教える

音楽性を教える。

教えていて「通じた!」と実感する時がある。   昨日教えたFちゃんは、多分とても頭脳明晰なのだけれど、とっても控えめな女の子。 毎週頑張って練習してくるのだけれど、 レッスンを始めたころは弱音で弾く事に戸惑った。 「腕を使ってみよう!」とか、「強弱のコントラストを大げさに」とか 「演劇をやっているつもりで」とか、「私をびっくりさせて!」とか思いつく限り言ってみたけど。 数週間頑張ってダメだったので最後に「Fちゃんはなんでそんなにソッと弾くの?」と尋ねたら 「お家に赤ちゃんが生まれたので、大きな音を出すと起きちゃう」と言われて涙してしまった。 こんなに小さいのに。もっとわがままで良いのに。   でも赤ちゃんも成長して、Fちゃんもその頃よりずいぶん元気になって、 最近は物凄くしっかりとした音を出せるようになった。 でもスタッカートが書いてあると、なぜ?と考えずに一生懸命スタッカート。 フォルテと書いてあると、やっぱり一生懸命フォルテ。   昨日はアルペッジョの時に「ドミソッドミソッドミソ!」と 親指をくぐらせるために正直に元気よくぶつぶつ音を切ってしまうFちゃんにこう言ってみた。 「音楽と言うのはプレゼントなんだよ。 大事なお友達にプレゼントする時はどうやったら喜んでもらえるか一生懸命考えるでしょ? 自分が出来る一番の事をしてあげた方が自分も一番嬉しいでしょ? だから一音一音どうやったら一番きれいに弾けるか、 プレゼントをするつもりで一生懸命考えて?」 そして親指をくぐらせる前にソの指をラにぎりぎりまで押し当てて ドまでの距離を最短にして、出来るだけ音と音のギャップが小さくなるように工夫すること、 そして♪ドミソドミソドミソ~♪と、なめらかにクレッシェンドを付けて気持ちを高めること、 その時に手首の動き、手の動き、指の動きがバレリーナの様に音形を表現すること、 そういう事を細か~く、それこそ私からFちゃんへのプレゼントのつもりで丁寧に教えた。   そしたら別人かと思うほど音楽的に弾いたのだ! びっくり。 この「音楽はプレゼント」と言うのは私の幼少の頃のI先生の受け売り。 4歳からご指示いただいた先生には渡米する13歳までみっちり教えて頂いた。 その最初の方のレッスンで 「一つ一つの音をプレゼントだと思って。 綺麗な包装紙に包んで大事に送り出してあげてね。」 と言われたのを、今でもちゃんと覚えている。   こうやってプレゼントはリレーの様にみんなを幸せにしてくれる。 I先生、ありがとうございました。 Fちゃん、ありがとう!   音楽人生、万歳!!  

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生徒から最高のプレゼント

今日は夏休みの前、最後の教える日だった。 色々な生徒が居る。 インターナショナル・スクールなので、親の転勤などで転校して行ってしまう子も多い。 9歳の生徒に涙ぐまれたりすると、こちらもググっと来てしまう。 生徒はやっぱり可愛い。 そんな中、最高の贈り物をもらった。 14人教えている中の2人がそれぞれのレッスンで息せきって真っ先に報告してくれた事。 ちょっとさかのぼって。 私の教えている学校では先月「発明週」と言うのがあった。 クラスの中で4~5人のチームを作って世界に貢献できるような発明を考え、 自分たちの学習を総動員して出来るだけ具体化し、提出して学校内のコンクールをし、 それで勝ったチームは学校外の同じようなコンクールにエントリーする、と言う物だ。 私の生徒から聞いたので、一番すごいと思ったのは、難聴者用の眼鏡! 難聴者、あるいは聾唖の方がこのメガネをかけると、 周りの会話が字幕になって眼鏡のガラスに表示される、と言う物! 凄い。 これは6年生のアイディア。 テキサス・メディカル・センターの「若い発明家」のファイナリストに選抜された、 私の生徒の二人がチームメンバーの、4人組。 この4人は7歳~8歳。 彼らのアイディアは、指が無い人、あるいは麻痺している人のための手袋。 この手袋には電気シグナルで指令が出せるような仕組みになっていて、 麻痺していたり、無かったりする指が、動いて作業を出来るようになる。 「だから、指が無い人でもピアノが弾けるでしょ?」 と、言われたときはもう本当に、本当に嬉しくってギュッとしてしまった。 4人組の内、二人は私と一緒にピアノを本当に始めた。 どの鍵盤が「ド」か、楽譜はどう読むのか、リズムはどういう仕組みなのか、 そう言う全くの初歩から始めて、今では二人共簡単な教則本の曲は弾ける。 その二人が「指の無い人でもピアノを弾けるように」と言ってくれたのは 本当に本当に、本当に嬉しい! ピアノを教えていて、良かった~!!!! 音楽人生、万歳!

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♪リストだ~って、バッハだ~って、モシュレスだ~~って…

リストは神童として華々しくデビューとしてパリの寵児にのし上がった。 が、17歳の時に父を失ってからは自身と母を養うため、演奏を辞め教え始める。 毎日8時半から夜の10時まで、生徒宅へ出向いて行って教えたそうだ。 食事は生徒の家から家へ向かう道中、 帰宅すると母が用意してくれていた食事はすでに腐っていて(本当かな?) お酒だけあおり、母を起こさないように着替えもせずに階段で眠り込んだらしい。 まあ、多少の誇張は在るかも知れないが、兎に角一杯教えたのは確からしい。 しばらくしてから演奏活動を再開し、演奏と半分 週一である女性が経営する音楽教室で教えることはかなり長い事続けていた。 レッスンノートが残っている。 それによると、リストのレッスンの対象の能力は、 ピアニストを目指す子がたまにいる、くらいだったらしい。 バッハも自ら教鞭をとるほか、街の大学生のアマチュア・アンサンブルの指導をしたりした。 モーツァルトも全然やる気の無い生徒にどのように教授するか、などの言及がある。 クララ・シューマンは神童として脚光を浴びたにも関わらず、 子供の頃から教えるための訓練も受けていて、弟のレッスンを見たりしていた。 どんなスーパースターもあらゆるレヴェルで教えていた。 そして大きな演奏会の前はサロンなどで演奏することで演奏会の宣伝をした。 要するに、今と全然変わらない。 と、言うか、私の生活にそっくり。

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音楽愛好家を育てる。

今まで、教えるよりも自分の経験や技術向上につながる経験を優先してきた。 要するに、どんなに小さくても、演奏の機会(伴奏も含む)である。 演奏の仕事は急に一日10時間練習する羽目になるラストミネットの物だったり、 リハーサルが不規則だったり、旅行を伴ったりする。 と、言うことで責任を持って定期的に教えることが難しくなる。 と、言うことで教えると言うことを私は比較的避けて今まで来た。 …しかし、そう言ってここまで来られたのは実に特権的な事だった、と言うことも知っている。 例えば私の知っている中国人留学生の大半は 学部生時代からかなりの時間を学業の合間に教えていた。 しかも、そういう中国人留学生を安い時給で雇う音楽学校と言うのが中華街にあって、 そこで、マクドナルドで働くのより多少ましな賃金で教えるのである。 留学ヴィザの彼らは働くことが違法になるため、足元を見られっぱなしである。 それでも、その安い賃金で、遠い中華街まで朝早くから行って、 稼いだお金を生活費に充てたり、中には仕送りしている学部生も居る、と聞いた事もある。 …本当だろうか… 成長期に自分の向上心の赴くまま、練習・勉強・修行に励むことのできた私は実に幸せだった。 それを可能にして下った人々、そして状況・環境には感謝しきれない。 しかし、私もそろそろ博士課程の勉強も終了に近づいてきて、 将来の事も考えたりして、最近教える時間を増やしている。 やはり教える、と言うのはピアニストとしては当然な職種なのである。 今、計算したらば現在の私の教えている時間は毎週大体14時間。 その中の7時間半がある学校で週一に、一人30分のレッスンを教える、と言う仕事。 ここでの生徒数が13人(学期によっては14人)。 そしてプライヴェートが高校生以下が6人、大人の生徒さんンが3人。 合計私の生徒数は今22~3人。 さらに、私が過去にお教えしたことのある方々を全てのべで計算すると、何人になるだろう? 演奏旅行中の公開レッスンで一期一会だった生徒さんも居れば、 コルバーン時代アシスタントとして補習レッスンをさせてもらって 今では立派にヨーロッパなどで活躍している人も居るし、 高校生時代にアルバイトで教えさせてもらった子たちも居る。 ああ、そう言えば修士時代、私はNew York UniversityのAdjunct Facultyとして かなりのレッスンやクラスピアノや、学理の授業を教えたりもした。 おお、そんな事を言えば、ライス大学でだって2年間、楽理や聴音を教えた。 私の過去の生徒…もしかしたら1000人くらいになるかも知れない。 この1000人を私が音楽愛好家にすることができていたら…すごい! しかし、残念ながら、私は今まで厳しい先生だった。 「そこのラ、間違えてソって弾いてる、5回目だよ。何度も同じ間違えを犯すのは、間違えを練習しているのと同じだよ。この前のレッスンでも言ったよね?」 「この曲、何週目だっけ?そうだよ、6週目だよ。でもまだ全曲譜読みが出来ないの?どうして?…忙しかった?そうか、何がそんなに忙しかったのか、言えるかな?(月曜日は体操のお稽古があって、火曜日と水曜日はおばあちゃんが来た)。そうか、でもそれは3日だけだよね。あとの4日は何してたの?(宿題…)。そう、でもおトイレは行った?あらそう、おトイレに行く時間はあるの。お食事はした?あらそう、お食事する時間はあるの?それなのに、練習する時間は無いの?あのね、時間が無いって言うことは無いんだよ。時間って言うのは作るものなんだよ。」 私が現在教えている生徒さんたちの中にピアノを専門に勉強するようになる子は、いない。 その子が一曲を何週で仕上げようが、その子の人生にとっては大差ない。 私の仕事は、その子が音楽に興味を持つこと。 毎週のレッスンを楽しみに待つこと。 私に会うのを楽しみに、私に聞かせたい!練習をしたい!と思わせること。 やっと気が付いた。 私が養育しているのは、ピアニストの卵、では無い。 私が養育しているのは、将来の音楽愛好家だ、と言うことに。 そういう意味では、私は失敗続きだったのかも知れない。 それに気が付かせてくれたのは、意外にも教え始めたころは私が頭を抱えたSちゃん。 慎重と言えば聞こえが良いが、一つの質問をして答えが返ってくるまでに1分かかったりする。 ご両親は非常にエリートなのだが、Sちゃんの生活に親御さんの姿が見えない。 いつも英語をしゃべれない家政婦さんとSちゃんだけ、のお家。 声に抑揚が無い。表情が変わらない。反応が鈍い。

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アメリカの小学生に出される宿題。

私はアメリカは高校生からだし、 生徒を教える楽しみの一つは彼らの学校生活や学校のカリキュラムについて聞く事だ。 日本とはあまりに違っていて、正直びっくりする。 先週、いつもはシャイで反応を引き出すのが難しいSちゃんが もう止まらないほど興奮して話してくれた学校のプロジェクトはこんなものだった。 (ちなみにSちゃんは小学六年生) アメリカ合衆国がゾンビに乗っ取られてしまった。 クラスで4人のチームを作り、その4人プラス、リストから選ぶ3人で力を合わせて 生存を賭けたアメリカ合衆国脱出計画を練れ、と言うのがプロジェクト。 まず、ゾンビの特性については詳しく書かれた資料を渡される。 力は人間の数倍出せるが、走るのは人間の半分の速度。 知力が無くなっているが、お互いとのコミュニケーションは取れる。 視力・聴力は人間並み、など) リストから選ぶ3人については、 職業、特技、年齢、健康状態などが詳しく書かれたリストから 自分たちの生存の確立を最も助けてくれそうな3人をチームで討議して選ぶ。 食糧確保から、交通手段、逃走ルート、最終目的地まで 地理、算数、社会、チームウォーク、道徳、読解力、など 本当にあらゆるスキルを総動員して取り組むプロジェクト。 そして何より、楽しそう! 先生だってかなりの時間と労力と工夫を費やして ゾンビの特性のリストや、チームメート候補者のリストなど 頑張って作っているのだろうけれど、 でも、生徒が生き生きとプロジェクトに取り組むのを見れるのは楽しいだろう。 そう言えば、私の生徒でカタツムリの様な上達を一年続けて来て やっと両手で弾けるようになった二年生が突然 スターウォーズのダースベーダ―のテーマを両手で立派に弾きこなして 得意そうに弾いて聞かせてくれた。 リズムも複雑で、レッスンでまだ教えていなかった黒鍵も駆使して、 蛇の様な物凄い指使いで、でも使えることも無く楽しそうに何度も弾いてくれる。 やっぱり「好きこそものの上手なれ」なんだな~、と思います。 ゾンビ・プロジェクトの先生もゾンビが好きなのかな?

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