは大きく二つに分かれる。 Tenure と Non-tenureである。 Tenureと言うのは、終身雇用の事である。Tenureが付くと、余程の事が無い限り死ぬか退職するまでその教職は自分のものである。これは、仕事や収入の安定をを保障する事で、少数派・急進派の見識を、学者が自由に発表出来る事を目的に出来上がったシステムである。Non-tenureと言うのは、大抵一年ごとに契約が更新され。 Tenure と Non-tenure はさらに細かく分かれる。 Non-tenure 1) adjunct; 各学期、クラスごとあるいは自給でお金をもらう。ベネフィットは付かない。(ベネフィットと言うのは、健康保険や退職年金積立の事で、給料の平均35%の額だそう。アメリカでは健康保険が異様に高いので、これは死活問題である。)このポジションは使われ放題。経験を積むには良いが、支払いが少ないので他の収入源と掛け持ちになり、パート・タイムなのでそのポジションの為に遠くまで通わなければいけない場合が多く、本業(例えば練習)がおろそかになり、本末転倒になる危険性がある。そしてここで本末転倒になると、他の教職に応募した時余り良くない。ここで行き詰まりになってしまう可能性がある。 2)Instructor(または、Artist Teacher): 正規雇用で、給料で支払われ、ベネフィットが付くが、一年ごとに契約更新。いつ首になるか分からない。 Assistant(Tenure-track); まだtenureは付かないが、tenureにつながる可能性の強いポジション。 ベネフィットが付く。3年ごとの契約更新で、大抵6年目くらいに業績の査定が行われ、これに受かればTenureがもらえる。 Tenure 1)Associate Professor、多分日本の助教授と同じ。Tenure が付き、教授との違いは給料の額だけ。 2)full Professor、多分日本の教授と同じ。Tenureが付き、給料が高い。 ピアノの場合、最近では一つの教職に80人~200人の応募が在るそう。そしてピアノの教授と言っても、ピアノを個人レッスンするだけではない。室内楽、伴奏の技術、初見や移調のクラス、ピアノ科で無い音楽学生の副科ピアノや、音楽課程で無い一般科目専攻の生徒のピアノ・レッスンや時には自ら伴奏をすることを課す応募も在る。音楽理論や聴音を教える事を課す応募も在るし、在るいは一般科目専攻の学生の為の「音楽一般教養」や、一般教養としての音楽史を教える事を課す応募も在る。それはまだ良い方で、不景気の世の中、中にはチェロの教授の応募の中に「ダブル・ベースも教えられること」と含む応募も在るそう。 他にも面接の時のエチケットとか、履歴書の書き方、仕事をゲットした場合の給料交渉の仕方まで、今日は2時間半で耳から情報がこぼれそうなくらい、沢山の事を教わった。頭がぐるぐるしている。 今日一番びっくりしたのは、tenureと言う、学会における終身雇用のシステムが無く成るかも知れない、と聞いた事だ。学校側からすれば、終身雇用の教授と言うのは、昇級しなきゃいけないし、中々高くつく。今教育産業が不景気な中、資本主義的な考えから、儲かる学校運営と言うのが流行っているそう。そして、その流れから行くとtenureが廃止になる可能性が在るそう。しかしそうすると、学校という組織の中で教授の立場がとても弱く成る。理想的な教育という視点から言うと、恐ろしい事である。