演奏会に視覚芸術を取り入れることの是非

昨日「ブルーライダー」と題した音楽会に行って来た。これは、1911年から1914年にカンディンスキー率いる画家が集まってミュニッヒを中心に行われた絵画の一派で、ドイツ語でDer Blaue Reiterと言うのを英語に訳した物だ。私は全く知らなかったのだが、カンディンスキーはショーンベルグと親しい友達で、第二ウィーン楽派の12音階技法に非常に傾倒し、自分が絵画でやろうとしている事を音楽でもやっている、と喜んだらしい。彼らは色々な芸術表現の方法を一つにまとめられないか、と協議し、ショーンベルグは自ら筆をとって絵を書きDer. Blaue Reiterの展示会に出品したりもした。昨夜私が行った演奏会はこの事にヒントを得ている。ショーンベルグや、彼の弟子で在ったベルグなどの作品、それからこれまたカンディンスキーが気に入っていたスクリャービンの作品などを、カンディンスキーの絵画を基にデザインされた光の投影を背景にピアノ独奏や、歌曲の演奏で行う、と言う物だ。
私はとても楽しみにして行ったのだが、ちょっぴり憤慨して帰って来た。
演奏会に他の芸術を取り入れる、と言う試みは色々なところがやっている。例えばロサンジェルス・フィルハーモニックは「トリスタン・プロジェクト」と名付けられた演奏会のシリーズで、ワーグナーのオケ曲を演奏しながら巨大なスクリーンに抽象的なイメージ(例えばろうそくの火が5分くらい近くなったり遠くなったりしながら写っている、とか、木のシルエット、とか、海、とか)を投影しながら行った。何だか訳が分からん、と言うのが正直な感想だった。他にも踊り子や振付家と共演する、とか、詩の朗読を曲の合間に挟む、とか色々な人が色々な事を試みている。
でも、音楽と言うのはとてもとても繊細な物だ。
掴みどころが無いから、いつも刺激を求める現代人には物足りないのかも知れない。でも、掴みどころが無いから受け止める一人一人が、その時に必要な物をそれぞれ受け止められるのであって、言葉で言えない位繊細で微妙な事を表現するのが、音楽のだいご味なのではないか。それをわきまえないでこう言う「共演」をしてしまうと、音楽はBGMになりやすい。そして、あくまで音楽を引き立てようと気を付けると、今度は視覚芸術の方が「??」となりやすい。
今回の演奏会は音楽も、視覚芸術もどちらも共倒れの大失敗だと私は思った。
まず、光の投影を効果的にするためか、客席は合法ギリギリの所まで真っ暗にされた。プログラムには歌曲の詩の訳しが在ったのだが、これでは全く読めない。さらに、舞台上にしずしずと出てきたピアニストと歌手は真っ黒のドレスを着て、プログラムの一番最初と最後に儀式の様にお辞儀をしただけ。曲と曲の合間に拍手をするな、とプログラムに書いてある。何だか、演奏が一種の儀式みたいなのである。聴衆が居ても居なくても全く変わらない演奏を、第三者として傍観している感じ。そして投影されるイメージはこれまた音楽との接点が何だかよくわからない、思わせぶりな抽象芸術。唯一ハッとさせられたのは、99%舞台上に集中していたこの光のイメージがぐんぐんと聴衆側に伸びて来た時。しかし、これが起こったのはベルグのソナタの最後のスクリャービンの「焔に向かって」の最後で、調性がはっきりと出て来た時だけだ。第二ウィーン楽派のこのプログラムで、調性だけが聴衆につながりえるものだ、と言うメッセージを伝えたかったのか?無調性の音楽は表現主義でもある、と思っていたのだが(カンディンスキーも)。。そして、演奏はと言えば、まるで光の投影に表現力を全て託してしまった様な、誰かの練習を聴いている様な、そんな風に訴えかける物に欠けた演奏だった、と私には思えたのである。
う~ん、酷評し過ぎただろうか。。。? 言いたい放題書いてしまった。失礼。
私の期待が大きすぎたのです。それにちょっと寝不足だったのです。

2 thoughts on “演奏会に視覚芸術を取り入れることの是非”

  1. ピアノの時間、見ました。選曲が良かったですね、みんなが知っていて、黒鍵のアクセントもすんなりと判りました。耳はちゃんと聞き分けるのに、いつもいつもスケールや音階・和声などなどの用語にとまどってしまうのは、こどものころ音楽をきちんと勉強しなかったせいですね。次回も楽しみにしています、そのために楽典を読んでおこうかな(笑)

  2. >S.kawashimaさん
    ありがとうございます。「きらきら星変奏曲」はきらきらボしですが、やはりモーツァルト、奇麗に変奏されていますよね! これからもご覧になってください。ちなみに楽典の本よりも、音の物理の本や、古代ギリシャの哲学者が音楽について語っている部分を読んだ方が、アブロスさんには面白いと思います。
    マキコ

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