May 2010

暗譜で弾く、と言うこと

演奏会の後、聴衆の方に「暗譜で弾かれるのは凄いですね~」と良く感心される。 確かに、暗譜と言うのは少なくとも私にとって演奏への準備の努力の大きな部分を占める。 ソロの演奏で暗譜が必修なのはピアニストだけである。 ニューヨーク・タイムズの音楽評論家は何年か前に一度 「本当に暗譜と言うのはそんなに必要なのか?  暗譜を必修にしなければピアニストのレパートリーは広がり、 演奏中の事故は減り、プラス面が多いのではないか?」と言う記事を発表した。 暗譜で弾くことによる利点と言うのも、逆に在る。 詩を朗読する際、活字を読みながらの朗読と、暗記でする場合の感情移入と言うのはやはり増えると思う。 しかし、自分の記憶に自信が無い場合、それで集中が途切れてしまう場合がある。 また曲や奏者によっては、暗譜をするまで弾き込んでしまうと新鮮さを失って逆効果の場合もある。 しかし現実問題、今の世の中で楽譜を使って堂々と聴衆からお金を取った演奏会をするのは勇気が要る。 私は自分の勉強・修行も兼ねて今までの演奏は全て暗譜で行っている。 暗譜でする演奏と言うのは目的地に向かって歩いて行くのに似ている。 地図や道順が頭に入っている場合は、道端の花や景色を楽しみながら自由なペースで行ける。 ただし、自信が無い場合や、始めから方角がきっちり分かっていない場合は恐怖である。 裏覚えのヒントを必死で探し、それだけを藁にもすがる思いで進んでいく。楽しいどころでは無い。 もともと方向感覚の優れている人と言うのもいるし、方向音痴の人もいる。 それと同じで始めから曲の構造(地図)が簡単に頭に入る人とそうじゃ無い人もいる。 ただし、地図が頭に入っていても、その日の集中の度合いや調子によっては 道筋を間違えたり、突然方角や道順が分からなくなったりするものである。 これを阻止するためには、いつも次の道、次の道しるべ、と先を考えることである。 しかし、「良い演奏」と言うのはその瞬間瞬間に自分を投じて、計算をしないことである、と私は思う。 前読みと、瞬間瞬間に一所懸命になる、 この二つの相反する意識のレヴェルをどうバランスするか。 これが、暗譜の難しさだと思う。

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日本で笑えたこと

開店準備中の酒屋が在った。店の前に段ボールが山積みになっている。 その段ボールに商品名が。。。「ねえ、酎して」。。。黒々と筆書き。可笑しい。 歩道で真剣な顔で自転車を走らせているお母さんと遭遇。 急いでいるのだろう、ハンドルに取り付けた子供用シートに赤ちゃんを乗っけているにも関わらず、 かなりのスピードで向かって来る。 少々の障害(道の凸凹や、坂)をモノともせず、スピード一定、一直線に走ってくる。 その前座席の赤ちゃんのあごが凸凹に合わせてガクガクがくがく。。。 ほっぺがそのたびにプルプルプルプル。。。 にもかかわらず、赤ちゃんもお母さんに協力しているかのように真剣な表情。 可笑しい。。。 道に迷った。 目指すところは渋谷のジョンソン・ビルの二回に在るスペイン料理屋さん。 地図によるとそこは在る大手のホテルの近くで在る。 私はそのホテルまでの道順を尋ねることにした。 女性二人連れを呼びとめる。 とても親切に教えて下さった。 私はとても嬉しく、多いに御礼を言って、言われた方向に(遅れていたので)走って行った。 ホテル発見! 「ジョンソン・ビル」はこの近くのはず。 ホテルの入り口前で、360度ぐるぐる回りながら辺りを見回していると、 先ほどの親切な女性二人が駆け寄って来てくれた。 「ここがホテルですよ。ここが入り口です。ここを入って行けば、大丈夫」 何だか説明するのもややこしく、私はもう一度多いに感謝を表明して、ホテルに入場。 その女性二人が立ち去るのを見届けてから、ジョンソン・ビルを見つけるべくサーチを再開。 ハハハ。

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日本のミュージャック

帰国してしばらくは、美容院、歯医者、眼医者、などなど、雑用が多い。 日本の方が丁寧でサービスが良いし、医療費はけた違いに安い。 大抵は検診で無事終わるが、治療が必要な時の為に、限られた帰国の一番最初に全て周ってしまう。 昨日、歯医者で古くなった詰め物を入れ替えてもらって、麻酔でばかになった唇をだましだまし、ゆっくり菓子パンを食べながら次の美容院の予約までの時間を潰していた正午、突然不思議な感覚にとらわれた。(この曲、何だろう。)パン屋の空気にかすかに漂っている音楽。絶対に良く知っている曲なのに、何の曲だったか思い出せない。旋律を一生懸命追いながら、頭の中を必死でぐるぐる探し回る。 あ! 分かった! フォーレのレクイエムと良く一緒にペアで演奏される、合唱とオーケストラの為の小曲、作品50の『パヴァーヌ』と言う曲で在る。しかし編成が全く違う。合唱の部分が楽器演奏になっているし、そもそもテンポも、雰囲気も違う。何しろ、機械的な編成、演奏、そして録音なのである。「お母さんと一緒」とかそういった番組のBGMみたいで在る。その後、ショパンの嬰ハ短調のノクターン(遺作)とか、歌曲などが次々と流れてくるが、全て似たようなオーケストラへの編成が施され、どんな曲想でも、大体メトロノーム72位(大体心臓の拍の速さと同じ)でたんたんと流れ続ける。 それだけならまだ良かったのだ。パン屋だけなら。今朝行った歯医者で私は全く同じフォーレを聞かされる羽目になったのだ。これはどうしたのだ! 誰の仕業だ!どういう陰謀だ! 日本はミュージャックにハイジャックされてしまったのか!? こんな非音楽的な音楽を意識せずに色々な待合室や店で一日中聴かせられる日本人はどうなってしまうんだろう? 思わず歯医者の受付で聴いてしまった。「このおかけになっている音楽はCDですか?」。。。有線放送だそうだ。でも私は予約の前に行って、清算を済ませて帰るまでの一時間強でこのフォーレを二回聴いたのだ。どう言う有線放送なんだ。何を考えているんだ? 誰がこんな編成をし、誰が雇われてこんな味気ない演奏をしたんだ? 本当に一人ひとりの奏者がブースに入ってヘッドフォンでメトロノームのクリック・クリックを聞きながら何も考えずに弾いているような演奏なのです。 日本の町=要耳栓。脳みそが侵略される。。。

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日本帰国中 -演奏会、イベントのご案内。

日本の皆さま、こんにちは。先日日本に戻ってまいりました。涼しくてびっくりいたしましたが、同時に普段の私の5月の帰国では見られない春の花々を楽しんでいます。皆さん、いかがお過ごしでしょうか? 今年は私の日本の演奏活動10年目を記念し、大小7つの演奏会にも特別の思い入れが在ります。ショパンとシューマンと言う今年生誕200年記念の二人と、生誕300年記念のバッハの2番目の息子W. F. Bach、そして生誕100年のSamuerl Barberの曲を組んだ楽しいプログラムです。 詳しくは http://makikony.cool.ne.jp/index.htmにて、お確かめくださいませ。 しかし、今日のメールは私のご挨拶と演奏会のご紹介では無く、私の敬愛する友人で、ハワイ大学の教授である吉原真里さんの講義のご案内です。吉原さんは日本では「アメリカの大学院で成功する方法」、「ドット・コム・ラヴァーズ」などの本を大好評発売中の素晴らしい学者・パーソナリティーで、今年はクライバーン国際コンクールに関する本の出版予定です。その本に先駆けて、その本を執筆するにあたって為さった研究に関する講義をされます。ご興味のお在りの方は、沢山のお友達を連れて、是非いらしてみてください。 詳しくは下記の真里さん自身のご案内をご覧くださいませ。 2009年6月、ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールでの優勝によって、辻井伸行さんが世界にはばたきました。審査員そして世界の聴衆に大きな感動を与えた辻井さんの演奏の他にも、クライバーン・コンクールにはたくさんの物語があります。歴史的視点および3週間にわたるコンクールを現地で見学した経験から、このコンクールのさまざまな顔を紹介し、現代文化におけるクラシック音楽の位置づけ、クラシック音楽におけるアジア人の位置づけ、芸術活動におけるコンクールの役割、芸術活動と地元社会の関わり、芸術と経済、芸術とメディアなどについて考えます。 日時 6月5日(土) 10:30~12:00受講料 会員 2,940円 一般 3,570円(入会不要) 場所 新宿住友ビル7階 朝日カルチャーセンター(申し込みは4階受付) お申し込みは、朝日カルチャーセンター新宿校  Tel: 03-3344-1945(教養科直通) http://www.asahiculture-shinjuku.com ネットで申し込みの場合はこちら。 http://www.asahiculture-shinjuku.com/LES/detail.asp?CNO=66146&userflg=0

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ビジネス・クラスでの帰国!

大変好運なことに、何とビジネス・クラスにアップグレードされて帰国した。 何だか卒業祝いや、引っ越し頑張ったご褒美をもらった様な嬉しさである。祝福されている感じ。 席もゆったりとして、マッサージ機能まで付いているし(あんまり効かなかったけど)、足当てや、リクライニングが電動でほとんど180度になって眠ることが出来る。映画を見る為のヘッドフォンも耳をすっぽりカバーする上等のもので、それを着用しただけで飛行機のエンジン音が半減し、音質も素晴らしい!嬉しくてニコニコしてしまった。 こう言うゆとり、と言うのはやっぱりたまには必要だなあ、と思う。 私はいつも必要最小限の支出で一所懸命頑張ることだけを良しとして今までがむしゃらにやって来た。でも最近になって一所懸命の弱点と言うのが分かって来た気がする。一所懸命になりすぎると、視点が一所懸命の対象に近視になりすぎて、距離感が無く成るのだ。これは練習や演奏においても全く適応できる事実で、これからはもっとゆとりを持って、もう少し優雅にやってみたい、と思う。 これから約一カ月日本です。7回大小のコンサートを関東地方各地でやります。

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