明鏡日記㉟:コンクールの審査をしました。

ボストンで1910年に設立された地域の音楽学校。今では毎週のべ4000人の生徒に何らかの音楽教育を提供しているそうです。その学校が毎年恒例に行う28年の歴史あるコンクール。去年と今年はヴァ―チュアルで行われました。生徒がヴィデオ録画した演奏を提出し、審査員が評価します。

今朝一位・二位・三位と佳作を決めるオンライン会議で審査員が集まりました。私たちは最終審査まで勝ち残ったヴィデオを予め観て採点を付け、感想を書いて提出をすでに終えていました。

私たちが今回審査したのは「高校生以下」のカテゴリー。年齢は明らかにされなかったのですが、一番小さい子は小学校低学年でしょう。年齢一桁の子が14、15歳と競うのはかなりのハンデです。

最終選考に残ったのは10人。ピアニスト8人、ヴィオラ奏者1人、そしてミュージカル歌手1人。中々面白かった。考えさせられることが沢山ありました。

審査は非常に難しかったです。何しろ条件のばらつきが幅広い。

家での収録が多いので、生活環境と家庭環境の違いが如実に見えます。明らかに高そうなビデオカメラで親御さんがグランドピアノで演奏する我が子を映している画像もあります。スタジオで収録されたビデオすら10本中2本ありました。一方、強弱もつけられないような電子ピアノで後ろで掃除機の音がするようなお家で一生懸命モーツァルトのソナタを弾いている画像もあったのです。ちなみに今回8人いたピアニストの中で、電子ピアノでの応募は3人、アップライトが2人、グランドピアノは(貸しスタジオも含めて)3人でした。

出場者の年齢は明らかにされなかったのですが、小学校の低学年から14、5歳まで。この年齢差は大きいです。更に年齢が若ければ若いほど、どこまでが本人の意思・思考・思い入れ・努力で、どこからが親や教師かという線引きが、演奏からのみでは分かりにくくなります。年齢が上になればなるほど、そういうのは演奏に反映されてくるのだなあ、というのも今回の発見でした。小さな子供には親や周りの大人を喜ばせたい、彼らの承認や愛情をゲットしたいという気持ちが大きすぎて、本人と周りの大人の境界線がぼけやすいのだと思います。上手に弾けているけれども楽しそうでない子には、私は賞を上げたいとは思えませんでした。他の審査員も同じ意見でホッとしました。それよりも演奏にムラがあったり、曲の難易度がそこまで高くなくても、本人がどう弾きたいのか、どうしてその楽器・この曲を弾きたいのかが伝わってくる演奏やそういう演奏者の将来性を評価したいと思いました。

びっくりしたのは、最終審査に残った10人の半分が楽譜を使っていたことです。さらにその中の3人は明らかに譜で音を確認しながら弾いていました。その段階では音楽性などは評価できません。「姿勢」「強弱」「音質」「テンポの一定性」「リズム感」などを数字で点数をつけ、その後に「テクニック」と「ミュージシャンシップ(和訳すると「音楽性」)」に分けてコメントするのですが、私はこの「譜読み段階」の10代のエントリーには「ミュージシャンシップという言葉をスポーツマンシップと同意語だとすると、聴き手の事を全く考えないでこの録画でエントリーしたあなたにはミュージシャンシップは無いという事になります。」ときつい事を書いてしまいました。審査員の評はそのまま参加者に届きます。私が言わんとしている事が上手く伝わると良いのだけれど。

面白かったのは、10代の参加者は多くがスマホでの自撮りだったのですが、最後の和音を弾き終わった瞬間に、まだその和音をペダルで鳴らしながら「ブチッ」と切ってしまう事。それから小さなお子ちゃまの中に数人、物凄いカメラ目線で凝視しながら弾いてる子や、カメラが気になって「チラッ」「チラッ」と何度も観てしまう子が居ました。かわいかったけれど、これはやはり周りが注意してあげるしかないようなあ。でも私だって「他人のフリして我がフリ直せ」の所もあるのですが。

でも何と言ってもパンデミックの15か月を乗り越えてこのヴィデオを録画するまでに練習を続けた本人たち、そして若い音楽家たちを支えた家族の人や先生たちには拍手喝采です。

6月28日(日)の14時(米西海岸)にYouTubeで公開イベントが在ります。日本時間だと6月29日(月)の早朝6時という非情な時間なのですが…5月11日に収録した演目です。今日はその予告編をここにシェアします。

4 thoughts on “明鏡日記㉟:コンクールの審査をしました。”

  1. お疲れ様です。

    審査員となれば、ピアニストの実力が試されますね。
    今どきは譜面ありで受験とは恐れ入りました。
    譜面に託した作曲者の尊厳を踏みにじる行為です。
    さて,真紀子審査員にも栄冠は輝くのでしょうか。
    結果が楽しみです。

    小川久男

  2. いつも拝見しております。

    若い音楽家にとって、
    プロからのコメントが、
    励みや良き賜物になるといいですね。

    1. コメントありがとうございます。
      仰る通り、ブログもそうですが、私の発信する言葉や音が周りの何らかのお役に立てれば本望です。
      これからもよろしくお願いいたします。
      平田真希子

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