明鏡日記⑮：収録大成功ー感謝です！

昨日は本当に久しぶりに本領を発揮した気がしました。

朝7時半にドレス3着とメークやアクセサリーと楽譜と食料とかなりの荷物をもって家を出ます。野の君が約束の梅干しのお握りだけでなく、遠足の時にお母さんが作ってくれたのとそっくりのおネギたっぷりの卵焼きまで焼いてお弁当にしてくれました。勇気百倍！

昨日の会場はサンタモニカの海岸から歩いて5分もしない教会です。コロナ前は色々な音楽団体が演奏会場に使っていた教会ですが、割と残響が多いです。ピアノはスタインウェイのフルコン。フルコンでまた弾ける日がこんなに早く巡って来るなんて、感涙です。

調律師さんや、録音技師さんと、まずピアノの位置を一緒に考えます。私は低音を響かせて土台がしっかりした深みのある重厚さを出したいのですが、この会場の音響とこのピアノは、高音の方がよく響き、輪郭がはっきりした共鳴になっています。それから会場の形がいびつで、壁が90度で無いため、複雑なエコーが微妙な音のさざ波を作っています。残響を抑え、低音を響かせるために、ピアノを奥の壁ぎりぎりに置いて、更に少し斜めにします。これで随分私のイメージしている音に近くなりました。

その後、調律師さんが調律している音で、会場を歩き回り、音響を確かめ、どう弾けば一番この会場とピアノのコンビの良さを一番活かせるか考えます。でも今日の本番は収録で、生演奏ではない。この会場とピアノが一番綺麗に響く事を考えるよりも、録音で一番綺麗に残せる事を考える。これは結構曲者です。自分が気持ちよく弾いていないとそれが正直に演奏に出てしまいますが、私が会場に投げかける音がその後デジタル化される音とは違う。物凄い想像力を要します。武者震い！

その後はモーツァルト、ドビュッシー、ラヴェル、ショパン、バッハと弾き進みました。こんなに真剣に音を造るのは久しぶりです。本当に全身全霊で弾きました。（ああ、これぞ私が一生かかって培ってきたものだ）と思いました。

「寝食を忘れて」と言いますが、私は昨日はトイレも忘れていました。もじもじと録音技師さんに「大変申し訳ないが、ちょっとトイレ休憩を．．．」と言われ、初めて（おお、そう言えば私はどうなんだ？）という感じ。そして空腹感は無いのですが、マイクに音が入るのではと思うくらいお腹がギューギュー鳴って（それでは野の君が作ってくれたお握りを．．．）と思い出します。梅干しの丁度良い塩加減に感激するものの、でも気がせいて、一口食べたらもう早くピアノに戻りたくなってしまいます。（兎に角砂糖を補給しなくては．．．）とバナナを時々口に含み、それから水だけはテイクとテイクの間にごくごくと飲みました。

やっぱりフルコンは違う。低音がどんどん深堀り出来る。早い音が面白いように転がる。どこまでも弱音を追求できる。余韻が長い。影の濃淡が想像通り緻密に付けられる。ずっとずっと思い描いてきた音世界が、今私の周りに広がって、私はその中でやっと安堵の深呼吸をしている感じです。バッハとモーツァルトとドビュッシーとラヴェルは、同じピアノで弾いても、全く違う世界を提示して来ます。私はその中で作曲家と一緒に踊っている感じです。

気持ちだけは（いつまでも弾いていたい！）と思うのですが、（ミスが多くなってきたな）と思い始めたのが４時半位。疲れたという自覚は無いのに、指が気持ちについてこない。そして弾きながら意識が瞬間的に飛んでしまう。それからまだ粘って、結局最後のテイクが終わったのが５時半位でしょうか。

最後のテイクが終わって急に空腹に気が付きました。おにぎりと卵焼きと蒸かしたサツマイモと残りのバナナを一気に完食しました。そこから一時間運転して家に帰るのは結構辛かったです。普段は頭痛を余り経験した事が無い私が、頭頂が熱く感じ、目の奥がギュンギュンと痛むのです。更に全身疲労。指や腕がジンジンして、なぜか足も筋肉痛の予兆。そう言えば満身込めて、最弱音を造る時に、足を踏ん張っていました。そして運転中、意識が飛びそうになります。眠ってしまいそうになるんです！．．．危ない。幸い無事故で家に着いたのが19時半。泣きたいくらい疲れていたのですが、野の君と焼肉とビールで祝ったら頭痛が止み、更に一晩ぐっすりと爆睡したら今朝は元気でした。

編集のプロセスを経るので、公開まで今しばらくかかりますが、予告編を数日後に公開できると思います。お届けできるのが楽しみです。そして感謝。本当に感謝です。好機にも、ご縁にも、そして音楽にも！とっても幸せです。