美笑日記5.31:全身全霊の本番翌日

昨日、演奏会場に向かう道中、不思議な体験をしました。

南カリフォルニアの5月は「Gray May(灰色の5月)」と呼ばれます。冷たい海流が海面の気温を上空より低くするために、湿気を含んだ冷たい空気層が「マリンレイヤー(海の層)」と呼ばれるべったりと張り付いたような曇り空を作るのです。ところが昨日の夕方、その曇り空が割れて、私が向かう方向に神々しい光の柱が何本も立っている状態になったのです。

光の柱を発見して、まず私は様々な宗教画を思い出し、それから気象現象として「Gray May」やその結果の自分の心理状態の解説を試みました。そして(いやいや、違うでしょ)と思い直したのです。

私は約1か月前の秘儀体験で実は大きなことを教えられたのだと思っています。一般的にトラウマとされるような体験をいくつか経てきた私は、(いつかこの事を書くぞ)と思う事で、むしろそれぞれの体験を面白がって乗り切ってきました。でも、その為に私は理性過多な人間になったと思います。成す術が無い状況に追い込まれて、観点や考え方を変える事で自分を守ってきた。その代価として、私は素直に感性で動く事(動かされる事ーすなわち『感動する事』)を良しとしない人間になったと思います。現代を生きる一般人としてはそれはむしろ強みになるかも知れない。でも、私はあくまで『あーちすと』です。それが更なる成長の妨げになっている、と秘儀で気付かされたのです。

神々しい光の柱を冷静に「観察・分析」している自分に気が付いた私は、脳神経科学の研究を通じて得た知識を自分に応用してみました。目力を強くしている状態(目玉をやや上方向に向け、見ている対象を見据えている状態)は、前頭葉(集中力・論理などを司る。脳の中でも比較的新しい部位)を起動させます。逆に視線を柔らかくし、やや下方向に向けると、直感や本能により近い状態になります。座禅の際言われる「眼は見開かず細めず自然に開き、視線は前方におと」した状態です。この視線で光の柱を観た私は、この光景に圧倒されたのです。「自分自身がその光の柱になったような感じ」といったら大げさですが、でもそれに近い。

ああ・・・多分ああいう状態を「心を奪われた」と言うのだと思います。

光の柱は運転中に観たので写真はありません。
代わりに数か月前に観た虹の写真をあげます。

「理性や観察・分析で困難を乗り切る」私の習性は、私のピアニストとしての日々の練習や演奏にも影響を及ぼしてきています。その全てがネガティブではない~強みになることもあります。私は子供のころから「頑張り屋さん」と言われて来た。大人になってからは「真面目」と褒められたリ、煙たがられたり、馬鹿にされたりしてきました。

煙たがられるのも笑われるのも、全て納得です。自分でもうざい。でも、自己満足感もある。

でも...これも秘儀体験の結果か。頭でっかちには限界があると気が付いたのです。理性と感性と愛情のバランスがないと、歪になるのです。

私は最近、バランスボールに腰かけて、両足を踏ん張ってバランスを取りながら、踊るようにピアノを練習しています。鍵盤の上限と下限を行ったり来たりするような超速パッセージは、体全体で振り付けを練習するように弾きます。太ももが筋肉痛になります。

全霊は、全身を使ってはじめて込められる。音楽は頭と指先だけでは、極められない。「ピアノ弾き」にはなれても、「音楽家」には、そして「表現者」にはなれない。

昨日の演奏会は、手放しで喜んで頂けた。でも、もっともっと行ける。まだまだできる。反省用に撮って来た動画を見直しながら、練習の日です。もっともっと弾きこんで、奏法や様式を明確化し、そして演奏時にはダイナミックなバランスを醸し出して、人と人以上の繋がりを生み出す。

反省点の覚書

  • 無駄な力を込めて、気持ちを込めたと勘違いしない。
    • 投げ網の漁師さんを思い出す。体幹と重心。後は勢いと体の伸び。脇の下を使い切る。
    • 体の末端に力が入っても無駄。大きな筋肉を使う。後は勢い。
    • 肩が上がったり、頭が動いたりするのは、重心が座っていない証拠。
  • 頭でっかち尻すぼみを直す
    • 小節もフレーズも曲も、出だしは集中して、終わりを無意識に弾いてる。語尾までしっかり発音。
    • 同じく上昇形は過分に意識して、下降系はおざなり。
    • 親指側に意識が集中し、小指側がおざなり。上の2つと関係あり。反省。
    • 吸う息ばかりに集中して吐く息が無意識なのも同じ。
  • 「派手な音」と「大事な音」をしっかり分けて考える。
    • 高い音、速い音は装飾音が多い。気を取られ過ぎると本末転倒になる。
    • 土台や骨組みの大事な音は隠れている事が多い。見失わない。意識する。

1 thought on “美笑日記5.31:全身全霊の本番翌日”

  1. お疲れ様です。
    日々の精進に感服します。
    『あーちすと』であれば当然との見方もありますが、
    他者が成し得ない音作りに、MAKIKOSpecialがあるわけで、
    それが渾身の演奏となり、感動の嵐に繋がります。
    小川久男

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