昨年11月にピアノバンでサンフランシスコ界隈の多様なコミュニティーに届ける実験的冒険をしました。その際、SNSなどを通じて沢山の方々のご賛同を頂き、中には寄付を申し出て下さる方もありました。その時「税金優遇ができるNPOの立場ならもっと大口の寄付をするのだけれど...」と数人の方に言われました。それが、私がNPOになる事を考慮し始めた直接のきっかけです。
ピアノバンから帰って来てから年末、NPOになる事について、調べました。NPOになる特典は大きく二つあります。
- 寄付をして下さる方に、NPOに寄付金をして下さる分は所得税に換算されないという米国の税制処置を適応して差し上げられる。
- NPOのみを対象とした助成金への応募資格を得られる。
独立したNPO法人になる為には応募してから審査まで約11か月かかります。更に、私はいずれは共同経営者やスタッフを雇って大きくしたいという野心はありますが、今は一人です。ですから、独立NPO法人を立ち上げる前に、フィスカル・スポンサーシップという方法でNPOの特典を得ようと思いした。大きなNPOの子会社とか一プロジェクトという位置づけになり、その代わりその親NPO法人に手数料を支払うのです。支払いは毎月一定額を払うか、あるいは寄付金の何パーセントを毎回収めるという形が主流な様です。こうして沢山の小さなNPOプロジェクトを抱えて支援することを専門にしているNPOもいくつも在ります。アート関係やスポーツ関係などの特殊分野プロジェクトを専門的にしている物もあれば、ある地域に特定しているもの、あるいはもっと手広く何でもやっているものなど色々です。支援も手取り足取りファンドレーズイベントやSNSキャンペーンの指導をするものから、放任主義の物まで様々です。ただ、寄付の出処や処理が違法だった場合は親NPOの責任となるので、会計士が付き、税金の面倒まではきっかりと見てくれます。フィスカル・スポンサーシップというシステムを経ることで、NPOの色々な知識を得ることも出来るのでは、と思いました。
こういう親NPO法人にもそれぞれ応募のプロセスがあります。どういうビジョンを持っているのか。実際に何をやるつもりなのか。支援金の見込みはどういう出資元からどれくらいあり、どれくらいの大きさの事業を展開するつもりなのか。年末年始は実は必死こいてこういう応募用紙と格闘していました。
しかし、この数か月の調べものなどでいくつか分かったNPOの難所というのもあります。NPOというのは、要するにお金ではなく情熱を原動力にする、というモデルです。それはとても理想的なのですが、現実的には下の条件を満たしていないと持続不可と言わざをえません。
- 沢山の人が情熱的に支持・支援するある社会的ニーズを満たしている。
- 例えば十分な食事が賄えない家庭に食事を届ける。都市の緑地化、同性愛婚、など。
- 必要な資源の出処の目途がある程度付いている。
- 資金・労働力・オペレーションに必要な機材道具など
更にいくつかNPO業界の問題があります。
- 一般的にNPOの数が多すぎる。(アメリカの話しです。)
- NPO対象の助成金の規制は細かく、非現実的。
- NPOの本来の目的のみに出る助成金が多く、事務やスタッフの維持費などの必要経費に使えない。
- この為、事実歪曲の報告書が多く出回り、規制は更に厳しくなり、いたちごっこになる。
- NPOの本来の目的のみに出る助成金が多く、事務やスタッフの維持費などの必要経費に使えない。
- 資金集めに時間と労力がかかりすぎる。
- 資金の使い道のお伺いを援助者や助成金出資者に建てるというプロセスも、NPOの動きを遅く・非効率的にさせる。
私がNPO法人としてやる!と応募用紙に宣言したのは、音楽と脳神経科学を使ったワークショップです。内容と対象は以下です。
- 今現在、主に企業を対象に行っているワークショップをもっと多様な地域社会や教育現場で提供する。
- プロの音楽家を対象とした6週間のワークショップをデザインし、音楽家たちにもっと社会に関連性を持ち、地域社会のニーズに応えた音楽活動をしてもらう。
才能に恵まれ、長年研鑽を積んで来た音楽家の多くが職や演奏の機会にあぶれています。そして世界は社会の不平等や政治的な分裂、そして環境問題などの大きな問題を抱えて、精神衛生の問題が切実になって来ています。私は音楽家を社会で活用し、音楽を社会調和を促すツールという認識を高める事は、沢山の問題を一度に緩和できる大切な事だと思っています。
でもこれは一般常識ではありません。私の上の段落を読んで「今すぐこの事業に寄付しなければ!」とか「音楽の効用を社会で活用するというビジョンの為にこれから毎週5時間ボランティア活動をします!」と言う人はほとんどいないと思います。私自身、虐待されている子供を救助するNPOのボランティアが、私のNPOにボランティアするために虐待児救助のボランティアを辞めたら、罪悪感を感じます。
私が提唱している事はむしろベンチャーなのでは?
更に、ピアノバンなどの経験を経て気が付いた事があります。一般的な音楽の治癒効果は確かにあってそれは人類一般・未来永劫の生態的な現象です。それは最新の研究の発表で様々なデータに数値として出てきます。でも音楽はやはり文化です。食べ物は同じ栄養だけれども、でもやはり自分が幼少時から慣れ親しんだ料理が心理的効果は一番高いのと、音楽も全く同じです。そして西洋クラシック音楽に幼少時から慣れ親しんで育ってきたのは、ある特定な社会層なのです。
私はマザーテレサの「死を待つ人々の家」で活動した神父さんの手記や、ナイチンゲールの伝記や、風の谷のナウシカを読んで、成長期を過ごしました。私はなぜか、困窮した人々に尽くす事を理想とする教育を多く受けて来ていたのです。でも、私がピアニストとしてモノ言って一番効果を上げられるのは、貧困層の「持たざる人たち」ではなく、むしろ投資をする余裕がある人たちなのです。
時々、目隠し手探りの、孤立無援に思えてしまうことがあります。自分よりも周りの人がよほど前を行っていて、私はどんなに全速力で追いつこうとしても全然ダメ、と思えてしまうのです。そしてこんなブログを発表しながらも、二つのフィスカルスポンサーシップに応募してあって、そのどちらかが受理され合格したらば、ホイホイそちらに行ってしまうかも知れません。
どうか、暖かく見守って応援してください。私は兎に角前進します。
お疲れ様です。
NPO法人にもフランチャイズ形式があるとは知りませんでした。
物や知恵などの移動で金銭が動き利益を上げる相互扶助なら
利用者は、当然、知的財産権があることから手数料は必要です。
最小の経費で最大の効果が得られる方法が見つかるといいですね。
小川久男