March 2016

♪リストだ~って、バッハだ~って、モシュレスだ~~って…

リストは神童として華々しくデビューとしてパリの寵児にのし上がった。 が、17歳の時に父を失ってからは自身と母を養うため、演奏を辞め教え始める。 毎日8時半から夜の10時まで、生徒宅へ出向いて行って教えたそうだ。 食事は生徒の家から家へ向かう道中、 帰宅すると母が用意してくれていた食事はすでに腐っていて(本当かな?) お酒だけあおり、母を起こさないように着替えもせずに階段で眠り込んだらしい。 まあ、多少の誇張は在るかも知れないが、兎に角一杯教えたのは確からしい。 しばらくしてから演奏活動を再開し、演奏と半分 週一である女性が経営する音楽教室で教えることはかなり長い事続けていた。 レッスンノートが残っている。 それによると、リストのレッスンの対象の能力は、 ピアニストを目指す子がたまにいる、くらいだったらしい。 バッハも自ら教鞭をとるほか、街の大学生のアマチュア・アンサンブルの指導をしたりした。 モーツァルトも全然やる気の無い生徒にどのように教授するか、などの言及がある。 クララ・シューマンは神童として脚光を浴びたにも関わらず、 子供の頃から教えるための訓練も受けていて、弟のレッスンを見たりしていた。 どんなスーパースターもあらゆるレヴェルで教えていた。 そして大きな演奏会の前はサロンなどで演奏することで演奏会の宣伝をした。 要するに、今と全然変わらない。 と、言うか、私の生活にそっくり。

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芸術は愛

最近良く一緒に走っている理数系の同志。 文科系とは人生でほとんど付き合いの無かったバリバリ理数系だ。 一緒にいろんなヒューストンの地区を走り回って探検している。 どんどんヒューストンが好きになってくる。 ヒューストンは公園も多いし、小川もある。 朝露の光る朝焼けの中を走っていると、マラソンハイのエンドルフィンも手伝って (桃源郷!?)と思うこともしばし。 ヒッピー系の面白いお店が沢山集まる地域もあるし、 意外と歴史も古く、黒人の人権のために20世紀初期に奮闘した人の石碑を読んだり、 本当に楽しい。 この理数系の同志。 私を意識しているのか知らないが、自分に理解できないオブジェを見ると最近 「う~ん、芸術だ…」とつぶやいている。 しばらくこの「芸術だ…」を面白く聞いていたのだが、ある日思いつきで提唱してみた。 「『芸術だ』、と言う代わりに『愛だ』と言ってみたら?」 私の心はこうである。 私の同志が「芸術だ」と言っている良く分からないオブジェの多くは 営利目的でもないし、はっきりと分かる直接的な機能を持っているわけでも無い。 でも、作ったり設置したりするのに、大抵物凄い創意と工夫と労働と時間を要している。 この創意と工夫と労働と時間を惜しまずして、創作者を突き動かすもの。 これぞまさに『愛』ではないのか!? そしたら、次に「う~ん、『愛』だ…」と同志に言わせしめた物が アメリカ中で知る人ぞ知る、私も噂には聞いていた、ビール館だったのだ! 家の外装も内装も、敷地を囲うフェンスも、全てがビール缶を切ったもので出来ている! 二人で大笑いした。 家が見える前にまず遠くから「じゃら~ん、じゃら~ん」と ビール缶のアルミが風で揺れて鳴っているのが聞こえてくる。 そのお世辞にもきれいとは言えない音は、ビール館の外見をもそのまま反映している。 これは「ビールに対する愛」なのですね。 全ての愛が高尚でなくても、良いのです。 ビールに対する愛だって、創作者が幸せになるなら、良いのです。 それに私たちはお陰で大笑いをさせてもらいました。

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熱血学部長に感動。

STRIVEと言うライス大学の活動グループの一員となった。 Student Transforming Rice Into Violence-free Environmentの頭文字を取ってSTRIVE. ストーカーの一件でライス大学に多いにサポートしてもらって 何か恩返しが出来ないかとずっと思っていた。 それで誘われたときにすぐにジョインしたのだ。 アメリカにはTitle IXなるものがある。 「連邦から資金援助を受けている教育機関に於いてはあらゆる面での性差別を禁止する」 とする1972年に制定された法律である。 スポーツに於ける男女平等からセクハラ教育やレイプの被害者のケアなど 非常に幅広い応用が可能な法律だが、 Title IXコーディネーターなる人が値する教育機関には必ず居て、 この法律に違反があった場合は介入してくれる。 私がストーカーの一件でお世話になったのも、このTitle IXのAさんである。 私の場合加害者がライス関係者では無かったのに、なぜTitle IXの対象になったのか。 「女性」と言う事で教育を受けるのに不利な立場に立たされた、とみなされるから、らしい。 厳密なところは良く分からないのだが、しかし非常に、非常にお世話になった。 私がラッキーだったのは元婚約者と別れたのが5月の終わりで 婚約者がストーカーと変身したのが6月上旬。 夏休みで、学年度中は超多忙な人々が皆、小休止状態だったことである。 Aさんには一時期毎日何時間も付き合ってもらったりした。 警察に提出する書類一つにしても、気が萎えるほどの書類の束が、 約束の時間にオフィスに行くと、85パーセント記入済みで、 私が記入せざるを得ない所だけが空白にしてあって、印がつけて在ったりとか、 土日でも何かあると、私のメールに応答してすぐ連絡をくれる、とか。 しかし、アメリカにはTitle IXがあるから 全ての教育機関がこういう支援体制があるのかと思っていたら STRIVEに入ってトレーニングを受けて知った。 ライス大学は特別だったのです。 モデル校になるくらい、Title IXに力を入れていて、 学校の予算に対してTitle IX実地のための予算の割合が他の学校より非常に大きい。 例えば、同居している人に暴行を受けた人のための仮の宿の確保など、 支援体制が非常に太っ腹。 さらにSTRIVEと言う生徒活動を支援しているのもTitle IXである。 そのSTRIVEのミーティングである学部長にあった。 Rice大学のもう一つ面白い事は、学校内に裁判所があって、 アメリカの法律ではなく、ライス大学の倫理観念に従って 希望が出たケースを裁く、と言う機関がある事である。 これは関係者全員がライス関係者の場合だけ適応可能なので、 私自身は関わったことが無いのだが、この前はSTRIVEのトレーニングで このライス裁判機関の部長のお話しを聞いた。 2003年に始まったこの機関だが、始まってから今までの13年で 150以上の性的暴力のケースを裁いたそうだ。

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音楽愛好家を育てる。

今まで、教えるよりも自分の経験や技術向上につながる経験を優先してきた。 要するに、どんなに小さくても、演奏の機会(伴奏も含む)である。 演奏の仕事は急に一日10時間練習する羽目になるラストミネットの物だったり、 リハーサルが不規則だったり、旅行を伴ったりする。 と、言うことで責任を持って定期的に教えることが難しくなる。 と、言うことで教えると言うことを私は比較的避けて今まで来た。 …しかし、そう言ってここまで来られたのは実に特権的な事だった、と言うことも知っている。 例えば私の知っている中国人留学生の大半は 学部生時代からかなりの時間を学業の合間に教えていた。 しかも、そういう中国人留学生を安い時給で雇う音楽学校と言うのが中華街にあって、 そこで、マクドナルドで働くのより多少ましな賃金で教えるのである。 留学ヴィザの彼らは働くことが違法になるため、足元を見られっぱなしである。 それでも、その安い賃金で、遠い中華街まで朝早くから行って、 稼いだお金を生活費に充てたり、中には仕送りしている学部生も居る、と聞いた事もある。 …本当だろうか… 成長期に自分の向上心の赴くまま、練習・勉強・修行に励むことのできた私は実に幸せだった。 それを可能にして下った人々、そして状況・環境には感謝しきれない。 しかし、私もそろそろ博士課程の勉強も終了に近づいてきて、 将来の事も考えたりして、最近教える時間を増やしている。 やはり教える、と言うのはピアニストとしては当然な職種なのである。 今、計算したらば現在の私の教えている時間は毎週大体14時間。 その中の7時間半がある学校で週一に、一人30分のレッスンを教える、と言う仕事。 ここでの生徒数が13人(学期によっては14人)。 そしてプライヴェートが高校生以下が6人、大人の生徒さんンが3人。 合計私の生徒数は今22~3人。 さらに、私が過去にお教えしたことのある方々を全てのべで計算すると、何人になるだろう? 演奏旅行中の公開レッスンで一期一会だった生徒さんも居れば、 コルバーン時代アシスタントとして補習レッスンをさせてもらって 今では立派にヨーロッパなどで活躍している人も居るし、 高校生時代にアルバイトで教えさせてもらった子たちも居る。 ああ、そう言えば修士時代、私はNew York UniversityのAdjunct Facultyとして かなりのレッスンやクラスピアノや、学理の授業を教えたりもした。 おお、そんな事を言えば、ライス大学でだって2年間、楽理や聴音を教えた。 私の過去の生徒…もしかしたら1000人くらいになるかも知れない。 この1000人を私が音楽愛好家にすることができていたら…すごい! しかし、残念ながら、私は今まで厳しい先生だった。 「そこのラ、間違えてソって弾いてる、5回目だよ。何度も同じ間違えを犯すのは、間違えを練習しているのと同じだよ。この前のレッスンでも言ったよね?」 「この曲、何週目だっけ?そうだよ、6週目だよ。でもまだ全曲譜読みが出来ないの?どうして?…忙しかった?そうか、何がそんなに忙しかったのか、言えるかな?(月曜日は体操のお稽古があって、火曜日と水曜日はおばあちゃんが来た)。そうか、でもそれは3日だけだよね。あとの4日は何してたの?(宿題…)。そう、でもおトイレは行った?あらそう、おトイレに行く時間はあるの。お食事はした?あらそう、お食事する時間はあるの?それなのに、練習する時間は無いの?あのね、時間が無いって言うことは無いんだよ。時間って言うのは作るものなんだよ。」 私が現在教えている生徒さんたちの中にピアノを専門に勉強するようになる子は、いない。 その子が一曲を何週で仕上げようが、その子の人生にとっては大差ない。 私の仕事は、その子が音楽に興味を持つこと。 毎週のレッスンを楽しみに待つこと。 私に会うのを楽しみに、私に聞かせたい!練習をしたい!と思わせること。 やっと気が付いた。 私が養育しているのは、ピアニストの卵、では無い。 私が養育しているのは、将来の音楽愛好家だ、と言うことに。 そういう意味では、私は失敗続きだったのかも知れない。 それに気が付かせてくれたのは、意外にも教え始めたころは私が頭を抱えたSちゃん。 慎重と言えば聞こえが良いが、一つの質問をして答えが返ってくるまでに1分かかったりする。 ご両親は非常にエリートなのだが、Sちゃんの生活に親御さんの姿が見えない。 いつも英語をしゃべれない家政婦さんとSちゃんだけ、のお家。 声に抑揚が無い。表情が変わらない。反応が鈍い。

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Ask and you shall receive(求めよ、さらば与えられん)

博士論文のリサーチの過程で 「これは凄い学者だ!」と思う人が何人か出てくる。 その中の何人かは、何冊もの著書や監修した本や記事を読ませてもらったりする。 その中でも私がほとほと脱帽しているのが、William Weberと言う人。 音楽学者ではなく、歴史家である。 歴史の流れの反映として音楽史を捕らえていて、それが私には本当に面白い。 ところが、私の論文の一番大事なところで、ちょっと彼の記事と著書に矛盾が生じた。 こういう事である。 リサイタル、と言うのは「独奏会」の英訳だ。 リストが1840年にロンドンで演奏した際、自分の宣伝と批評でこの言葉が使われ定着した。 リサイタル(Recital)と言う言葉は動詞の「To recite(暗唱)」が語源とされている。 元々、1840年に「リサイタル」と呼ばれたのは、 当時としては型破りでリストが全く一人で演奏会をこなしたときに使われたが、 その後、他の奏者も交えて弾いた演奏会も「リサイタル」と呼ばれたため リサイタル=独奏会ではなく、リサイタル=暗譜で弾いた演奏会、ではないか、と Weber氏がThe Great Transformation of Musical Tasteで述べている(160ページ)。 この本今年の一月にホヤホヤの日本語訳が出版された。 http://www.h-up.com/bd/isbn978-4-588-41029-1.html 私はこれにクライついた!やった~、やっと裏付けが取れた~! ところが… オンラインの音楽辞書で一番権威のあるOxford Dictionary Onlineで 「リサイタル」と検索すると同じくWeber氏の記事で 「To recite=解釈」と読んでいるのである… こ、困る…。 悶々と数分悩んだ末、私は一念発起をして、Weber氏のメルアドを検索し、メールを出した。 そしたら即、返事が来たのである! しかも、私のトピックに非常に興味がある、と!! そして私は「博士論文」と明記したのに「あなたの本のアウトラインは素晴らしい!」と。 嬉しい~~~~!!!! しかし、Recitalと言う言葉が暗唱を意味しているかと言う点については のらりくらりと逃げられている。 要するに、分かり得ない、と言うのがWeber氏の立場で、全くそうなのである。 でも、実は私はリサーチを進める上でいくつかRecital=暗唱の裏付けを取ってきた。 ので、明日、氏に報告。 もう一つ。 私は我ながら非常に劇的ないくつかの出来事を潜り抜けてきた。 何か起こる度に(いつか本にしよう)と思うことで乗り切ってきた。 最近、博士論文を書き終えたら、自分の本を書き始めよう、と決意した。 そして、ニューヨークタイムズ読書投票上位を誇る、ある女性著者にメールしたのである。 そしたら、今日電話でお話しが出来た! しかも、物凄く勇気づけてくれ、適確なアドヴァイスを沢山もらえた! そして2週間後にまた電話で話そう!と言われた! 適確なアドヴァイスその①。 英語で書くか、日本語で書くか、決める必要は無い。 まず、自然に自分の中から流れ出るままに、日本語と英語のちゃんぽんで書けるだけ書け!

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