演奏道中記5.25:ショパンに憑かれる

「ブラームスのロマン伝統を継ぐ作曲家」と将来を期待されながらナチス政権でユダヤ人避難民となり、ロサンジェルスで失意の生涯を閉じたエルンスト・トッホの音楽と生涯を振り返る演奏会が盛況のうちに無事終わり、翌日出発したハワイでの1週間を経て、帰宅して5日目。次のギリシャ旅行出発まで後8日。

そんな中、突然ショパンに憑りつかれてしまいました。

オケや室内楽の共演のお仕事の場合は演目を指定されたり、協議して決めたりすることが多いです。それに対して独奏会の場合、演目は大抵自由に選べます。そして私は次の数か月、独奏会しか予定がありません。(何を弾こうか)と思っていた矢先。突然ショパンが弾きたくて弾きたくてたまらなくなったのです。

まずきっかけはロシアのウクライナ侵攻だった。決死を覚悟で戦うために帰国をする在外ウクライナ人の報道に触れ「死んでも守りたい『国』とか『独立性』とは何?」と考えた時、ショパンが関わっていたポーランドの独立を賭けた学生運動を思い出したのです。「君の才能をこの革命で散らすのには忍びない」と革命決行の直前国外に退出する事を勧められたショパン。期待していた多国の援助を受けられずに悲惨な結果に終わったこの革命の頃、ショパンが書いていたのがバラードの1番です。この曲の特にこのパッセージが、袋小路のやるせない感情を表現しているように思えたのです。

ルービンスタインの演奏です。

バラード1番は、私が小学校六年生の時に同じ門下生の先輩が発表会で演奏して(私も弾きたい)と憧れましたが、結局今まで一度も演奏した事が無い曲です。特に私は20代・30代は非常な頭でっかちのガチガチ硬派で、感情表現のはっきりとしたロマン派を鼻で笑うようなピアニストだったので、こういう曲は避けてきました。でも突然、本気で弾きたくなったのです!

トッホを終えて今度は1番よりはもう少し複雑度が高く、私が学生時代オーディションや卒業演奏で良く弾いたバラードの4番が弾きたくなりました。今度のきっかけは、環境問題に対する個人や世界の行動の無さに抗議して焼身自殺をした二人の男性の事を読み知ってたまらなくなったからです。世界の環境科学者や運動家たちも、石油産業に多大な投資をする金融機関やホワイトハウスの入り口などに自分の身体を縛り付けたり、高速で座り込んだり、ハンガーストライキを決行したりして何とかもっと環境問題に関する意識を行動を高めようと決死の行為に及んでいます。科学者の中にはもう何十度も逮捕されている人もいるようです。

環境問題について、知れば知る程ほど暗澹たる気持ちになる一方、世界が通常通りの消費者・使い捨て社会から全く前進していないのを見て、(自分は狂っているのか?)と非常に不穏な気持ちになります。この不一致は何?

そしてショパンが弾きたくなるのです。

ハワイでも海藻が激減し、砂浜が昔に比べてどんどん狭くなってきているそうです。

2 thoughts on “演奏道中記5.25:ショパンに憑かれる”

  1. お疲れ様です。

    過日、ガイアシンフォニー8を鑑賞しました。
    環境問題は、地球の存亡にかかわる重大な問題なのに
    ひとはなぜか無関心な人が沢山います。
    山の緑を破壊し、太陽光パネルが張られ、金儲けの手段に使われています。
    保水力を失った山は崩れ、人命まで奪われています。
    鎌倉には古都保存法があり、重要な文化財の周辺の緑は守られています。
    環境破壊は、このような法律で規制しない限り、守ることはできません。
    今は、良識が通用しない時代に入ったようです。

    小川久男

    1. ガイアシンフォニーについて初めて聴きました。
      ググってびっくりしました。
      色々な専門分野の人たちがそれぞれの視点から一生懸命訴えているのですね。
      これを統括して協力体制を成す為には何が必要なのでしょうか?
      コメントいつも、ありがとうございます。
      真希子

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