1985年以来の歴史ある演奏会シリーズ。毎週水曜日の正午から30分、無料で一流の生演奏を地域コミュニティーに提供するというNPOが主催しています。私もロスに越して来て以来、毎年1,2回出演させて頂いています。前回は去年の11月ー誕生日の直前の出演でした。コロナ禍のライブ配信をやっと生演奏に戻した去年の秋。でも週日の正午の演奏会は感染リスクの高い高齢者が主なのです。コロナ前の一割ほどの聴衆になってしまいました。1000人ほど入るステンドグラスが美しい大聖堂に「お客さんは最近は30人位かしら」…事務のAさんが不安げです。
客入りが少なくても、ピアノが古くて調律も狂っていても、演奏は私の愛情表現です。恕して静かに、歴史も現在も未来にも哀れみの念を持って奏でるのが、私の理想です。
この理想に明日一歩でも近づくために、演奏前日の今日、私が出来る事、するべき準備は何か。
まず兎に角補水と野菜中心の健康食でデトックス。昨日はピアノ仲間との会合で、秘儀以来初めて中国茶でカフェインを飲み、そしてずっと自分に許していなかった豚肉・牛肉や精白小麦粉や白米、更には白砂糖などを一杯食べてしまった。それでも秘儀前の様な焦燥感を感じず、昨晩もぐっすり安眠が出来て、しかも体重も全く増えないのはある程度抗体ができたのかなあ。でも、今日は兎に角デトックス。
次に適度な運動・日光・瞑想で、今夜の熟睡と明日の精神安定に対する努力をする。今日は絶対一万歩以上歩くぞ!事ある毎にストレッチもしよう。
そして練習。音を出さない練習を中心に。楽譜を読む。自分の理想の演奏を思い描くイメージトレーニング。弾くときは弱音・低速で、はっきりとした目的を持って弾く。地道に地味に沈着に。
明日の演目はこの夏日本で演奏する「奏でる鏡」の前半を基にしています。自然の音やイメージをテーマにした曲たちで、自然への憧憬と尊重の念を思い出そう…「Tempo:音楽による環境運動」のイベントにも使うつもりの演目です。
- グリーグ作曲「小さな小鳥」
- Grieg “Little Bird” from Lyric Pieces, Op. 43-4
- ラヴェル作曲「悲しい小鳥たち」
- Ravel “Oiseaux Tristes” from Suite Miroirs
- グリーグ作曲「蝶々」
- Grieg “Butterfly” from Lyric Pieces, Op. 43-1
- ラヴェル作曲「夜の蛾」
- Ravel “Noctuelles” from Suite Miroirs
- ショパン作曲 練習曲作品25-12「海」
- Chopin Etude in C Minor, Op. 25-12 “Ocean”
- ラヴェル作曲「大海の中の小舟」
- Ravel “Une Barque sur l’ocean” from Suite Miroirs
明日の会場は大聖堂。残響が長く、低音が響く。古い楽器ハンマーのフェルトがすり減っていて調律も完璧ではないけれど、余韻を響かせることで色をより鮮やかに、リズムを際立たせることで固い音色を逆手に取れる。「間」をしっかりとって、音と音の間の静寂に耳を澄ます。特に最初の三曲は、共鳴と余韻で雰囲気を創り上げよう。和音や単旋律の美しさを、着実に醸し出す。
ラヴェルの「夜の蛾」は、まさに蛾そのもの。死んだようにピタリと動きが止まった次の瞬間に激しく踊り乱れる。この対比が重要だという事を、20代でこの曲を収録した時には気が付いていなかった。休止の箇所を『息抜き』と思っていたと思う。静止に意味と緊張感を含ませるためには、その前後が重要になる。気迫と同じくらい、冷静な計算に基づいた創意工夫が必要。
ショパンの「海」はまだ練習中。明日は兎に角脱力して着実に弾いていく。今日はゆっくりメトロノームを使った練習。ピアノに対する姿勢・距離・角度、首・方・腕・手首の脱力、重みと勢いをいかにうまく利用して出来るだけ楽に強弱の差をつけ、最後まで弾くことではなく音楽を優先にする余裕を持って弾き切れるか。今日は兎に角地道に時間と努力を惜しまない練習。
「大海の中の小舟」は十八番だし、音が多いだけにごまかしも効く曲だけれども、調子に乗らない。波のうねり、水面の光、その中で飲み込まれそうになりながら最後まで生き延びる小舟をしっかりと描きだす。