日本のミュージャック

帰国してしばらくは、美容院、歯医者、眼医者、などなど、雑用が多い。 日本の方が丁寧でサービスが良いし、医療費はけた違いに安い。 大抵は検診で無事終わるが、治療が必要な時の為に、限られた帰国の一番最初に全て周ってしまう。 昨日、歯医者で古くなった詰め物を入れ替えてもらって、麻酔でばかになった唇をだましだまし、ゆっくり菓子パンを食べながら次の美容院の予約までの時間を潰していた正午、突然不思議な感覚にとらわれた。(この曲、何だろう。)パン屋の空気にかすかに漂っている音楽。絶対に良く知っている曲なのに、何の曲だったか思い出せない。旋律を一生懸命追いながら、頭の中を必死でぐるぐる探し回る。 あ! 分かった! フォーレのレクイエムと良く一緒にペアで演奏される、合唱とオーケストラの為の小曲、作品50の『パヴァーヌ』と言う曲で在る。しかし編成が全く違う。合唱の部分が楽器演奏になっているし、そもそもテンポも、雰囲気も違う。何しろ、機械的な編成、演奏、そして録音なのである。「お母さんと一緒」とかそういった番組のBGMみたいで在る。その後、ショパンの嬰ハ短調のノクターン(遺作)とか、歌曲などが次々と流れてくるが、全て似たようなオーケストラへの編成が施され、どんな曲想でも、大体メトロノーム72位(大体心臓の拍の速さと同じ)でたんたんと流れ続ける。 それだけならまだ良かったのだ。パン屋だけなら。今朝行った歯医者で私は全く同じフォーレを聞かされる羽目になったのだ。これはどうしたのだ! 誰の仕業だ!どういう陰謀だ! 日本はミュージャックにハイジャックされてしまったのか!? こんな非音楽的な音楽を意識せずに色々な待合室や店で一日中聴かせられる日本人はどうなってしまうんだろう? 思わず歯医者の受付で聴いてしまった。「このおかけになっている音楽はCDですか?」。。。有線放送だそうだ。でも私は予約の前に行って、清算を済ませて帰るまでの一時間強でこのフォーレを二回聴いたのだ。どう言う有線放送なんだ。何を考えているんだ? 誰がこんな編成をし、誰が雇われてこんな味気ない演奏をしたんだ? 本当に一人ひとりの奏者がブースに入ってヘッドフォンでメトロノームのクリック・クリックを聞きながら何も考えずに弾いているような演奏なのです。 日本の町=要耳栓。脳みそが侵略される。。。

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