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ロスアンジェルスからの最初の手紙

私が日本を発って、ロス・アンジェルスでの生活を始めてほぼ一ヶ月がたちました。皆さん、いかがお過ごしですか? 新しい生活の報告をしよう、文章にまとめて自分の中でも整理をつけたい、とずっと思いながら、でも試行錯誤の段階でまだ自分でもはっきり把握していない色々な事柄や気持ちを、安易に言葉にして片付けてしまうのも勿体無い気がして毎日の生活を続け、ようやく今、コンピューターに向かって書いています。 私の今の一週間の学校の時間割は大体こんな感じです。 月曜日 11時~12時半    音楽史・聴講(ショーンベルグから現在まで)      2時~4時  ピアノ曲20世紀のレパートリーの授業必修 火曜日 9時~10時半    音楽史・聴講(ルネッサンス後期から古典派まで)     3時~4時   倫理・聴講(先入観の危険性)     4時~7時   ピアノのおさらい会兼公開レッスン・必修 水曜日 11時~12時半   音楽史・聴講(月曜と同じ) 木曜日 9時~10時半   音楽史・聴講(火曜日と同じ)     11時~1時   選ばれた生徒の発表演奏と、その後昼食会     3時~4時半   倫理・聴講(火曜日と同じ)     6時~6時45分   レッスン 学校は朝7時45分に開きます。私は張り切って大体毎日8時には練習開始しています。 夜は10時半までに校舎に入れば、いつまでも好きなだけ居残って練習が出来ます。 私は朝方なので、最高11時半ですが、皆割りと夜型で朝寝坊する変りに平気で12時半、1時半まで練習しています。  水曜日と木曜日の午後2時~7時までと、土曜日の8時から2時までが学校が子供用のプログラムの為に貸し出されるので練習はしてはいけない事になっていますが、ピアノの生徒(12人います)の寝室にはアップライトが設置されているので、そこでも練習できます。  この、生徒に支給されるアップライトがドイツ製のSeilerと言うメーカーで、私はここに来るまで聞いた事が無かったのですが、手作りの部分が多く年間製造台数が限られていて、アップライトにして一台2,3000ドル(約270万円)するそうです。生徒達はそんなお金を使うなら中古のグランドが欲しいとブーブー言ってます(私も)。 でも、アップライトにしてはかなりアクションがしっかりしていて弾き応えがあると思います。 あとピアノの生徒同士で弾きあいっこを沢山します。 この日の何時にと決めるのではなく、練習の息抜きに廊下をぶらぶらしていると、 「一寸シューベルト聞いて」 「いいよ、じゃついでに私のハイドンも聞いて」と言う風にどちらかの練習室に言って弾きあいっこをしてコメントしあうのです。 ライバル心と言うものはここでは少なくとも今まで私が見る限り音楽に関しては感じられなくて(人間関係に関してはかなり濃厚なドラマが展開している)、みんな取りあえず音楽に対する情熱とそれから愛校精神と言うか、コルバーン対その他音楽学校みたいな意識も少しあるようで、お互い向上しあおう、と言う感じです。 とても嬉しくて、頼もしくて、私は大いに恩恵をこうむっている。 皆指摘がとても鋭いし、それに自分では思いつかなかった練習方法とか、音楽への新しい視点とかが見えてくるので、わくわくします。 それから他の人の演奏を批評する、と言うのも大変勉強になります。思った事を言葉にする事で自分の考えをはっきりさせてそして責任を持って問題定義をしたら、ちゃんと解決法まで出す、と言うのはとてもいいトレーニングだと思います。 コルバーンは創立されて4今年で4年目ですが、すでに数多くのコンクールの入賞者を出しています。 私のルームメートも今日、ジュネーブでのコンクールの為に出発しました。 先週末イギリスであったリーズ・国際ピアノコンクールでも2位が去年までコルバーンにいたアメリカ人でした。皆でインターネットの実況中継を聞いて興奮していました。 私は直接は知らない人だけれど、皆と一緒に固まって本選と結果発表の中継を聞いて、本当に嬉しい気持ちがしました。 不思議な物です。 コルバーンの生徒は全員学費無料、住む場所及び電気ガス水道全てが賄われ、その上食費と称して月400ドルのお小遣いがもらえます。 住んでいる所は学校の斜め向かい、LAフィルの拠点であるワルト・ディズニー コンサートホールの隣にあるコンドで、私の部屋は15階、ベランダからの眺めもとてもいいです。 全校生徒68人が全員同じビルに住んでいる訳ですから、行きかうのもとっても簡単で、気軽に皆でビデオを見るために集まったり、宿題をしに行ったりします。 そして毎週末誰かの誕生日パーティーがあって、誰の誕生日でもない週末もやはり誰かの部屋でパーティーがあります。 食べ物は無くて、ビールだけ大量にあって、かかっている音楽は絶対にクラシックではない―なぜかとても楽しいです。 今までの私のここでのハイ・ライトは二つあります。 一つは毎週木曜日にある、選ばれた生徒の発表会に出て、ラフマニノフとプロコフィエフを弾いた事。 まだ日本から帰って二週目で勝手が分からないし…と私がためらうのを先生に強く勧められてやったけれど、やってとてもよかった。 同業者の前で自分の演奏を発表するのは全く違ったプレッシャーだけれど、それに狭いコミュニティーの中で新参者に対する興味津々で、それも一寸初めは億劫だったけれど、皆それを見込んで、舞台に出たとたん(まだ弾いてもいないのに)凄い拍手喝さいで、私は笑ってしまってそれで何か吹っ切れて弾き切れたし、学校生活への一歩を踏み出した感じです。  もう一つはピアノの生徒の内二人が来春にあるLAマラソンへの参加に向けてほぼ毎日マラソンをしていて、それにくっついて先週土曜日ベニス・ビーチと言う海岸を8キロくらい歩いた事。 6時15分の出発で、その前の晩2時までパーティーで楽しくしていて、出発前は??と言う感じだったけど、いってみたら朝の砂浜と言うのは、本当に気持ちよくって、沢山歩いた事も、その時一緒に行ったほかのピアノの子達と色々なお話しをした事も本当に良かった。 LAと言うのは本当に気候が完璧で私がこっちに来てからまだ一度も雨降らないし、やしの木がそこらじゅうに生えていて、海がすぐ近くにあって花がどこにでも咲いていて本当に天国か、リゾート地のようです。 10月8日にコルバーンに公開レッスンをしに来るドイツのヴァイオリニスト、クリスティアン・エディンガーと言う人と共演(フランクのソナタと、ベートーヴェンのソナタ5番「春」)します。学校から選ばれてする演奏なので、頑張ります。 それから、10月17日にはここのチェロの生徒の子の必修リサイタルの伴奏をします。張り切っています。 又、書きます。皆さんもお元気で。

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2006年のプログラム

 NYの真希子です。先日カナダから帰ってまいりました。今年もよろしくお願いいたします。  「海外で活躍する若手演奏家を応援する会」の主催による毎年夏の日本でのコンサートも、ありがたいことに今年で6年目を迎えます。人生の半分以上海外の私ですが、やはりこうして故郷で演奏できる喜びはこの6年間修行の大きな励みになってまいりました。今年もこだわりのプログラムを聞いていただけるのを楽しみにしながら、準備しています。  今年のプログラムはロシアの作曲家中心です。 ロシアに最初の正式な音楽学校が設立されたのは、意外に遅く、1862年の事でした。いわゆる「西洋音楽」の影響を嫌い、ロシア民俗音楽を元にした独自の音楽を発展しようとする動きと、正統派西洋音楽として認め、受容される音楽を発展しようという正反対の動きのせめぎあいの中で、ロシア音楽はユニークな成長を遂げます。この成長に多大な影響を及ぼした5人のロシアの作曲家(チャイコフスキー、カバレフスキー、ラフマニノフ、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ)と、ストラヴィンスキーのソナタを触発したベートーヴェンが、今年のプログラムです。   これ等の名前、特に「春の祭典」を書いたストラヴィンスキーの名前から、一般のお客様は前衛的な現代曲をイメージされるかもしれませんが、長く厳しい冬を耐えるロシアの音楽と言うのは、情が厚く、歌心のあふれる音楽で、絶対楽しんでいただけると言う確信を持って、今回のプログラムを組みました。  プログラムを組む作業と言うのは、中々わくわくする物です。料理人がコース料理のメニューを決めるのと似ているのではないか、と思います。一貫したテーマは必要ですが、その中で五感へそれぞれ違った刺激を与え、最期にいい気持ちで、満足して帰っていただけるための作戦、というかスケジュール作成というか。。。今年のプログラムは我ながら中々良く出来ている、と自負しています。  美味しい物は人と分かち合いたい物です。是非、演奏会にいらして、私が見つけてきた珍味をお味見ください。

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コンサートツアーを終えて

 昨夜遅くツアーから帰ってきました。  3月8日にニューメキシコ州に飛んでオーケストラと合流し、そこからトコトコとバスでアリゾナ州、カリフォルニア州、またアリゾナ州、そしてコロラド州と回りました。アメリカは本当に広い!!こう広い所をこういう風に旅行していると、何だかタイムトラベルをしているようです。  カリフォルニアでは太陽がサンサンと輝いて、オレンジが木からこぼれおちる位たわわに実っていて沢山食べました。香り高くて、香りを飲み込んでいる様だった!素晴らしかった。天国みたいな初夏の陽気のカリフォルニアを発って、ニューメキシコでは桜が三分咲き位で、コロラド州はツララの固まりが真っ青でそこら中雪景色です。毎日毎日季節が変わって、こんなの初めてでした。  もう一つ実感したギャップは貧富の差です。通過点でバスの窓から見るだけですが、圧倒的に貧しい町というのもあります。きっとこういう所の写真を見せられたら、誰もそれがアメリカとは思わないでしょう。南アメリカとかアフリカとか中近東と思うと思います。それか又は「大草原の小さな家」位の時代だと思うかな。こんなにテクノロジーが浸透している時代のこの国で、掘っ立て小屋に住んで本当に「大草原の小さな家」みたいに洗濯物が干してある。そうやって色々な土地の色々な人と30分時空を共有して、共感を呼びかける私は、自分が音楽家で本当に嬉しくて幸せです。   聴衆との共有/共感とは別に、共演者との交流と言うのも本当に嬉しいものです。何時間も一緒にバスに揺られて、何回も演奏会の緊張を一緒に経験すると、喋る言葉が違っても、経験してきた歴史も、住む社会の状況も全く違っても、通じ合う所が見えてきます。ツアーの最後の方で、バスーン奏者が、その上に座るとおならの音(それも「ぷー」という様な可愛い音ではなく、音を聞いただけでお腹を押さえてトイレに駆け込みたくなるような「ベリベリブォー」という凄まじい音)がでるおもちゃを買ってきて、それで何回皆で大笑いしたか、数え切れません。コンサートのときやられなくて本当に良かった!  色々なオケのメンバーに「こういうツアーで肉体的にもきつい旅程で練習時間も非常に限られているとき、普通に考えれば演奏の質が落ちてもしょうがないのに、あなたはどんどん上手くなる。すごい。」と褒められました。そういうことは一番最後のコンサートの後に言ってくれれば良いのに、3回目くらいから言われ始めたから、私もがっかりされないように、次はどうすればもっと良く弾けるだろうと一生懸命バスの中で前の晩の録音を聞いて、楽譜を読んで、何だか随分張り切ってツアーを乗り切ってしまいました。最後の日は、一番背の高いヴィオラ奏者にお姫様だっこされて皆で写真を撮りました。   帰って来てさすがにぐったりして、これからまた色々忙しいのにどうやって調子を取り戻そう、と今朝はちょっと心配だったけど、この手紙を書いてたら嬉しくてまた元気になりました。この夏聞いて頂けるのが楽しみです。今 年も色々な人のお蔭で、色々体得しながら充実して過ごしています。

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大雪のニューヨークで

 先週の日曜日12日は、NYで記録的な吹雪でした。見る見る積もる雪が、横殴りの風で吹き荒れて「ホワイト アウト」と言う前が見えなくなる現象が起こり、警報が発せられてみんななるたけ家にいるよう、特に運転は絶対の非常事態以外なるたけしないよう呼びかけられていました。路上駐車された車は雪に埋もれて皆似たような小山になってしまい、あのなかで自分の車を見つけるのは大変だったと思います。  そんなこんなで日曜日にオーケストラと再び合流して弾く予定だったペンシルバニア州の午後のコンサートはキャンセルになってしまいました。NYからレンタカーで(勿論ペーパードライバーの私がしかも演奏当日に高速道路を運転する事は在ってはならないので)、自認アッシー君にドライブしてもらって朝出発、昼頃到着で3時のコンサートを演奏の予定でしたが、考えてみたら、強行軍ですよね。ちゃんとお菓子を買って、ドライブ結構楽しみにしてたんですけど。  強行軍と言えば、この三日間もかなりの強行軍でした。14日(バレンタイン)はジュリアードで8pmからチェロの卒業リサイタルで、ブラームスのソナタ2番を演奏。翌朝15日、8時半に家を出て、バスでえっちらおっちらマサチューセツ州に2時半にたどり着き、そのまま会場直行、練習、6時からオケとサウンドチェック兼ドレスリハーサル、大急ぎでシャワー、着替え、化粧、8時本番。 演奏後の興奮と言うのは、中々なれないもので、私は演奏直後は上手く寝付けるまでだらだらテレビを見てしまうことが多いのですが、今回の場合翌日のこともあったので、マサチューセツ在住でコンサートに来てくれた友人に近くのバーに連れて行ってもらって、ウィスキーを飲んで、バタンキュー。 そして昨日16日、朝10時半に同じ運転手の同じバスに乗り込んで(デジャブー)NYにとんぼ返り。バスターミナルの近くで腹ごしらえをしてから、ジュリアードに直行し(5pm)必死で練習して、夜8時半からこれから在るいくつかのオーディションのプログラムの通し稽古を、先生と先生の友人達の前で披露しました。  頑張れば、出来る物です。

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ニューヨークのクリスマス No.2

 今年初めて、私は実はクリスマスの日は教会に行ってしまいました。今、シンシナティi州に博士号の勉強の為に行っている友達がニューヨークに来ていて、お互い忙しくて彼女が教会に行く時間しか合わなかったので、一緒に行く事になったのです。  マンハッタンのタイムズ・スクエア・チャーチと言う51丁目に在る有名なところで、元はミュージカルなどのショーをやるためだった劇場を内装をそのまま使っているのです。当日はクリスマスのせいもあって多分600人くらい入る会場がほぼ満席でした。  そして感心したのは、来ている人たちがとても多様な事です。老若男女入り混じり、家族連れ、幼児づれ、全く一人で来ている若い人や年寄り、物凄いお洒落な人、ぜんぜんお洒落じゃない人、そして黒人、白人、インド人、韓国人、(日本人は余り見当たらなかった)など。  皆とってもアクティブにお祈りをします。空を仰ぐ人、ロックコンサートの様に賛美歌の間中両手をあげてゆっくり右へ、左へと揺らす人。賛美歌がクライマックスになってくると、舞台(幕つき)に乗ってる聖歌隊の人も参列者もぴょンぴょンはねたりする!そしてみんな神様を自分に取り入れようとしているのか、上を仰ぎ見て頭の辺りで手をひらひらとおいで、おいでのような動作をするのだけれど、彼らの目は今何を見ているのか、と視線を追って見ると、舞台の上の天井画は劇場時代から触れられた形跡も無い、ビクトリア調で書かれた男女数人の裸体が絡み合っているシーン、、、、、とても面白い、、、  涙を流している人、踊りながら賛美歌を歌っている人、「ハレルヤ、ハレルヤ、Thank you, Jesus!」と大声で繰り返す人、などなど。賛美歌が単純なメロディーと歌詞で必ず3回は繰り返すのを「洗脳」と思ったり、お説教の矛盾を頭の中でいちいち静かに指摘したりしていた私も、最後の賛美歌ではもうどうしようも無く嬉しい気持ちになってしまって、周りの人を手当たり次第抱擁したりしていた。やはり相手は上手だ。  でも、大都会、時代の最先端をいくマンハッタンのど真ん中で、人がこんなに自分をさらけ出す事に意欲的になっている場所があったというのは新鮮な驚きで、私はそれをとても好ましく思う。今度は他の教会に行って見よう。

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