• タングルウッドでは正式な休日は2ヶ月間で三日だけあります。この日だけはクラスもリハーサルも講義も演奏会も無く、オフィスも図書室も午前中のみ開いていて、研修生は自由行動が許されます。その他の日はたまたま自分の乗るアンサンブルのリハーサルが一つも無かったりとか、一人だけぽっかり何も無い日が在る事はありますが、でもタングルウッドの研修生になるにあたって「タングルウッドの初日から最終日までは、タングルウッドの許可無しに遠出をすることはしない」と言う契約書にサインをさせられています。急にリハーサルやレッスンなどが入るかも知れないからです。ボストンや、アルバニーと言った、車で1、2時間の都市に遊び、あるいは用事を片付けに出て行く人もいれば、一日何もしない、と決めて、テレビを見ている人もいます。 私は今までの比較的なスケジュールが嘘の様に明日から忙しくなるので、今日はそれに備えて選択、部屋の整理、楽譜の整頓、そして練習をしました。午後からはタングルウッド近郊のお金持ちのお家に呼ばれてきました。タングルウッドの主に声楽家とピアニストの研修生が実に40人ほど呼ばれた、盛大なパーティーでした。裏庭がそのまま湖につながる、素晴らしい豪邸で、私たちはその家にあった浮輪や、ボートや、カヤックや、色々持ち出して、湖の中で遊び、疲れるとそのお家の人々が用意して下さったおやつや夕飯をビールやワインと頂いて、また水に入る、と言う繰り返しをしました。 明日からは怒涛の様なスケジュールです。 8;30 バスでタングルウッドへ。練習。 10:00 オーケストラのリハーサル(ストラウス「町人貴族」組曲) 12;30 昼食、練習。 1;30 キャリクスタインのピアノ公開レッスンでシューマンの「子供の情景」を演奏。 3:30 練習 5;00 寮に戻る。食事、練習。 8;00 ステファニー・ブライスの公開レッスン(ブリテンの「Batter My Heart」 を演奏)

  • 開会式

    今日はタングルウッドの正式な開会式が在りました。 私たち研修生のほとんどは6月19日からここに来て、すでに講義を受けたり、リハーサルを開始していますが、演奏会はこれから本格的に始まります。開会式はまず、タングルウッド・ミュージック・センター(タングルウッド音楽祭の中でも特に研修生たちの活動を司るパート)の総監督、エレン・ハインスタイン(この人も昔タングルウッドの作曲の研修生だったそうです)の開会の言葉が在り、それから教授代表でアメリカの代表的な作曲家でタングルウッドでは作曲科主任のジョン・ハ―ビソンのスピーチが在りました。「自分のエゴの為、成功の為に音楽をするのでは無く、文明を讃えるため、人間性を讃えるため、そして音楽を愛する心の為に音楽をやって行こう!」と言うものでした。それから、先週の土曜日に公開レッスンをしてくれた過去のタングルウッド研修生で今は世界的に有名なメゾ・ソプラノ、ステファニー・ブライスと、ピアノ科の主任、アラン・スミスがコープランド(彼はタングルウッド創立の1940年から25年間タングルウッドの作曲の主任でした)のエミリー・ディキンソンの詩による歌曲を演奏しました。それから、今年急に背中の手術の為タングルウッドでの演奏を全てキャンセルしたジェームス・レヴァインに代わって、サンフランシスコ交響楽団の常任指揮者であるマイケル・ティルソン・トーマス(この人タングルウッドの研修生としてキャリアのスタートを切りました。彼はこの夏、ジェームス・レヴァインの代役を務めて奥の演奏会を振ります。)がスピーチをしました。「音楽が素晴らしいのは、虐げられがちな人々でも、公平に自己表現の場が与えられ、偏見の無い実力社会であることだ。だから過去に置いて、ユダヤ人が多かったし、今日私はこの世界における、女性進出、アジア人進出を素晴らしい事だと思っている。タングルウッド創立者であるクーセヴィツキ―もロシア系ユダヤ人としては当時考えられなかったほどの成功を指揮者として、築いた。そしてだから、後世の虐げられた人たちに自己表現を許す場として、音楽業界の火を燃やし続けなければいけない!」と言う、とても力のこもったスピーチでした。 最後にランダル・トンプソンがタングルウッドの委嘱で作曲した「アレルヤ」と言う合唱曲を伝統を守って毎年開会式ではその年の研修生が合唱して終わりました。とても美しい曲で、去年もそうでしたが、皆と声を合わせて歌っていると、本当におごそかな神聖な気持ちになって、「がんばろう!」と改めて思いました。

  • 独立記念日

    今日はアメリカ独立記念日でした。この日の典型的なアメリカの過ごし方はバーベキューと花火です。去年は独立記念日はタングルウッドで演奏会を弾いたので、そのままキャンパスでタングルウッドの花火を見ました。今年は演奏会も無かったし、花火はスキップして、いつもよりがらんとしている寮でバーベキューを少人数の友達とゆっくり食べて、ゆっくりお散歩をしてゆっくり練習をしました。カラリと晴れているけれど、日の光のとても強い、気持ちいい真夏の日々が続きます。 今日の研修生の演奏会にはアメリカの代表的な作曲家、エリオット・カーターが2008年に作曲した6人の打楽器奏者の為の"Tintinnabulation"の演奏を聴きに来ていました。カーターは1908年生まれですから今年で102歳!そしてこの曲は100歳の時に書いたのです!クライマックスでは打楽器奏者の一人が大きな木箱を餅つきの杵の様なもので力任せに叩く、と言う所も在るとてもエネルギッシュな曲でした。そしてカーターは、去年は車いすだったのですが、今年は去年より元気そうで、聴衆の拍手に立ちあがって手を振って応えていました。でも、さすがに耳は遠く成っているようで、私は意図せずしてカーター氏の丁度二列前に座っていたのですが、凄くうるさかった!周りがシーンとして聴いている中で突然遠慮なく「ゲホー、グガホ~」と声帯を震わせた咳をしたり、演奏者の準備が整い、演奏が始まろうとするその緊張の一瞬に突然「この曲のスコアは持っている」と、となりの人に聴いてみたり。。。 今年のタングルウッドは70周年記念と言う事で、今までタングルウッドで教えた事のある作曲家の曲を中心にプログラムが組まれています。昨日のプログラムでも武満徹、エリオット・カーター、オリヴィエ・メシアン、ポール・ヒンデミット、が過去のタングルウッドの作曲の先生としてその曲が演奏されました。凄い!

  • 今朝の朝食はワッフルが出ました。私は二年目のタングルウッドに参加するに当たり、楽しみな事は沢山会ったのですが、その一つは朝食です。ブルーベリーや、イチゴやオレンジ、グレープフルーツなど、果物とヨーグルトがふんだんに在り、シリアルも10種類くらい会って、ベーグル、目玉焼き、オートミール、などなど朝食に考え付く限りのメニューが並んでいます。特に週末は素晴らしくて、ワッフルマシーンが登場して、自分で好きな焼き加減でワッフルが食べられるのです!私はそこにヨーグルトと果物を沢山載せて食べるのが大好きです。今朝は今年初めてのワッフル・マシーンの登場で、私は大興奮してモリモリ食べました。そしたら今度のオペラ、アリアドネでバッカスの役をやるテナーに嫉妬されてしまいました。彼はオペラの最後で上半身裸にならなければいけないので、今頑張ってダイエットをしているのです。「マキコはどうしてそんなに食べてるのに太らないの?」と聞かれたので、「朝食は王様、昼食は女王様、夕食は小作人の様に食べるのが、健康に良いんだよ。だから朝食は食べられるだけ食べて良いの」と答えた所「いつも見ているけど、あんたは夕食だって王様見たいにボリュームたっぷり食べているじゃない!(この人はちょっとおかまさんなのです)」と凄い抗議をされてしまいました。彼が余り真剣に悲しそうに抗議しているので、テーブル中が大笑いでした。確かにアジア人は一般的に他の人種より太りにくいと思います。私が見ていても、可哀そうなくらいちょっぴりしか食べてなくても、20代後半からどんどん太りやすく成って行く友達が周りに沢山います。これは遺伝子の問題なのでしょうか?私はそうでなくて、良かった! 今日はピカピカの素晴らしい天気でした。朝は肌寒いくらいの13℃でしたが、日中は28度まで気温が上がりました。でも乾燥していて、風が気持ちよく、素晴らしい天気でした。その中を、NYから別荘を借りてこの付近に遊びに来ている友達と、近くのお店でサンドウィッチを買って一緒にピクニックをしました。ゆっくり食べながらしばらく会っていなかった分のおしゃべりを沢山しました。その内にお互いが出会った頃の話しになりましたが、彼女とは実に10年来の友達だ、と言うことに改めて二人でびっくりしました。この10年の間に彼女は癌になり、治療を経て完治し、私はNYでのフリーランス生活からコルバーンに入学してロスに移り、二人とも色々な人間関係や仕事の事を喋り在ったりしなかったりしながら10年間ずっと友達でいたのです。何だか、その事実がすでに愛おしく思えるような、そう言う午後の一時でした。それにしても今年は私を訪ねて色々な友達がタングルウッドまで足を運んでくれます。私がヒューストンに移住するからでしょうか?とても嬉しいです。 それから今日はメトロポリタン歌劇団など、世界で名だたるオペラのステージで大活躍中のメゾ・ソプラノ、Stephanie Blyth (ステファニー・ブライス) の公開レッスンが在りました。彼女はとても朗らかで、愉快で、でもメッセージのはっきりした素晴らしい音楽家で、皆で大笑いして講義を受けながら、沢山の事を学びました。彼女の一貫したメッセージは「自己満足の為の演奏をするな。音楽を通じて自分より大きなものにつながり、自分より大きなものに貢献する、という姿勢を常に持て。」と言うことがまず第一。例えば、自分の肉体の欠陥(背が低い、とか、太っている)とかのコンプレックスに甘えて自意識過剰になるのは、自己中である。本当に音楽につながればそんなことは全く関係なく成るはずで、どんな体型、登場人物にもなりえるはずだ。とか、発声法、外国語の歌詞の正しい発音などに集中する余り、目を閉じて自分の頭の中に閉じこもってしまうのも自己中である。そう言う下準備は出来るだけして、舞台では在るだけのものをさらしだして聴衆と、そして音楽とつながれ、とか。それから「楽しんでやれば、何でもより効率よく、効果的に出来る」と言う事。最後に「お互いを聞きあい、応援し合い、向上し合いなさい。自分の成功の為だけに音楽やっているなら、音楽なんて最終的に無意味」と言うことです。それを証明するかのようにどの研修生に対しても真剣に、汗をかきながら自分の全てを教えることに全力投球している様なレッスンでした。

  • 今日はタングルウッドで同じ日本人のYさんがおにぎりをくれました。鳥そぼろのふりかけの混ぜご飯のおにぎりで、チャンと海苔が巻いてある奴です。Yさんは何とタングルウッドに炊飯器と米を持ってきたのです!(それからふりかけも)何と云う素晴らしい日本人でしょう!私はどんな食事でも美味しく食べれると言うことを誇りに思っていますが、久しぶりに食べるご飯はお腹に本当に自然に収まる感じで、癒された一時でした。ありがとう、Yさん!そう言えば、私とYさんが日本語で喋るのを興味深く聞いていたアメリカ人の友達が「マキコ、日本語で喋ると楽しい?楽ちん?」と聞いてきました。私が「う~ん、英語からすぐに日本語に変える時はぎくしゃくする時も在るけど。。。」と考え込んでいたら、Yさんが「でも、マキコの日本語はタングルウッドに来てから随分自然になったよ!始めはちょっと変な感じがしたけど。。。」とフォローしてくれました。でも、Yさん。。。それはただ単に、Yさんが私の奇妙な日本語に慣れただけじゃ。。。 今日の歌の公開レッスンは昨日に増して素晴らしいものでした。皆、唸るほど上手いし、先生の言うことも的を得ていて、その度に皆がぐんぐんと上手く成るのを見るのも、触発されました。それから去年一緒に来ていた研修生の声が成長して、より深み、厚み、色、そして場合によっては音域を増しているのを目の当たりにするのは本当に感動しました。ハイディ・グラント―マーフィーと言う素晴らしいソプラノ歌手と、ケヴン・マーフィーと言うピアニストの夫婦のペアで教えていたのですが、歌の内容と、音楽的である、と言うことのバランス(美しさを追求するあまり、メッセージが曖昧になってはいけないし、またメッセージを追求するあまり美しく無く成っても行けないと言うこと)、それからLESS IS MORE(抑えることによって表現効果を上げる)と言うことを繰り返していました。特に"Starve the sound of air(音が空気に飢えるまで、息を節約しなさい)”と言う表現が心に残りました。要するに、最小限の体力で最大限の音楽的効果を上げるために工夫を怠るな、と言うことなのですが、それ以上に「頑張る事で自己満足をするな!」と言う戒めにも聞こえました。 今日は二つのとても心の琴線に触れる言葉に出会うことが出来ました。二つとも英語なのですが、訳す努力をしてみます。一つは譜読みを始めた歌の歌詞です。スターウォーズや、E.T.などの映画音楽で有名なジョン・ウィリアムズの"Seven For Luck"と言う歌曲を8月に演奏するのですが、その5番目「セレナーデ」と言う曲の歌詞にこんなのが在りました。”Heart-break lives on when memory’s died (記憶が亡くなっても別れの傷は生き残る)” ―読んで、何だかしみじみと共感してしまいました。これだけだとちょっととてもネガティブなので、英語で全部書きます。Rita Doveと言うアメリカの女流詩人の詩です。 Look for me under a rose Look for me Look wherever love grows There you’ll find a drop of dew It is a tear I’ve left for you Look for me beyond the skies Look for me…