美笑日記3.29:弾丸出張の前後

3月13日(月)にロサンジェルスを出発し、3月22日(水)まで日本に弾丸出張に行っていました。日本に向かう飛行機の中で書いた日刊サンに隔週掲載中の「ピアノの道」コラム#101がこちらです。

「どうしてそんなに速く弾けるのですか?」演奏会にいらしたお子さんにびっくりしたように聞かれる事があります。

拍と拍の間に沢山の音を弾くパッセージがあります。8、12、16、32。。。これを「速い」とか「難しい」と思ってしまうと、大抵上手く弾けません。代わりに、その沢山の音の集大成でしか表現できない音楽的な意味を考えます。感情の爆発。風圧や水流のような勢い。真珠の転がり。超自然的な圧倒性…イメージが明確になると、一つ一つの音よりも音と音の繋がりが成す意味を表現せずにはおられなくなります。

「『ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド』と一音ずつ速く弾こうと思うと大変だけれど、ドからもう一つ上のドまで線を引こうと思うと早さが必要になるんだよ。」と子どもには説明します。

パンデミックで冬眠状態が続いた音楽業界にも活気が戻ってくる最近、私の活動も充実して来ました。この記事は日本に向かう飛行機の席で書いています。広島―兵庫―愛知―和歌山―東京と10日足らずにぎっしりと予定が詰まった旅程。(乗り換え間違えないか。)(時間通りに到着できるか。)(時差に負けずに寝て食べてコンディショニングがちゃんとできるか。)考え始めると不安もあります。でもこれって要するに一つ一つの音(=出来事)に囚われずにその意味に集中すると楽に弾ける(=生きられる)というのと同じだなあ、と思うのです。音楽の治癒効果を皆に届け、日米や異文化の橋になるという夢に集中しよう。そうすると好機に恵まれた事が嬉しく、勇気と意欲がワクワク感に繋がっていきます。コロナ禍で発表の場がなかった時期に蓄えた(発表したい)(人と交流したい)(役に立ちたい)という思いがばねになります。

私がピアノ人生に病みつきなのは、練習でのこういう気づきがより良い生き方・考え方のヒントになるから、という事もあるんです。

サクラが丁度見られる時期の帰国は久しぶり!楽しみです。

この記事の英訳はこちらでお読み頂けます。https://musicalmakiko.com/en/life-of-a-pianist/2903

https://www.nikkansan.com/column/post/1000003373

3月14日の夕刻に広島空港に降り立った私は翌朝、創立3年目を迎える叡啓大学を訪問しました。社会を前向きに変えるチェンジ・メーカーを育てる「22世紀型大学」を理念に掲げる広島県公立法人叡啓大学は色々な意味で革新的です。学長・学部長・教授などには学会一筋で来られた研究者よりもむしろ企業・政界・テクノロジーなどの多分野で大活躍をされて来た実践経験者が多い。更に、大学と地域社会、教員と生徒、製造業者と学生など、伝統的に区分分けされて来た人々を「一緒に歩む」人間として対話や協力の場を提供する時空を提供する、という事に積極的に取り組んでおられます。その上、多様性を重視し、20パーセントの学生は外国からの留学生、そして70パーセントは女生徒です。

叡啓大学をキャンパス周辺と繋げるガラス張りのロビーには、近所の方々から寄付されたお勧め本を紹介文と共に並べた図書コーナーがあり、ゆったりとした空間になっています。そこに私の訪問2日前に、何とヤマハのグランドピアノが入ったのです!本当にご縁!! 有志の生徒さんがクラウドファンディングで2年間かかって資金を集め、やっと届けられた念願のピアノです。私も数曲弾かせて頂きました。とっても良いピアノです。

午後は叡啓大学でお世話になっているT先生のご案内で原爆ドーム・平和記念館・宮島などを観光し、そして蠣フライや広島風お好み焼きなど広島ならではの美味を囲んで教育論やウェルネスに関する歓談を交わしました。

スタンフォード国際・相互文化教育プログラム(SPICE-Stanford Program on International and Cross-cultural Education)の講師として、現在進行形で教えさせて頂いている叡啓大学と県立広島大学の為の合同授業でお世話になっている方々と直接お目にかかれ、楽しい時間を過ごせました。世界に平和の大切のメッセージを伝える役目を担う広島で、こんなに熱い教育が行われている事が嬉しく、日本の将来への期待が膨らみました。

一方、和歌山市ではSPICE講師として最初に担当した和歌山教育庁とのStanford e-Wakayamaの修了式に参加致しました。和歌山県内から選抜された30人の高校一年生・二年生と6カ月のプログラムを経て、始業式以来の対面です。教師の欲目でしょうか?始業式で一回あっている彼らがそれぞれ皆、体も声もオーラも将来性も2倍も3倍も大きく逞しくなっていて、眩しくて目がしばしばしました。

そして最後に東京大学のCASEER (学校教育高度化・効果検証センター:Center for Advanced School Education and Evidence-based Research)とSPICEの共催で「音楽がもたらすウェルネスとは」というセミナーを担当させて頂きました。対面参加もズーム参加も可能な会だったせいもあり、60人の教育関係者や音楽専門化・研究家などの参加者があり、プレゼンの後の質疑応答は実に活発で幸せな時間を過ごさせて頂きました。

そして以下が4月2日に発表になる日刊サンコラム「ピアノの道」のLA帰還編!エントリー#102です。

「静止に培う大切なもの」4月2日掲載「ピアノの道」No. 102

「凄いエネルギーですね~。」「目力が凄い!」

『音楽とウェルネス』や『音楽による気候運動』の講演とか、音楽によるチームビルディングやリーダーシップのワークショップの後、よくこんな感想を頂きます。声も体も大きいからでしょうか。それともやっぱり音楽効果の恩恵を毎日受けている私は、特筆するほど元気なのでしょうか?

でもそんな私も春うららの今日この頃、のび太君のように居眠りしてしまいます。「笑みを浮かべてずっと目をつぶってたよ。」ズーム会議の後、友人から笑われました。

朝桜・胸いっぱいに・酔いしれて・目覚めりゃ昼飯・浦島マキコ

ハードな行程の日本への弾丸出張から帰ったばかりの時差ボケもあります。でも、演奏旅行はベテランの私。時差ボケ対処法の秘訣は沢山持ってるはずなのです。(例:移動時から次の現地時間に合わせた生活リズム。朝の日光をひざの裏やひじの中側に浴びる。メラトニン服用、など。)今回はちょっといつもの時差ぼけとは違う。夜通し熟睡できている。それなのに日中まばたきする度にそのまま眠りこけたい。

「年よ、年!」…いやな事を言う友人もいます。しかし、私はちょっと違うと思うのです。

最近、遅ればせながら音楽の中の静止・静寂のパワーに気が付いた私。椅子に座ったまま日本で堪能した桜の美しさを瞼の裏に確かめて1分、2分と過ごす自分を肯定したいと思うのです。目覚めてすぐ練習や執筆を始めるのとは違って、究極的にはもっともっと自分の音楽性・創造性・人間性に必須なものが、そういう静止の時間に少しずつ育くまれているのではないでしょうか。

我々は皆、何をそんなに先急いでいたのでしょう。もう二度とあり得ない今この瞬間のあなたと私は、慈しむべき偶然。祝うべき奇跡。愛でるべき運命。そして結局音楽というのは、そういう慈しみや祝いや愛でるという行為の体現なのではないでしょうか?

この記事の英訳はこちらでお読み頂けます。https://musicalmakiko.com/en/life-of-a-pianist/2908


1 thought on “美笑日記3.29:弾丸出張の前後”

  1. お疲れ様です。

    「静止・静寂のパワー」は、
    “Dr. Pianist” 平田真希子さんの超全的な個性の確立と感じました。
    例えれば、藤田嗣治さんの「乳白色の肌」ではないかと思いました。

    小川久男

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