演奏道中記3.21:本番2回とその復習

演目が決まってから顔合わせまでが丁度一か月。顔合わせから本番初日まで5日間という日程で迎えた土日の本番。ご来場いただいた聴衆の方々はどちらの会でも暖かく会を楽しんで下さったのですが、自分的に言うとこれからの課題を多く残すこともありました。結論から言うと、自己採点で初日は70点。二日目は90点。大差が出ました。この差を文章にして復習する事で、自分の今後の成長の糧にしたい。それが読者の方々にご自分の練習や音楽観の参考にして頂ければ、更に幸いです。そういう気持ちでこのブログをしたためます。

今週末の演目で私が担当したのは3曲:
2曲目の「ホルントリオの為の3つの楽章」は奏者にも聴衆に難易度の高い抽象的な現代音楽。今回の演目の準備の為の限られた時間やエネルギーの大半を、この曲が演奏中崩壊しないで無事に弾き切れるために費やさざるを得なかった。イエール大学で作曲を教える若手女流作曲家の2012年の作品。
5曲目のピアノトリオ「ウィロースピーク」。それぞれの楽器の音色と表現の幅と入り交じりを時間をかけて愛でるような音の少ない美しい曲。1999年ピュリツァー賞を受賞したほか、グーゲンハイム賞など名だたる作曲家の為の賞を総なめにしている女流作曲家の2019年の曲。パンデミックで遅れた世界初演を今回ご縁があって手掛けられて光栄。
6曲目はブラームスのホルントリオ。演奏技術・感情表現共に多くを要求される傑作。弾けるのが幸せだが一生かけて掘り下げたい曲を一週間で形にする欲求不満もある。
本番①土曜日:ウェスタ―ベック・リサイタルホール19時開演
17時: 会場入り。250席ほどの横長で軽く楕円の解放感のある会場。ピアノの位置を決めたり、他の奏者の楽器の準備や、ステージマネジャーとの進行や照明の打ち合わせなどで音出しが始まったのが17時半ごろ。スタインウェイのフルコンだが、調整がきちんと出来ておらず、鍵盤の重みや上がり具合にばらつきがある。音色はこもりがちだが、温かい。音響は微妙なエコーが気になるが、適当な残響。今回は6曲の内3曲しか乗っていないし、18時半の開場までの限られた時間の中でピアノに十分慣れる時間が無い。

演奏⓵の反省と復習
  • 今回はリハーサル中マスクをしていたり、感染の恐れから初対面の握手も、リハーサルの後のハグもなく、更に現代音楽の難しさを克服するそれぞれの必死で、音楽を共に奏でる際に必要な「愛情ホルモン(オキシトシン)」の欠乏が在った。本番前の舞台裏で、着替えや進行確認の合間のひそひそ話しで、初めて出身地や学生時代や共通の友人の話しが少し出て、人間的な繋がりが出来た感じ。それが嬉しくて、ついつい演奏直前まで話し込んでしまった。集中の為に呼吸を整えたり姿勢の確認をしたりする一人の時間が取れなかった。
  • 演奏中のアドレナリンと、曲の難しさからラッシュとブラームスで共演者同士でテンポを煽る結果となってしまった。もっとリハーサルがキチンと出来ていたり、会場の音響や楽器に慣れていたらば、こんなに目前の音だけを追いかけるような演奏にはならなかったのにと思う。が、もっと体全体で振り付けをして、大きな動きや呼吸・句読点(フレージング)を考えることで、慣れていない楽器・環境・曲でもテンポがぶれないようにしなければいけない。
  • 誰かの為に弾くと、テンポも音楽性も落ち着くように思う。一回目の演奏では奏者がそれぞれ自分のパートに必死になってしまった。
  • 本番後帰宅して、寝る前の日課の「愛の夢」を弾いた時、どれだけ体に力を入れて弾いていたかを痛感した。指も手首も下腕もへとへとのへにゃへにゃになっていた。逆説的だが一生懸命になり体に力が入れば入るほど、目前の事に必死になり全体像が見えなくなり、余分な力が入ってミスが多くなり、そしてペース配分が出来なくなる。深く反省。メラトニンを飲んでよく眠って回復する。
本番②サンタモニカプレスペタリアン教会

日曜日の朝は腹ペコで目が覚めました。本番翌日は体重が驚くほど減っています。いつもより多めに炭水化物を心してとり、水分を一杯とります。ヨーガと瞑想は欠かしません。そして少し練習した後に、15分寝て、更にカロリー摂取をしながら支度をします。家を出たのは13時。LAマラソンの日で渋滞があり、会場入り指定時間の14時ぎりぎり到着。

この教会は去年の5月に収録が在った教会です。音響がよく様々なコンサートシリーズに使われている教会。スタインウェイ本社からフルコンが今日の為に届けられていました。
別のオケのリハーサルが14時まであり、その後スタインウェイ本社から調律師さんが入りました。「15分で済むから」と言った彼ですが、じっくり1時間の調整に成りました。その為我々は開場を15:45まで遅らせても結局30分ほど慌ただしく音響とテンポのチェックをしただけで本番に臨むことになりました。

でも実はこれが意外に良かったのです。

一日目の反省からまず、舞台裏では目を閉じて静かにしていました。共演者たちも皆同じ反省があったのか、今日はお話しは最低限。にこやかにしていますが、適当に距離を取る感じ。そして登板。力を抜いて、もっと全体像と体感を大事に音楽創りをしました。

何しろピアノが昨日よりずっと良かった。更にやはり一度本番を踏むと、進行やペース配分や集中し処の感じの掴み具合がずっと良い。また私の様な朝型人間はやはり午後の本番の方が強いのかも知れません。今回の演奏会で初対面だった3人の共演者たちと初めて心を通わせて音楽創りをする事が出来ました。

惜しかったのはブラームスの3楽章で、音楽に入り込み過ぎてクライマックスでベースを外してしまった事。どんなに感情移入しても理性を失ってはいけない。分かっているはずなのに、土曜日に比べて日曜日が余りにも上手く行っていたこと、そしてブラームスも演目も長かった一週間も終わりかかっていたこと、更に余りにもブラームスが愛おしくて、ついついやってしまった。

マキコ、まだまだ、です。でも着実に一歩一歩進んでいます。

演奏会の後、聴きに来てくれた友達とワインと多後馳走をゆっくり、色々喋りながら食べました。本番の後は、私は熟睡できない事が多いのですが、今回は土曜日も日曜日も爆睡。これも成長の証かな?

1 thought on “演奏道中記3.21:本番2回とその復習”

  1. お疲れ様です。

    行間に緊張感が漂っていました。
    スタンウエイでも調律ナシならただの箱と知りました。
    マキコイズムの出現と反省は、レールの如し。
    交わると脱線します。

    小川久男

Leave a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *