まきちゃ、武士道を行く。

先週、夜中に目が覚めてそのままずっと寝付けない日が続いた。 眠れない時悩み始めるのは、最近読んだ本の内容についてだ。 "Mozart in the Jungle – Sex, Drugs, and Classical Music" と言う本で 作者はBlair Tindallと言う女流オーボエ奏者、NYのフリーランサーを何十年もやっている。 私も2006年にロスに来るまではNYでずっとフリーランスをしていたし、 「知り合いが沢山出てくるよ。皆、怒っている」と昔のフリーランスの仲間から教えられ、 暴露本を読むような、軽い気持ちで読み始めた。 しかし、そこに詳しく引き出される統計が、私にはショックだったのだ。 例えば、音楽大学の年間学費(マンハッタン・スクールは2004年は$24,500、約240万円)は アイヴィ―リーグの年間学費(ハーバードは同年$27,448、約270万円)とほぼ変わらないが、 音楽大学では音楽以外の一般教養の授業はほとんど全く行わられず、 したがって音楽大学を卒業しても、音楽以外の職に就くことは難しい。 なのに毎年アメリカでは約5千6百人の音楽学生(修士・博士を含む)が演奏課程を卒業し、職を求める。 けれども定収入を得られる数少ない選択肢の一つである、オーケストラの募集は毎年約250。 そのオケだって、多くは負債をため込み、倒産寸前のところが多い。 教職はこの本には統計が出ていなかったが、大学生レヴェルを教えようと思ったら、 一人の募集に何百人もの応募者が集まる、と言う話はよく聞く。 そしてこういう定職の多くは年間収入が$3万ドル(約300万円)か、それ以下。 フリーランスで食べて行くことを余議なくされる音楽家はたくさんいるので、競争率が激しい。 そして、その需要もバブル崩壊後、経済の影響と、音楽におけるテクノロジーの進出、 さらにより安価でほぼ同じレヴェルの録音を提供する東欧オケの進出で、縮小。 しかもアメリカで定職が無い、と言うことは、健康保険が無い、と言うことである。 一回の病気、一回の事故で、人生は風前の灯になってしまうのだ。 このような統計を今まで全く知らなかった訳では、勿論無い。 身近に実際ホームレスになってしまった先輩もいる。 しかしコルバーン在籍中の今まで4年間、 生活費から学費まで全部支給される温室的な環境でぬくぬくしてきた私には全くの 「寝耳に冷や水」だったわけだ。 そして、コルバーンは今年で卒業。 これから、私はどうなるんだろう。。。 ここで私が思い出すのは、剣が実際に戦闘に使われなくなってから書かれた、「兵法家伝書」。 それまでにも、剣を使う者はいただろうが、「剣の為の剣の修行」と言うのは、戦国時代半ばに始まり、 さらに1543年、火縄銃が日本に入り、戦闘に使われるようになると 武士より歩兵の方が重視されるようになった。 その時、自己存在の意義を精神面に求めるため、 武士道のもととなった兵法家伝書や五輪書が戦国時代後に書かれ、普及したようだ。 その心はまさに現代世の中におけるピアニストの私にまっすぐ通じる。 録音された音楽が蔓延し、シンセサイザーたった一台がオーケストラに取って代わる世の中で、 職を失って路頭に迷い、あるいは果てしない旅に出る、何万人の音楽家たちは、 まさしく現代世の中における浪人! でも浪人ひとりひとりの人生は時に物悲しく、時に惨めだったとしても その集大成は日本人の精神力の元となり、さらに現在では世界中の憧れである。 剣道、武士道、茶道、華道、全ては悟りへの「道」である。 と、すればピアノだって「道」でいいのだ。 […]

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