このブログエントリーは日刊サンに連載中の隔週コラム「ピアノの道」♯116を基にしています。
“How do you get to Carnegie Hall? (カーネギーホールへの行き方は?)”
“Practice, practice, practice… (練習、練習、練習…)”
この英語のなぞなぞ、有名ですよね。クラシックの殿堂であるNYのカーネギーホールへの道順を尋ねているかと思いきや、「練習しなきゃカーネギーデビューは無理だよ!」という何だか説教じみた落ち。
NYのミッドタウンにあるカーネギーホール。私も1998年にデビューしました。(画像の著作権はこちら)
「指から血が出るまで」「食事も練習しながら」「寝る間も惜しんで」など、根性ものの偉人伝は多いです。幼いベートーヴェンは寝床から叩き起されてステージパパにしごかれた逸話が有名です。今は亡きジュリアードの恩師に「本番を終えて夜遅く帰宅後、次の本番に向けて食べながら練習してたら寝てしまって…朝起きたら口の中にまだ中華料理が残っていたんだよ…」とちょっと自慢げに打ち明けられたこともあります。
でも最近の脳科学の研究によると練習の量と上達とは必ずしも比例しないんです。例えばNIHが2019年に行った実験。被験者にタイピングの練習と休憩を10秒ずつ交互にやってもらうと、休憩中の脳波が練習中の脳波よりも何倍も活発で、実は休憩中に脳内での学習が行われていたという結果が出ました。
そして研究に頼らずとも実は我々、こういうことは経験で知ってたりもするんです。
「練習中に電話取った後ってそれまで難しかったところが急に弾けるようになってたりするよね~。」「うんうん、あるある~!」こんな会話をしていたのが音楽学生時代。
睡眠と記憶・学習・健康の関係性についての本「Why We Sleep(邦題『睡眠こそ最強の解決策である』(2018))もベストセラーになっています。この本によると睡眠は日常に貯めた短期記憶を長期記憶に変換したり、脳の不純物を洗浄し、創造力や対応力を高めるだけでなく、心身をより健康にし、免疫力を高め、平均寿命までをも長くするんです。