美笑日記11.9:トランプ当選に悲嘆する理由

トランプは3回大統領選挙に出馬し、一度だけ負けた。負けた唯一の相手はバイデン大統領ー白人男性ーだった。トランプに敗れた女性は二人ともトランプより高学歴で、より若くして経験も語彙もより豊富。白人女性のヒラリー・クリントン氏は女性候補者として出馬することの意義を選挙活動で前押しにし、逆に黒人とインド人の混血のカマラ・ハリス氏はしないことで別のアプローチを試みた。それでも二人とも、性暴力や事業記録改ざんや機密文書持ち出しを含む数々の有罪判決を受け、2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件を煽りさえしたトランプに負けた。これがアメリカという国の女性蔑視でなくて何だというのか。

今回の選挙結果の要因の一つを根深い女性蔑視と人種差別の結果と語る専門家は少なくありません。それは、ひっくり返せば白人男性優勢主義ということです。

マキコ、気を付けて。あなたのことを心配しています。

私にメッセージをしてきてくれたのは、私が8年ほど前ストーカーの刑事責任追及に奔走していた際、強力かつ経験豊富で有能な助っ人となってくれた社会福祉専門の白人女性です。彼女がメッセージに添付してきた記事の数々には、選挙結果発表以来起こっている女性蔑視の動向が書かれていました。「Women are Property(女は所有物)」のサインがテキサスの大学構内で掲げられていたケース。「Your Body, My Choice, Forever(「My Body, My Choice」という女性の避妊や中絶の権利を主張するスローガンをもじった「女性の体は男性のもの」という意味)」というSNSメッセージが広まっているケースなど。

更に輪をかけておぞましい事件がこれです。

アメリカ中の沢山の州で様々な黒人がスマホのテキストでこんなメッセージを受け取っているのです。発信者は不特定多数で、内容の詳細には色々違いがあるようですが、この写真はこういう内容です。

「大農園で綿をつむ作業につくように。1時丁度に茶色の荷台者が迎えに来る。所有物をまとめて待機。農園に到着次第、身体検査を行う。農園グループCに配属。」

このBBCの記事によるとFBIが捜査中とのことです。

こういう不穏な情報が私の周りでは今飛び交っています。性転換をした若者たちの心身の健康データを集める研究をしている友人は、今回の選挙結果で研究費が廃止となることを心配しています。環境問題の研究や運動をする友人も同じく。同性愛者の子供を持つ親たちたちは、子供たちのこれからの人権を危うんでいます。10代後半の娘を持つ知り合いは「絶対に絶対に妊娠しないで」と頼んだ、と暗い顔で打ち明けてくれました。話しながらしゃくりあげて泣いていた人もいました。ズームをしたら「カメラオフでもいい?ずっと眠れてなくて…」という同僚もいます。

私は泣いてはいません。夜もしっかり寝ています。むしろ選挙を待っている一週間の不安の方がつらかった。選挙結果が明らかになるまでに数日はかかると思っていたので、ここまですんなりとトランプが当選したことが意外ではありましたが、むしろ結果が出て(じゃあ自分にできることは何なのか)と対策を考えられる今の方が楽です。でも夜中に目が覚めて「グリーンカードが13か月で切れるけれど、いつから更新の申請ができるんだろう。トランプ政権は私の永住権を更新するだろうか。」と考え始めてしまったりはします。関税引き上げやインフレの悪化などで、これからの物価高騰が懸念されます。車のパーツ交換は今すぐできるだけやってしまおう。買い置きしておける物は買い込もう…

投票日の翌々日の木曜日、生涯学習センターでの演奏がありました。聴衆の方々は、皆さんおしゃれで全然見えないけれど、80代や90代の先輩たちです。「人間みな兄弟。否が応でも我々は時空を共有する運命共同体だということを、音波が、音楽が思い出させてくれます。」お話をしながらモーツァルト・シューマン・バッハ・ショパンと弾き進んでいくと、皆さんの表情が和んで、反応がどんどん活発になっていきます。質問も笑顔も笑い声も沢山出て、一時間の演奏会で結束の一体感が充満しました。演奏後、ひとりの女性が私の肩をそっと叩いて教えてくれました。「今日の参加者はほとんどがユダヤ系で、しかも第二次世界大戦を覚えている世代です。我々にとっては今回の選挙は1933年のヒットラーの選出を彷彿とさせるものだったんです。でも今日のあなたの演奏とお話しに本当に救われた。ありがとう。」ギューッとハグを交わしました。

(これからのアメリカはどうなるんだろう…?)

(どうしてこんな結果になってしまったんだろう…?)

(自分に足りないことが、至っていないところが、もっとできることがあるのではないか?)

芸術家。有色人種。移民。女性。高学歴。カリフォルニア州の都市部在住。東海岸で10代・20代を過ごす。私の生い立ちやアメリカでの立場や交友関係などに於いて全てハリスよりの人間です。(もしや私にもバイアスがあるのでは。私にはトランプ支持者を理解しよう・共感しよう・寄り添おうという気持ちが少なすぎるのでは…)なんとか今回の選挙結果を、自分の様な人間に対する敵対心の結果ではないと思いたい…トランプに投票したみんながみんな白人男性優勢主義者だとは思えない!

そしたら意外にも近くにトランプ投票者が居たのです。

「お母さまはお元気?」。夕飯を一緒にしながら友人に話しのついでに聞いてみたのが一昨日。私と同じく13歳の時にアメリカに移住してきた中国系アメリカ人の友達です。彼女のお母さまは英語がほとんど喋れないのですが、中華料理店で働いていた経験もありお料理上手で、時々お母さまの手料理をご馳走になっていたのです。

友人:「母とはしばらく話しをしていないの。選挙の話しで喧嘩になってしまって…」

私:「えええ?もしかしてお母さま…」

友人:「そう、トランプに投票したの。」

私:「な、なんで~~??」

友人:「母だけじゃないの…中国からアメリカに逃げてきた母の世代は、中国が大っ嫌いなの。そして彼らは中国に対抗できるのはトランプしかいないと信じているのよね…中国以外にも色々あるし、中国一つをとっても敵対すればよいってもんじゃないとか、そういう複雑なことは考えてみようともしないの。私は中国語が不自由だし、母は英語が喋れないでしょ?お互い、相手に説明しようとすればするほどイライラしてしまって…」

…在米で英語が不自由だったら情報源は限られるだろうし、自分と似たような友達の意見に感化されたり、集団心理に動かされやすくなるであろうことは想像できます。

「トランプの英語は分かりやすい」…そう、日本人に言われたことがあります。確かにトランプの文章は短いし、語彙も単純。同じことを何度も繰り返すし、メッセージも論理性に欠けるけれども単純で感情的。…それを好ましく思う有権者が過半数いた、ということ?

いやいや、それだけでは絶対にない。

下のヴィデオはいかにWhite Christian Nationalists(白人キリスト教国粋主義者)が「アメリカはキリスト教信者の白人の国であるべき。」「我々の価値観を共有しない人々に権利を与えるのは、我々の権利や利益の軽減につながる」という信念の基に、自分たち以外の全ての人々に圧力をかけようとしている、その一環としてトランプ政権とプロジェクト2025が必要だとしている、と説明しています。

更にソーシャルメディアのアルゴリズムがクリックさせるために信頼性よりも煽動性・感情性を重視し、その上にアメリカの選挙結果を左右させたい外国が様々オンラインの情報操作を試み…

これはもう選挙制度や間接的民主主義を根本的に見直すべきなのでは…?

頭をくしゃくしゃにして考えていたら、野の君がお夕飯に誘い出してくれました。ずっと前から興味津々だったロサンジェルスで一番古い日本食屋の「お富さん」。第二次世界大戦中の強制収容された日系アメリカ人たちが、戦後頑張って立て直した日系人コミュニティーの名残です。

ブロッコリーやアスパラの天ぷらは日本ではあり得ませんが、こちらでは割と定番。衣がカリカリサクサクで熱々でおいしかったです。そして揚げ出し豆腐丼は御覧の通り。こちらも熱々カリカリで中はトロトロ。アメリカ風に濃厚な「テリヤキソース」をかけて食べるのですが、意外性も楽しめる美味でした。お豆腐の下に青梗菜や玉ねぎや赤ピーマンの千切りなどの蒸し野菜があり、その下にたっぷりと銀シャリ。紅ショウガが添えてあります。

我々がこんなにも堂々とロスで暮らしてこれているのは、何世代もの日本からの移民や日系人が、誇り高く・辛抱強く頑張り続けて来てくれたからなんだ。彼らが受けてきた人種差別や不正はきっと今の我々には想像もできないほど大変だったに違いない。第二トランプ政権がなんだ!我々はまだまだ大丈夫。教育も受けた。アメリカ憲法に於ける自分の権利も理解しているし、主張する覚悟もある。お富さんで、そう話し合いながら、野の君と勢いよく一杯食べました。5時に到着したのに30分ほど待つ人気ぶりも嬉しかったです。

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