学会(PAMA)1日目:舞台芸術医療協会

舞台芸術関連の医療問題に関する学会に出席しています。私はヒューストン・メソディスト病院と行った共同研究に関して明日発表させて頂きます。またヒューストン・メソディスト病院のCenter for Performing Arts Medicine(舞台芸術医療センター)を代表して全4日間学会に参加し、そのリポートを病院から定期的に発信されているニュースレターに記事として載せる、という役も仰せつかっています。

最後までオンラインの開催になるかハイブリッドになるか、主催者側から様々な矛盾する「最新情報」が送られてきました。が結局、今年は完全オンラインの学会となりました。海外からの参加が多かったので、これはしょうがなかったでしょう。しかし主催者が東海岸に居て、日程がNY時間の朝8時から組まれているのにはちょっと閉口。西海岸に居る私の様な参加者にとっては最初のセッションが5時から始まるのです!更にオンライン学会だと残念なのは、社交が出来ない事です。たまたまコーヒーやビュッフェで言葉を交わした人と共同研究をする事になる、とかそういう「ご縁」が無い。逆に完全オンラインの学会の良いところは全ての発表が録画され、学会開催中いつでも何度でも観られること。

今日私が参加した発表とワークショップ

  • 6:45~ 歌手の為のステロイド処方に関して
  • 7:00~ 声帯ポリープの外来レーザー治療
  • 7:30~ 最高の状態での演奏を引き出すために(舞台恐怖症の対処法)
  • 7:40~ 舞台芸術家と健康維持に関する会話を促進する方法
  • 7:45~ ハラスメントの心身悪影響と、医療保険がパワハラに使われるケースについて
  • 8:15~ フォーカルディストニアの段階治療について:あるピアニストの成功例
  • 8:45~ コロナ禍に於けるオケ奏者への心身健康状態の変化の記録
  • 9:00~ ドイツのコロンで実験的に始められた楽器奏者の為の特別クリニック(カウンセラー・医師・リハビリコーチなど全ての治療スタッフが元楽器奏者)
  • 10:00~ 特別ゲストスピーカー「正しい呼吸法の健康促進とパフォーマンスの向上」ジェームズ・ネスタ
  • 11:00~ 肉体的苦痛によって本領を発揮できない楽器奏者に関するデータ
  • 11:30~ 楽器演奏に於ける肩甲骨の大切さ(ワークショップ)
  • 12:45~ 運動家と芸術家の交流の意義
  • 1:00~ 鍼灸と指圧で舞台恐怖症に対処する:研究と実績(ワークショップ)

BioPsychoSocial Model(『生物心理社会モデル』)

これは私が今日初めて耳にした言葉・概念です。一番最初に7:45からの「ハラスメントの心身悪影響と、医療保険がパワハラに使われるケースについて」の発表で紹介されましたが、その後様々な発表で何度も出てきました。西洋哲学・西洋医学では肉体・精神・知性を分けて考えるという伝統がありますが、東洋では「病は気から」と言いますよね。この「気」に更に社会や環境を加えたものがこの「生物心理社会モデル」で、健康管理や病気治療、更には子供の発育などを考える時にも一人の人間を包括的に捉えようという考え方の様です。

舞台芸術家の健康維持にはハラスメント撲滅が重要課題。

まさに私が今本で言おうとしている事です!下の2枚のスライドは主に舞踏家を専門的に治療するDavid S. Weissというお医者さんの発表からです。

女性の舞台芸術家の方が健康を害しやすい理由

上のBioPsychoSocial Modelを考慮すると舞台恐怖症や、コロナ禍での不安症などで女性の方が男性よりも多く・大きく症状が出る理由が分かります。例えばセクハラは、男性も被害に逢う事もありますが、圧倒的に女性が多いです。更に今日のプレゼンでは人種問題は出てきませんでしたが、舞台恐怖症のプレゼンをした白人男性は私の質問に対して「黒人の楽器奏者の友人は『自分が舞台に出ると、一音も出す前にまず視覚的に価値判断されているのを肌で感じる』と告白してくれました。性別と同じように人種も舞台恐怖症を始めとするさまざまな症状を引き起こすと思います」と答えてくれました。

舞台恐怖症が医療問題として扱われているのも、嬉しかったです。

下の二枚のスライドは「鍼灸・指圧で舞台恐怖症の緩和治療」についてのプレゼンをしたハーバードの二人のお医者さん、ブリジッド・チンとローレン・エルソンのスライドからです。

スポーツ医療と舞台芸術医療の関係性

スポーツ医療は長年の歴史を持ち、研究や専門家も多い医療の分野です。それに対して舞台芸術医療は歴史も浅く、専門家も比較的少ないです。しかし舞踏は勿論、楽器演奏やオペラ歌手などの肉体性というのは、運動家と同じレヴェルの鍛錬と酷使です。なぜ舞台芸術医療の発展は後れを取ったのでしょうか?

「音楽=魔法」の問題:魔術師(や芸術家)はトリックを明かすな・苦労を語るな

これも多数の発表で違う観点から研究・発表されていた事実ですが、半数以上の舞台芸術家がそのプロ人生の中で肉体的苦痛を体験しています。しかし、その中で医療専門家やリハビリ専門家に相談を行く人の数は10%以下。多くは痛み止めなどを買って服用したり、痛みを無視して練習やプロ活動を続けている事が明らかになっています。心理的問題、例えば舞台恐怖症も同じくです。これには、演じる事に心身的な困難を感じている事を認めてしまうと「プロ意識が低い」「プライドが無い」などと先生・同僚・聴衆・主催者などから過小評価されてしまうという危惧と、舞台恐怖症や過去の怪我などを明かすと「雇うのにリスクがある」などと主催者に思われ仕事にあぶれるかもしれないという実際的な懸念、更に「黙って耐え忍ぶ」ことを美徳とする19世紀からの長い伝統などが在ります。しかし、この傾向が心身の症状を更に悪化させる悪循環が在ります。これをどう解消するか。これが今日沢山の人が色々な事例を持って違う提案をしていました。とても好ましい傾向です。

2 thoughts on “学会(PAMA)1日目:舞台芸術医療協会”

  1. お疲れ様です。

    学術的な文章でしたが、平易な一文で何とか理解ができました。
    よくも悪くも、直情径行。
    露悪的な公開は、馴染めませんが、曲の陰影には演奏者の濃淡があって然るべきだと思います。
    喜怒哀楽の感情に音符を付けたら面白いと思いました。

    小川久男

    1. ごめんなさい。
      私の日本語読解力が小川さんの高尚な文章についていけないようです。
      何か面白がっていただけているのなら幸いです。
      真希子

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