演奏道中記7.18:テンポのプレゼン準備

3年ぶりに日本に帰国して10日目です。毎日素晴らしい出会いと美味と美景と家族に感謝です。充実しすぎて日々の感動の備忘録が間に合いませんが、今日はとりあえず3日後に迫ったテンポのプレゼンの原稿をここで披露します。

ゴリラの赤ちゃんは泣かないってご存知でしたか?

人間とゴリラの遺伝子の違いはわずか1.2%~1.6%。じゃあなぜその赤ちゃんは泣かないのか。そこに人間の共感力と音に感情を覚える習性のヒントを見出したのは人類学の山極寿一博士です。

ゴリラの赤ちゃんはお母さんの体重に対して非常に軽く生まれます。更に人間の赤ちゃんよりずっと筋力があり、お母さんにしがみつける。だから生まれて一年間はゴリラのお母さんはずっと赤ちゃんを抱っこし続け、食事からトイレまで全て面倒を見ます。対して人間の赤ちゃんはお母さんの体重に対してすごく重いし、筋力が無いに等しい。人間の赤ちゃんは沢山の人で協力して育てる様にデザインされているんです。だから人間の赤ちゃんは泣いてトイレや空腹を知らせる。更に赤ちゃんには、自分に向けた発声の意向を汲むために声音を聴き分ける能力を急速に発達します。それが声の抑揚で意思疎通をする、いわば音楽の起源ではないか。

それを裏付ける研究結果もあります。音の微妙な高低や、同時に鳴る音を一つ一つ聞き分ける聴覚力に於いて、人間の方が他の動物より優れているという研究です。これは耳や聴覚を司る脳の部分の構造からもう違うんです。人間にとって、音でする感情表現や意思疎通がいかに感動的かという証拠だと思います。

ここでちょっとそのパワーを皆さんに体感してもらおうと思います。まず、あああ~、とため息をつく感じで発声しながら声の音程を下げていってください。下降する音型は吐息に似て、体も心も緩みます。落ち着く。解決する。だから断定や決意の発声する時は文章の最後で声の抑揚が下がりますよね。例えば「This is a pen.」「I am Makiko」「I like you」

次にあああ!?という感じで声を高くしていってください。上昇する音型は吸う息に似て、意気ごみもテンションも上がります。同時に欲求度が高く、サステイナブルではなく、解決を求める。質問の抑揚は上昇で終わり、次の文章で解決を求めます。「Is this a pen?」「Am I Makiko?」「Do you like me?」断定系の文章を高い声で終わらせると、自信の無さと取られてしまう事もあります。

「音楽は世界の共通語」と言いますが、「音感(聴覚)は世界の共通語」と言った方が正しいのかもしれません。音感や聴覚が、意識を超えた所で万人共通の要素がある結果として、音楽が万国共通の要素を持つ。もう一つ例を挙げて見ましょう。

ブーバ・キキ効果(Bouba/Kiki Effect)」というのは1929年に発見された心理現象でその後繰り返しその再現性が立証されています。下の様な図を見せると98%の人間がその言語や年齢に関係なく、丸っこい形を「Bouba」ギザギザを「Kiki」と認証する、という研究結果です。喋り始める前の赤ちゃんでもそうなんです!

そしてこういう事の結果が、「大きい(Large, Grande)」という時は口を大きく開け、「小さい(Small, Petite)」という時は口をすぼめるという、当たり前と言えば当たり前でも、世界共通の音感に繋がる。

音楽の醸し出す一体感は「人間みな兄弟」だ、「人間の共通項は個人とか文化の違いよりもずっと多くて偉大だ」、という事を思い出させてくれます。そして音楽を通じて共感力の気持ちよさ、楽しさを育むことで、協力と共存で繁栄する我々の社会性のスウィッチが「オン」になり、困難にも立ち向かえるのだと思います。

1 thought on “演奏道中記7.18:テンポのプレゼン準備”

  1. お疲れ様です。

    充実の帰省が一文から読めました。存分に堪能してください。
    「音感(聴覚)は世界の共通語」は、とても佳い言葉です。
    ゴリラの赤ちゃんは泣かない、知りませんでした。

    天候不順ですので御身体ご自愛ください。

    小川久男

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