「女は感性、男は知性」のバイアスの下、私の小学校同級の女子はほぼ全員ピアノを習っていました。男に生まれていたら私もピアニストにはならなかったと思います。
東大の学部生の男女比が約8対2と私が知ったのは2019年。東京医科大学をはじめとする10校での女子受験生の一律減点が発覚した翌年、東大の上野千鶴子教授(社会学・女性学)による入学式祝辞での男女格差の問題提示が話題になった時です。「女は東大なんか行くもんじゃない」…合格した際の父親の言葉に涙していた友人を思い出しました。主要な国立大学の女子学部生も平均30%未満。世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数が146か国中125位の日本の問題の側面を照らす問題です。
東大合格者の統計が浮き彫りにする不平等はジェンダーに限られたものではありません。東大合格者の42.7%は日本にある高校4,856の内20校の卒業生です。その20校のうち10校は男子校、17校は私立校、そして19校が人口50万人以上の都市圏にあります。(P .34)女性だけではなく、私立高校の授業料が払えない家庭や、地方出身の受験生には不利なのです。
この本が良いと思ったのは、男性中心の東大という現象を、大きな社会問題の一角としてまず大きくとらえていること。ジェンダーバイアスの歴史や東大創立時の状況と戦後のGHQ占領下で強いられた変化なども踏まえ、まず現象の根源を解明している。更に著者自身がいかにジェンダーギャップに疎かったか、どうやってその重要性に気づかされたかなどを綴っていてその正直な反省と心意気に打たれる。その後更に国際的にプリンストン大学を始めとする歴史あるエリート大学の共学の歴史を、東大との比較対象しながら検証していき、最後になぜキャンパスの多様化、更には社会の多様化がこれからの東大と日本に必須かを検討している。
そしてこの本は東京大学の副学長であり、東京大学大学院総合文化研究科教授の矢口祐人氏によって書かれているのだが、「東大を覗き見的に捉えるのではなく、東大のジェンダーをめぐる状況を、この社会に生きる全ての人に関わる課題として理解していただきたい」と序章の最後に読者へのお願いという形でこの本を書いた理由を明確に述べてくれている。
「大学は本来、既知の事柄や考えを批判的に再考し、新な思索を築いていくところである。それが逆に社会の体系的差別の構築と強化に加担しているのであれば、正さなければいけない。…男性中心の硬直した社会をあたりまえのものとするのではなく、さまざまな価値観・背景を持つ人びとが集い、交流するなかで新しい、より民主的な発想が生み出される、多面的で開放的なキャンパスと社会を模索するあゆみが必要である。」
『なぜ東大は男だらけなのか』(2024)矢口祐人著、(P.13 )集英社新書
私も高等教育や研究に携わる在外日本人女性としてこれからの日本の多様性に貢献したいと思います。
このブログエントリーは日刊サンに掲載中の隔週コラム「ピアノの道」の5月5日発表予定の記事を基にしています。この記事の英訳はこちらでお読みいただけます。https://musicalmakiko.com/en/nikkan-san-the-way-of-the-pianist/3238