LAに戻って
日本の皆皆さま LAに戻ってきて、一週間が経ちました。とても盛り沢山な一週間でした。 水曜日にはLAオペラのゲネ・プロを見に行きました。 演目はプッチーニの“Il Trittico(三部作)”。短い3つの作品をセットとして一晩のオペラ(3時間45分)とした作品で、「外套」、「修道女アンジェリカ」、「ジャンニ・スキッキ」から成っています。最初の2作品が悲劇で、3作目が喜劇。 この3作目を喜劇で有名な映画監督、ウッディ・アランが舞台監督したこともあり、ゲネ・プロなのに大入りでした。私はまだ時差があったし、2作ほど見て帰ろうかと考えていたのですが、歌手が信じられないほど素晴らしく、1作目のテナーの熱唱では背筋がゾクゾクして、2作目で自分でもあきれるほど泣いてしまい、結局全部見てしまいました。プッチーニは不協和音を本当に魅力的に響かせて、味を出します。もう、ぐっと来てしまいました。 2作目を見て大泣きした後、劇場の外で外気にあたりながら、現実がひどく目新しく感じられました。こういう風に自分の観点が動かされることが「感動」というんだなあ、と改めて妙に納得してしまいました。 木曜日の午後は、無料のドレスの展示会がコルバーンの集会室でありました。 匿名の個人が自分がいらなくなったドレスを大量にコルバーンに寄付してくれたのです。音楽を生業としていると、お金はないのにドレスが大量に要り、困ります。 アメリカのドレスは日本のものよりも作りが雑ですが、値段もケタ違いに安いのです。同じドレスを2回続けて着るわけにはいかないし(同じお客さんが来てくださってるかも知れないから)、ドレスに演目を反映させたいという気持ちもあって、私は古着屋や、安売り、それからお下がりを主に、驚異の安値で大量にドレスを集めています。今回のドレスたちは、絶対に着て楽器演奏できないような飾りの多いものばかりでしたが、こういうイベントにはありがたくセッセと通うことにして、ついでに多いに楽しんでいます。 土曜日は生れて初めて、サーフィンをしました。 LAは海岸沿いの都市で、気候も温暖、そしてさらに波がサーフィン向きなので、普通の人が日常的にサーフィンをしているような町です。私もずっと挑戦してみたいと思っていたのですが、今回学校から希望者を募って連れて行ってくれる、との事だったので、チャンスに飛びつきました。約2時間サーフボードと格闘して、一応筋肉痛以外の肉体支障はなし、そして非常に楽しかった。でも、残念ながらサーフボードの上に立つことはどうしてもできませんでした。サーフィンと言うのは気楽なスポーツに見えますが、実はどうして、かなりの筋力(少なくとも私の今以上の筋力)を必要とするようです。サーフ・ボードを持ってかなり沖まで出て行き、波を待って「ヨイショ!」とサーフ・ボードにお腹を下にして水平に飛び乗り(私の場合は「へばりつく」といったほうがより正直)、波の勢いを利用してサーフ・ボードの上に立つ、と言うのが、今の私の理解するところのサーフィンです。運動量も筋力もまだまだ向上の余地の大いにある私にとってはサーフ・ボードを担いで、沖までたどり着くのもなかなかのファイトを要したのですが、とりあえずはサーフ・ボードにしがみついて砂浜まで波に乗っかて滑っていくことは完全にマスターしました。ところが、波に乗って勢いのついたサーフ・ボードの上で立つには腹筋と腕の筋肉、そして最終的には足の筋肉が大いに必要となるようで、私はどうしても膝立ち以上はできなかった。 悔しい。やはり、金管奏者は楽器演奏に筋トレが必要なため、成功者が多かったです。 一緒に行ったピアニストたちと、ピアニスト共有のサーフ・ボードを買おう、と意気込んでいます。そして、金管奏者たちを見返してやるのです。 日曜日はゲッティ美術館に行ってきました。展示もさながら、私は何よりその建物と庭に驚嘆しました。LACMA(「ラクマ」L.A. Countey Museum of Arts)の空間も素晴らしいと思ったけれど、ゲッティは更に素晴らしい。建築家、リチャード・メイヤー(Richard Meier)の巨大なビルの棟棟は、近代的ですが、真っ白でりりしく、周りの山や海、そして庭とうまく調和してビルそのものが浮き立つことはありません。すがすがしく、自然です。ロバート・アーウィン(Robert Irwin)のデザインした庭は、私がポルトガルの古いお城で見た庭によく似ています。いろいろな花が咲き乱れ、きれいに刈り込まれた垣根が迷路になっていて、その真ん中に巨大な噴水があります。迷路の周りには子供が転がって遊べるきれいな芝生が広がっています。そして、この美術館もコルバーンと同じように金持ちの個人の財団によって成り立っており、入場料は無料です。 こうして書いていると、私が遊んでばかりいるような感じもしますが、そんなことはありません!私は目下、デビュッシーの「映像」の一巻、二巻、合計六曲を来週までに譜読み、そして仕上げることを目標に毎日全力練習中!さらに、今学期のスケジュールは日に日に埋まってきているのです。以下をご参照ください。 9月24日 ベースのリサイタル、共演 10月1日 プーランクの三重奏の演奏 10月?日 プーランクのオーボエ・ソナタ共演 10月12日 自分の独奏会(ドビュッシーの映像一巻、もしくは二巻、エサ・ペッカ・サロネン「ダイコトミー」、休憩、「ハンマークラヴィア」 10月13日 NYへ 10月15日 あるオーディション(内緒) 10月16~ ハンマークラヴィア、他、収録 10月25日 エサ・ペッカ・サロネン「ダイコトミー」演奏 11月11日 指揮:コープランド「Quiet City」、ベリーニ、オーボエ協奏曲 この他にまだ、コンサートがいくつか入る予定なのです。 私が「今のうちに!」と、ドビュッシーの合間を縫って一生懸命遊ぶ理由がおわかりでしょう? それでは、そろそろ海岸に向けてお友達とドライヴする時間が迫ってきたので、この辺で。