書評「心で弾くピアノ:音楽による自己発見」

セイモアバーンスタイン著

出版年:1981

出版社:音楽之友社

(私は原文を読みました)

実体験に基づく教訓をつづった回想録として書いてきていた本の枠組みをもっと直接的なハウツー本にすることに決めてから、お手本になりそうな本を読み漁っている。この本はピアノ奏法に自己考察・倫理・人生観などを投影させるという意味で、私の本の一側面と趣旨を同じくしている。色々参考になった。

著者の文章力には舌を巻く。言葉が的を得ていて無駄が無い。文章にリズムがあり、次へ次へと誘われるように読みやすい。そして本の構築が分かりやすく、理にかなっている。ハウツー本は通常、事実・情報とそれをストーリー化した例が交互にくる形で書かれる。この本はどちらかと言うとストーリーに重点が来ていたが、情報・事実と例との移行がさりげなく、バランスが良い印象を与えた。(実際には、私に言わせると情報がもっとあった方が良かった。)

この本で、美しい文章に懐疑的になっている自分を発見した。例えば自分と生徒と関係の発展性について書くとき、美しい文章作成を優先するあまり、事実や信念が脚色されていることは無いか、と思ってしまうのだ。ハウツー本の落とし穴発見!気を付けようと思った。

そう思ってしまったのには他にも理由がある。この本の主張は主に著者の信念・過去の恩師や同業者へのインタビューや会話、そして生徒とのやり取りなどに基づいていて、科学的や史実的な検証は少ない。心理学については少し触れられている(が、ユングの集団心理学など。)し、歴史についても全く言及しないわけではない(古代ギリシャが出てくるが、音楽史はほとんど出てこない)。そして脳に関する言及が2か所ある。が、簡単にグーグル検索したところ、どうやら脳の右左を間違えているようなのだ。更に、著者の主張の裏付けと言う意味でも、読者のためにも、脳の部位の名称や右左は、全く不必要だったのだ。よく考えると、ここで脳の部位の名称が出てきたのは要するに、著者が自分の権威を設立するためだけだったのだ。これはハウツー本の落とし穴その②!! 気を付けよう!

不必要に批判的にこの本を読んでいるのは、私がこの本を書き方教室と捉えているからだ。この本はとても良く書かれていると思うし、著者はこの本を善意を持って書いていると思う。大体ピアノ演奏を啓蒙への道として捉えた本が1980年代に注目を浴びた事実には勇気づけられる。さらに、この著者に関するドキュメンタリーが2015年に注目されている。「シーモアさんと大人のための人生入門」

私もこの本から実際役立つ情報もいくつかゲットした。例えば腕の重みを上手く奏法に取り入れるために、手首の周りに重りをつけて練習するというアイディア。やってみて開眼(7章目)。それから一つの関節(例えば手首)を自由に楽に使うためには他の関節(例えば肘、肩)が固定されていないといけない、と言う事実は言われてみて初めて納得した(5章目)。それから息を意識的に使って感情や感性を高める(4章目)-これは心身心理療法と言う私が初めて知った心理療法から来ていて、やってみて非常に感じ入った。

この本は一日で読み切る必要があり、斜め読みした部分も多いが、翌朝の練習は非常に充実した、発見の多い物だった。こういう本を10代で読めていたら非常に救われたのでは、と思う一方、10代の時には絶対読まなかった類の本だ、とも思う。じゃあ、私のハウツー本を10代に読みたいと思わせるためにはどうすれば良いのか?イメージ戦略?SNSマーケティング? 取り合えずダイエット中。3キロやせた。体脂肪は現在19.5%~20%。やはり痩せるとすっきりする・目が大きくなる。

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