美笑日記4.3:ジェーン・フォンダとジャヤパル議員と握手

海を見下ろす個人宅で開かれたパーティーに招待され、女優で社会運動家のジェーン・フォンダと米国下院議員のプラミラ・ジャヤパルさんと握手をして言葉を交わし、アフリカ系アメリカ人としては史上二人目、そして女性としては最初のロサンジェルス市長であるカレン・バス氏のスピーチと共に、その政治観を拝聴しました。

ジャヤパル議員の選挙資金を募る会です。参加費用は私には非現実的な額だったのですが、この会のスポンサーの一人だった映画業界の友人が「是非あなたにプラミラのスピーチを聞いてもらいたい。私の招待客として参加して」と誘って下さったのです。

私は「社交の場では政治と宗教の話題は避けることが礼儀」と教えられてきました。「芸術というのはあらゆる価値観を超越することが理想なのだから、特に世俗的な政治経済については公言をするな」と言われ、自分自身もそう思ってきた側面もあります。芸術家は一般的に左寄りですが、芸術に出資をする立場にある人たちは右寄りが多いのも、若いころからの躾の背景にあるのでしょう。特にトランプが大統領選に勝った2015年の暮れヒューストンに住んでいた私は、演奏シリーズの主催者に「演奏後のレセプションでは(出資者たちも出席するので)絶対に政治の話しは避けてくれ。話題を振られてもはぐらかしてくれ」と何度も言われた記憶が鮮明です。

私を招待してくれたのは、ドキュメンタリー映画プロデューサーです。「The Invisible War(邦題:見えざる戦争)」(2012)ではアメリカ軍隊で起こるセクハラ・強姦・隠ぺいがいかに一般現象かを暴き、劇的な状況改善へと発展ました。続いてプロデュースしたのはエリート大学キャンパスでのセクハラ・強姦・隠ぺいの文化を描いたドキュメンタリー「The Hunting Ground(邦題:ハンティング・グラウンド)」(2015)。両方ともエミー賞を始めとする数々の賞を受賞し、政策や一般大衆の意識の変化を及ぼした映画です。正直にいうと私がこの会に参加したのは、尊敬する先輩の招待が嬉しかったからと、こういうイベントに対する単純な好奇心からです。

  • 出席にあたり、色々悩みました。
    • こういう会には何を着ていけばよいのか?(結局「自意識過剰はいけない!」と着慣れたツーピースのおしゃれ着で行きました。)
    • 18時から20時の会と言われているが18時に演説が始まるのか?早めに行ったら迷惑なのか?(結局18時ドンピシャに到着しました。)
    • お腹はいっぱいにしていくべきなのか?(腹六分で行ったら軽食が出ました。)

着いてから1時間くらいは社交の時間。友人は暖かく迎えてくれ、私をホスト夫婦などに紹介してくれました。18時ドンピシャに到着した時点では15人くらいが飲み物を手に、海を見渡すお庭や開放的で絵画や彫刻が点在する居間などを歩きながら歓談していました。出席者はみんな友好的で私もすぐに会話に加わることができました。光を媒体とする芸術家。エイズなどの感染症の患者さんや発展途上国の孤児たちや末期の患者さんなどスキンコンタクトのチャンスに飢えている人たちにタッチを提供するNPO The Heart Touch Projectの創立者。社会福祉従事者。精神科医や看護士などの医療関係者。弁護士。消防局長。平均年齢は高い:60~65歳くらいでしょうか?80歳代が10人以上おられるように見受けました。火曜の18時~20時、自由に社交できる高収入者が対象だから高齢者が多くなるのは自然です。白人がざっと80パーセント。その中でもリベラルのユダヤ人が多くみられたのはジャヤパル議員の強い主張の一つがイスラエル・ガザの停戦だからでしょうか?

楽しくお話をしていると、ジェーン・フォンダさんがご挨拶に回ってきてくださいます。Wikiによると御年86歳。でも華を演出するプロです。華奢な体にまとったさりげなく派手なプリントのスラっとしたスラックスと、いかにも美容室でセットをしてきた完璧な髪型。厚化粧を悪びれない何層にも重ねられているファウンデーションは遠目には奇跡のように若く見えます。そして目が透き通っていて本当に宝石みたい。ベトナム戦争時代に遡るフォンダさんの社会運動とその為に繰り返された逮捕歴についてはコロナ禍に鑑賞したドキュメンタリー映画で見知っていました。でもそんなことをわざとらしく言うのもなんかいやらしい。すっと伸ばされた右手と共に「Thank you for being here. And what is your name?(来てくださってありがとう。あなたのお名前は?)」と言われた時には「My name is Makiko. It’s great to meet you.(私の名前はマキコです。お会いできて光栄です。)」と儀式のように返しました。覚えるつもりのない名前を挨拶として尋ねられ、発展を期待しない会話を交わす寂しさも一瞬感じましたが、でもこの段階で集まった人はざっと50人。そしてフォンダ氏は全ての人と握手とあいさつを交わすことを自分の役割と心得ている感じで、一人ずつ着実に挨拶をこなしていきます。

ジャヤパル議員さんも全く同じ感じで回ってきました。「私の名前はマキコです。お会いできて光栄です。」笑顔がこなれている、でも自然で人当たりがよい女性です。

「演説の開始が遅れているのは市長の到着が予定より遅れているからなの。ちゃんと食べてる?ちゃんと楽しんでる?」先輩友人が気遣ってくれます。私と会話をしていた人々が「市長が来たら飛行場の周りの渋滞についてみんなで言わなくっちゃ!」「オリンピックまでの道路整備はどうなっているのかしら?」「ホームレスも増えていますよね~。」(みんな遠慮ないな~。)私は内心唖然として、まだ会ったこともない市長がにわかに気の毒になります。

そうこうしている内にみんなが居間に集合を始めます。まず今回のイベントのために自宅を開放した夫婦が簡単な挨拶と歓迎の意を表し、そのままロサンジェルス市長、カレン・バス氏を紹介します。

バス市長のこの会での役割は、ジャヤパル議員を持ち上げ、次期選挙に向けての献金を促すことです。バス市長は堂々と壇上に立ち、朗々とカリスマたっぷりの挨拶の後、議員がいかに積極的で勇敢で有能で素晴らしいか、一緒に議員を務めた時の逸話を交えながら謳いあげます。(バス市長はバイデンの2020年大統領選の際、副大統領候補として噂をされた政治家です。)7分ほどの紹介を受けて壇上に立ったジャヤパル議員はお返しに、バス氏がいかに議員から市長への珍しい移行を成し遂げたか、そして市長としていかに現場で実際の任務を次々敢行し業績を上げているか褒め称えます。続いてジャヤパル氏はなぜ自分が政治の道を進む決意をしたのか、使命感を持って担う任務や全うしたいゴールなどについて、朗らかに、しかし確固たる決意を持って、語り続けます。「私は月曜日に移民、火曜日に働く母親、水曜日にマイノリティー女性な訳ではない。私は毎日沢山の職務をこなしながら、同時にそういう人間関係や社会的立場も背負って生きてきています。政策というのはそういう沢山の側面を持つ市民一人ひとりが、全ての側面に於いて支援を受けられている安心を提供するべきものではないでしょうか。」バス市長もジャヤパル議員も客席から携帯が鳴り響いてもびくともしません。流暢に、しかしゆったりと淡々と、にこやかに有権者たちの代表を務める政治家の任務の一つと心得て、意思表明を完璧にこなします。

プラミラ・ジャヤパル米国下院議員

なぜ私の先輩友人が私を熱心に誘ってくれたのか分かった気がしました。バス氏はアフリカ系アメリカ人女性、そしてジャヤパル氏は16歳の時のアメリカ留学をきっかけに移民したインド人女性です。「初の女性」「初の有色人女性」と持ち上げられながら、一方で心無い中傷や暴力の対象にもなったりしています。2023年8月にジャヤパル議員は半年間で4万5000ドルを警備のために使ったと証言しています。

殺害の脅しを何度も受け、銃を持った男性が玄関に現れたこともあります。仕事をするために、しかも選挙で選ばれ投票者たちに託された仕事をするために、警護にここまで投資をしなければいけない羽目になるとは想像もできませんでした。

シアトル・タイムズのインタビュー記事2023年8月2日

ジェーン・フォンダ氏はジャヤパル議員を褒め称え、参加者たちに献金を呼び掛けるのがフィナーレです。「これは最高の賛辞の言葉としていうのですが、ジャヤパル議員は典型的な政治家では全くありません。彼女は一人の人間、そしてアメリカ民主主義の理想を追求する一市民として、身の危険を冒して環境・人類・人権のために堂々と戦っています。彼女は企業や裕福層ではなく、子供・移民・高齢者・戦争被害者など弱者を代表し、その権利を守るために苦労を勝って出てくれているのです。」私はジャヤパル議員やバス市長の逸話やジェーン・フォンダ氏の演説を拝聴しながら、Civic Duty(市民の責任)として最高裁裁判官候補になっていたブレット・カバノーの高校時代のレイプ未遂を告発したクリスティーン・フォード氏や、同じく最高裁裁判官候補だったクラレンス・トーマスをセクハラ糾弾したアニタ・ヒル氏などに思いを馳せていました。そしてフェミニストの女性として輝かしい経歴の先輩友人が、自身の経験やネットワークで私を勇気づけようとしてくれていることに感激したのです。

質疑応答はすごいヒートアップしました。イスラエルでの内戦をどうすれば停戦に持ち込めるのか。なぜバイデン政権は武力をイスラエルに送るのか?パレスチナ人たちの飢饉問題は?「イスラエル以外の質問はありませんか?」議員の問いかけは無視され、次の質問者もイスラエルに関して持ち掛けます。「私はMedicare for Allについて話したいのですが…」議員が持ち掛けてもシューッと消えてしまいます。

質疑応答が終わるなり、私は帰宅を決めました。豪邸の前で駐車係員に車を出してきてもらわなければいけません。皆が列をなして自分たちの車が出てくるのを待ちます。私が運転するのは2009年のトヨタ。いくら無頓着な私でも…あまりにも場違い。ここは誰よりも早く退出したい… 初めて自分の車が他の人にどう見えるのかを気にすると同時に、腹が立つような気もしたのです。これが民主主義なのか?結局お金を持っている人が選挙や議員の意見や優先順位を左右しているじゃないのか。大体政治家はこんなに毎晩お金集めに奔走していて本業をしている時間はあるのか。

でもじゃあ、これが正統な民主主義じゃないとすれば、他にどういう政治構造を提示できるというのか。

一日を経て、まだうんうんと悩んでいます。なんにせよ、アメリカ政治の側面を垣間見る貴重な体験をさせていただけたことに感謝です。

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