先生の叱責

毎週火曜日の夜はプレイング・クラス(playing class)が在る。 楽器ごとのグループで集まって、同じ楽器奏者の前で練習の成果を発表し、お互い意見し合ったり、先生の指示を皆で見学したりする。一昨日のピアノのクラスでは、新入生で彼女にとってコルバーン初のリサイタルを今週末に控えている女の子がコレグリアーノのエチュード・ファンタジーを披露した。 「この曲はとても効果的な曲で、特にコンクールで色々な人が弾くけれど、一つ問題はどうしてもピアノを調律を狂わせてしまうことだ。特にミのフラットとラのフラットが狂いやすい。なるたけ調律を狂わせないように、努力して弾きなさい」との先生のイントロに、クラスが皆笑った。 確かに凄い力で一つの音を連打したりする。その子は渾身こめて、初めての通し稽古とは思わない程素晴らしい演奏をしたけど、演奏を通じて、ピアノはどんどん調律が狂って行った。終わって、満足げでちょっと得意げなその子に対して、先生がコメントする。 「五楽章は素晴らしかった。幻想的に、良く弾けていた。全体的にもとても良かったよ。ところで、調律に関して、私が冗談を言っていると思った?」 ここで突然先生の声音が変わった。 「私はこういうことでは絶対に冗談を言わない。覚えておきなさい。」 「ピアノと言う楽器は楽譜に何と書いてあっても、在る程度以上の力をかけて鍵盤を叩くと調律が狂う。一度調律が狂った音は響きを無くし、それ以降はどんなタッチで弾いても醜い音しか出さなくなる。どんなに大きな音がほしい時でも、鍵盤のアプローチにはある程度の弾みを持たせなければいけない。肩から力を込めてまっすぐに鍵盤を力任せに押しては、絶対に、絶対にいけない!」 クラス中がシーンとなった。先生は時々こういう風に爆発する。デモ今回の場合、爆発には教訓が在って、この場に居合わせた子は皆一生このことは忘れないだろう。 私もこのごろこの爆発に近いものをレッスン中に受けた。5月の日本でのリサイタルで弾く、ショパンの幻想曲をレッスンに持って行った時だ。先生は私がもうすぐ卒業するので、褒めるのにも、教えるのにもかなり感情的で、かなり大げさだ。「君のテクニックは凄い。君の指さばきは私が今まで教えた生徒の中でも1位、2位だ。」と一しきり褒めた後、「でも、君は指が器用に動き過ぎるせいで、指以外で弾くべき時にも指先で全てを解決しようとする」と、突然怒り出した。「例えば和音。君のはいつも全ての音が同時に鳴ってそれは素晴らしい。尊敬に値する。しかし、それを指先だけでこなしているから、機械的に聞こえる。指先はお腹の底にあるリズム感、そして感情から一番遠いところにある。もっと腕を、背中を、腰を、身体の重心を全てかけて弾いてみなさい」 そこで急に怒り出すのはちょっと理不尽だと思ったけれど、その後のレッスンは素晴らしいものだったし、この時のことはそのレッスンの後一週間毎日私の練習を影響している。これからも何年も覚えているだろう。

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