FMブルー湘南で毎週土曜日の朝10時半から放送されているクラシック音楽番組「スカッとスカぴあ」。横須賀ゆかりのピアニストグループ、スカぴあメンバーが交代で担当しています。今月は私。2週目の昨日の放送では、この夏リリースされたアンサンブルMATIMA(Matima.org)のアルバム「100年:初期ベートーヴェンと晩年のブラームス」についてお話ししました。
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放送用の原稿です。
『横須賀ゆかりのピアニストグループ、スカぴあメンバーが送るクラシック音楽番組「スカッとスカぴあ」の時間です。今月はヒューストンからスカぴあメンバーの平田真希子がお送りします。
私はほぼ2~3年おきにソロ・アルバム・リリースすることを自分に課して来ました。そして本当にお陰様で今年の夏7枚目をリリースすることが出来ました。最新アルバムは題して「100年:初期ベートーヴェンと晩年のブラームス」。1794年に書かれたベートーヴェンのピアノ・ソナタ第一番と1895年に書かれたブラームスのピアノとクラリネットのためのソナタ作品120をおさめています。
まず最初に、今年の私が日本で6月に演奏したプログラム「『天上の音楽』vs。地上の英雄」で後半に弾いた、ベートーヴェンのソナタ、作品2-1から4楽章をお聴き頂きましょう。
(アルバム『100年』より、トラック4:5分28秒)
さて、今までソロアルバムをずっと6枚録音して来た私ですが、今年のアルバムではベートーヴェンを独奏している他、ブラームスのソナタで私の2011年以降の心の友でありデュオ・パートナーであるヒューストン在住の佐々木麻衣子さんと共演しています。
私は音楽の大儀の一つにはコラボレーションと言う事があると思います。例えば私が独奏したとしても、作曲家、ピアノ製作者、会場設計家、ピアノ調律師、会場のスタッフ、企画・運営スタッフ、広報係、そして聴衆の皆さんは、その音楽会とその思い出を協力して創り上げるコラボレーターです。独奏の時は特に私は、お聴きくださっている皆さんが本当に私の音楽に乗ってくださるように、「せ~の!」と号令をかけるつもりで弾く前に息を吸い込み、会場の息の根に気を配りながら演奏しているつもりです。聴衆の方には一緒に体を揺らしてもらったり、メロディーの抑揚に合わせて心の中で一緒に歌っていただきたい。独奏の醍醐味は、聴衆と直接「コラボレート」が出来る事です。
でもやはり、気心の知れ、音楽性の合う共演者と音楽を奏でる、と言うのには独創とは違った音楽の醍醐味があります。麻衣子さんとは2011年の東日本大震災の復興支援のチャリティーコンサートで協力をしてからこっちずっと色々な形でコラボをさせていただいていますが、気が合うと言うのでしょうか?一緒に弾いているとちょっとした目線や息遣いや、フレーズの持って行き方などで相手がどうしたいか、次にどう来るか、全てテレパシーの様に分かってしまうのです。考えなくても体が一緒に弾こうとして、自然と息があってしまう感じ。まずは私と麻衣子さんの息ぴったり感をアルバムからお聴きになってみてください。ブラームス作品120の1より1楽章です。どうぞ!
(アルバム『100年』よりトラック5.8分36秒)
どうでしょう?ご購入されたくなったでしょう?平田真希子最新アルバムwith クラリネット奏者佐々木麻衣子。題して「100 Years: Early Beethoven and Late Brahms」by ensemble MATIMA. CDBaby.com, iTunesなどで好評発売中のほか、平田真希子のライヴ、MATIMAのライブでもお買い求めいただけます。
このベートーヴェンのピアノソナタ一番とブラームスの作品120には、1794年から1895年の101年の年月があります。これは西欧変動の100年でした。フランス革命を始め政治革命も色々あります。思想革命がフランスの啓蒙主義からドイツの観念論哲学へと進み、カントが唱えた「主観的な世界と客観的な現実」のギャップを超えるためには抽象的な美の観念が必要とされ、結果歌詞の無い器楽曲が最も抽象的な芸術として崇高されるようになります。そして産業革命が人々の生活を大きく変えていきます。最初の蒸気機関車(Steam Locomotiveの頭文字を取ってSL)が走ったのは1802年だとされています。ピアノと言う楽器もこの100年でどんどん大きく、複雑に、重厚になっていき、さらに大量生産されるようになります。そして1821年『コンポ二ウム』と言う機械が発明されます。これは初期のアルゴリズムを使って2小節を組み合わせて合計80小節の曲をその度に新しく作曲する、と言う機械です。
私たちは今どんどん発展するテクノロジーの日常介入に戸惑い、色々不安を抱えています。自ら学び、人間の指示を仰がずとも決定する力を持つAIによって私たちの生活・人生はどうかわっていくのでしょうか?その現在の私たちの不安は19世紀の人々の不安に似ているのではないか、そしてその不安の中でも音楽に正直で一生懸命な自己表現を委ねたベートーヴェンとブラームスの人類愛に、私たちは思いを重ねました。
最後にブラームスのピアノとクラリネットのためのソナタ作品120の1の最終楽章をお聴き頂きながら、今日はお別れしたいと思います。ヒューストンからスカぴあメンバーの平田真希子がお届けしました。クラリネット奏者の佐々木麻衣子さんと立ち上げたアンサンブルMATIMAと、私たちのアルバム『100年:初期ベートーヴェンと晩年のブラームス』をよろしくお願いします。
(アルバム100年:トラック8:5分29秒‐時間になったらフェードアウトしてください)」