英語に直訳できない日本語ってありますよね。例えば「もったいない」「切ない」「わびさび」…同じように日本語に直訳できない英単語に「craving」があります。無性な渇望—特に食べ物対してよく使われる言葉です。そういえば昔し、ローマで急におせんべが食べたくなり探し求めてさまよったことがありました。

この「無性に食べたい」に似た(XXを弾きたい!)に取りつかれるときがあります。たまたま耳にした昔弾いた曲だったり、全く脈絡なく突然頭の中にパッセージが鳴り響いて(え?これ何の曲だった…?)と慌てて楽譜を探して練習を始める時もあります。食べ物のcravingsはちょっと足り気味の栄養源とか、懐かしさとか、ほんわかした痒みの様な感じですが、曲のcravingsはそれよりも唐突で激しい感じ―使命の通達の様な感じさえ、するのです。

ちなみに最近降って来たピアノcravingはリストの『愛の夢』第3番です。バッハやベートーベンやドビュッシーが十八番の硬派ピアニストの私がなぜ…?でも弾かずには居られないのです。ピアノと歌曲と二つのバージョンがあるこの曲の歌詞は「限りある人生―思い切り愛せよ」と言う意味。分断・紛争や、圧政・虐待などの人権問題のニュースに心痛を覚える今日この頃。(短い人生―みんな本当にこんな虐待や紛争に月日を費やして良いの…?)と思うのは私だけではないはず。そんな皆の集合意識が「この曲を弾きたい!」という私の『愛の夢』cravingに至るのではとちょっと思っています。

「フキが食べたい…」終戦直後アメリカに留学しチベット仏教研究家のアメリカ人とご結婚なさった英子さんが突然言われたのは亡くなる一年前。音楽愛好家のご夫婦は、私の音大生時代から演奏会には欠かさずいらして下さり、何年も応援してくださいました。いつも朗らかでハイカラで私との会話も英語だった英子さんが、晩年日本語で何度も「フキが食べたい」とおっしゃったのをこの記事を書きながら思い出しました。そしてチベット人のヘルパーさんが日系スーパーを探し回って食べさせてあげたことも。

ピレウス考古学博物館

このブログは隔週で日刊サンに連載中のコラム「ピアノの道」♯171を基にしています。


2 responses to “美声日記2/10:今無性に弾きたい曲”

  1. Yuko Yamaguchi Avatar
    Yuko Yamaguchi

    愛の夢…今回の平田先生の記事は愛のメッセージだと受け取りました!夢ではなくリアルな愛の求道者の様な音楽家が今世界中で必要とされていますね。

    1. Makiko Hirata Avatar
      Makiko Hirata

      音楽の輪を一緒に広げていきましょう、Yukoさん!

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