演奏道中記7.23:カワイ竜洋工場訪問

私はシゲル・カワイ・アーティストです。

シゲル・カワイ」の事を、私は「トヨタのレキサスの様に、カワイピアノが特別開発した演奏会用の特上ピアノです」と説明しています。音の温かみ。丸さ。低音の豊かさ。深い味わい。奥行。底力。その全てを兼ね合わせたピアニストにインスピレーションを与えてくれる、素晴らしいピアノです。先月行われた仙台国際ピアノコンクールのファイナリストが全員、世界中の数ある様々な楽器からシゲル・カワイを選びました。日本が世界に誇るべきピアノです。私は2018年の5月に正式にシゲル・カワイ・アーティストとなって以来、色々な演奏会でシゲルカワイの最高級のピアノを演奏させて頂いています。去年の10月にヒューストンのアジア・ソサイエティー・テキサス・センターでの演奏や、今年の5月LAのThayer Hallで行った演奏会もそうでした。

昨日は浜松にあるカワイ竜洋工場を見学に行ってまいりました。LAに拠点を置く「カワイ・アメリカ・コーポレーション」で私がいつもお世話になっている天才的調律師MPA(マスター・ピアノ・アーティザン)の村上達哉さんにご招待いただいたのです。

竜洋工場の正面玄関でMPAの村上達哉さんと。

後ろの星条旗は私のために皆さんが掲げて下さったものです。玄関にはなんと「ようこそ!カワイシゲルアーティスト、平田真希子さん」というディスプレイまであってそのおもてなしの心に大感激でした。

カワイの歴史は創業者、河合小市(1866~1955)で始まります。11歳で山葉風琴製造所(現在のヤマハ楽器)に丁稚奉公した小市は1900年には非常に複雑なピアノのアクションの日本製第一号を独学で完成させ、晩年には藍綬褒章を受章しました。彼の人生を追うと、明治維新後の日本の近代化・国際化が垣間見れます。

右の写真の中央で眼鏡をかけているのが小市です

第二次世界大戦後、河合小市の次女との結婚で婿入りし、河合楽器製造所の二代目社長・会長となったのが河合滋(1922~2006)です。1980年に5万坪以上あるこの竜洋工場を、職人が一台のピアノに真剣に向き合えるよう「森の中の緑の工房」と命名しました。工場開設の時は、職員が一人一人植樹をしたそうです。昨日お迎えくださった所長さんも、その時に一本植樹をなさったとおっしゃられていました。今では約3万本の木が植えられているそうです!

係の方にカワイの歴史や竜洋工場の説明を受けた後、工場にお邪魔してピアノを創り上げる工程を一つ一つ見せて色々説明して頂きました。工場内部は写真撮影はNGなので、下の写真でその工程をご覧ください。

工場内部をご案内頂いて、色々感じ入る事がありました。まず、職人さんたちが一人一人気合を入れていらっしゃることがその表情と、作業に没頭している姿勢や気迫から感じ取られたことです。自分の練習と似ている、と思ってとても共感しました。良いものを創り上げたい!という気持ちは、ピアノ製作者・調律師・奏者、皆同じです。その思いの全ての集結が、演奏なのだと思います。

もう一つは「出来るだけ手作り・手作業を多く残す」というカワイのこだわりです。それには二つの理由があると、副事業部長の三輪さんにご説明頂きました。三輪さんはご自身がチェリストで、その音楽への愛着はピアノに対しても溢れんばかりです。

一つ目はピアノを形成する多くの部分が木材や羊毛から出来たフェルトなどの「生もの」で出来ているという事です。それぞれに個性があります。その個性を見極めて、例えばピアノの弦を巻き付けるねじの様な部分の高低を微妙に調整する感性が必要になってくるのです。こだわりと、熟練と、集中力が必要になります。機械仕事ではダメなのです。

もう一つは、手作業が改良と革新を可能にする、という事です。塗装や、塗料をサンドペーパーで磨き上げる工程などは、機械でやろうと思えばできない事もない作業だそうです。でもその木材の個性に合わせて塗装を何度も重ね塗り、そしてはじめは荒いサンドペーパーを段々と細かいサンドペーパーにして行き磨き上げていく過程を手でやる事で、塗料が木材に及ぼす影響や、漆黒の色合いの艶の具合などに、楽器全体に対する新しい技術や改良や革新の種が在るのだそうです。これを機械に任せてしまうと、もうそれ以上の進化はあり得なくなってしまう。この言葉には、私は本当に感動しました。

この工場では、練習用のアップライトや家庭用のお手頃な小さなグランドなども製造しつつ、その傍らで一番多く手作りの部分を残したフルコンのシゲルカワイも手掛けています。フルコンのシゲルカワイは一年に十数台しか創らないのだそうです。それはこだわってこだわって、「ハンマーの神様」やそれぞれの部分の製作や調整について天才的な熟練の技術者が丹精込めて創り上げていくからです。その微調整の為には、外からの音と、壁や床からの反響を全て取り除いた防音室もありました。そのピアノの純粋な発音だけを聴いて調整し、調律し、世にカワイの技術者たちが胸を張って誇りを持って送り出せる物を創り上げるわけです。

試弾室には、そうやって創られたシゲルカワイのフルコンが二台!

シゲルカワイアーティストとして、誇りとインスピレーションで胸がいっぱいになっているところで、フルコンのシゲルカワイを2台、試弾させて頂きました。ピアニストにとってフルコンを弾くというのは、心置きなく音量・音色・共鳴・息遣いで自分の思い描く理想を現実化するという夢のようなご馳走です。バッハ、ショパン、ラフマニノフ、ドビュッシー、シューベルトと弾き進みながら、いつまでもいつまでも弾いていたい気持ちでした。

色々ご案内下さった竜洋工場の皆さんとは本当におなごり惜しかったです。私は在米日本人ピアニストとして、シゲルカワイアーティストである事に今まで以上に意義と誇りを感じながら皆さんにお別れを言い、工場を後にしました。

最後に村上さんにウナギをご馳走になりながら、ピアノ談義、そして音楽談義で盛り上がりました。村上さんは素晴らしい調律師さんであられると共に、オペラ歌手さんでもあられるんです!

4 thoughts on “演奏道中記7.23:カワイ竜洋工場訪問”

  1. お疲れ様です。

    カワイ シゲル 愛が嬉々として伝わってきます。
    が、へんてこりんな日本語は、激しい愛情表現と理解しています。

    小川久男

  2. Thank you for sharing. I am one of musician who love Kawai more than any other brand.
    I more understood why Kawai is so amazing and special from your article.
    One day , I would like to visit Kawai factory.
    Wish you all the best !!

    1. Sachiko-san, thank you so much for your kind words!
      I hope you’ll get to visit the Kawai factory some day – I found it really inspiring!
      Makiko

  3. Pingback: 演奏道中記7.31:濃密な7月でした - "Dr. Pianist" 平田真希子 DMA

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