天使の羽根

カフェテリアでお友達とご飯を食べていたら、弦楽器の子がやって来て「ストン!」と同じテーブルに座った。 一緒のアンサンブルで弾いたこともある子で、指揮の後輩。 凄く一生懸命長時間練習する子で、熱意的に身体全体を揺らして弾くので、 好ましいが、オケでは凄く目立っちゃう、そういう3枚目。 この子がニコニコとして、ずっと顔を見ているので 「Z君、元気?なんか嬉しそうだね。」 と、声をかけると、 「うん、今凄い練習が乗っているんだ!」 自分の背中に、伸ばすと端から端まで5メートルくらいある羽根が背中についていると想像すると、 上手く弾けることに気がついた、と言う。 たとえば弓を上げながらスタッカートで弾くパッセージのところでは段々羽根を開いていく、 とイメージすると、上手く行くそうな。 始めは、(おお、面白いこと言うな)と思って聞いていたが 「そうやって練習していると、気持ちよくなって段々練習室の中を飛び回っているような気持ちになってくるの」 と、目をキラキラさせて言う。 「マキコも今度練習するとき、ピアノと一緒に飛んでみると良いよ!」 と言うので、「ピアノは大きいからねえ、上手く飛べないかも知れない」 とちょっと引き気味に言うと 「大丈夫、ピアノにも羽根を付けてあげれば好いんだ!」と断固として言う。 実は、私はこの子が先日他のお友達に 「学校でいろんな人がマリファナ使うようになったのは僕のせいかなあ、罪悪感を感じるよ」 と言っているのが、偶然耳に入ってしまっていて、ちょっと心配していた。 私は、まずその子がマリファナを使っていることを全然知らなかったし、 学校でマリファナを使う子が居ることさえ、噂には聞いていたが、忘れていた。 その直後だったので、この「羽根」の話もちょっと眉つばで聞いて、そのまま数日忘れていた。 ところが今日、練習中、どうやって練習したら好いかもわからない難所に苦労しているとき、 ふと、この「羽根」の話を思い出したのだ。 ちょっと試しにやってみると、確かに助かる。 羽根がある、と想像すると、羽根とその重みを上手く活用しよう、と思い、 その結果全ての腕の動きを、背中から意識するようになる。 そうすると、上手い具合に脱力が出来、腕の動きが自然になり、全てが簡単にこなせるようになる。 羽根の話は本当だった! そして「羽根の発見」を促したのが、マリファナだったとしたら、良かったんじゃない?とか。 マリファナはアメリカでは13の州が、痛みや精神的な症状に対処する処方箋として認めている。 定められた症状に当てはまれば、合法的に手に入れられる麻薬である。 中毒性も無いとか、少ないとか聞くし、アルコールやタバコより害が少ない、と主張する人もいる。 オランダでは全く合法で、「マリファナ・キャフェ」と言うのがあり、いろんなフレーバーが楽しめるそう。 別に私は使おうとは思わないが、事実を良く知らないで、 他の人の選択の倫理を杓子定規で善し悪し決めつけるのは、良くないと思う。 でも、やっぱりちょっと心配。 音楽家は感受性豊かな人が多いのに、音楽の道には物凄いプレッシャーを伴う。 本番の緊張を和らげるために、血圧を低くする薬を飲んだりするのは、割と普通らしい。 他にも、耐えがたい緊張のために、本番直前にアルコールを摂取することを始め、 どんどん摂取量が増えていっている後輩もいる。 でも、とりあえずこの「天使の羽根」には私は多いに恩恵こうむっている。 Z君に感謝!

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