書評:「A.B. Marx, ベルリンの演奏会とドイツ・アイデンティティー」

自分で言うのもなんだが、読書力が明らかに上がってきている。 この22ページの学術論文はもう1年半ほど(読まねば、読まねば)と脅迫観念を覚えながら いつも最初の数ページでギブアップしていた。 ところが今、2時間半弱で読み終えてしまった! しかも興味を持ってぐいぐい読み切ってしまった! ばんざ~~~い! 私が音楽学の語彙に慣れてきているのと、 それから音楽史実に段々足がかりが沢山出て来て、 固有名詞や哲学的概念や年代にに一々ビビらなくなってきた、と言う事だと思う。 いや~、一日一歩、ですね。 Sanna Pederson著、「A.B. Marx, Berlin Concert Life, and German National Identity」19th-century Music, Vol. 18, No. 2 (Autumn, 1994), pp. 87-107 University of California Press A.B. Marxはドイツ人の音楽批評家で、ベートーヴェンの超信望者。 ベートーヴェンの作品を元に、音楽構築に関する独自の音楽楽理を打ちだし、 「ソナタ形式」の概念を最初に出した一人でもある。 「絶対音楽」や「社会的役割を持たない芸術のための芸術」と言う考え方がこの頃のドイツに浸透し始めたのは、カントなどの哲学者の影響もあったが、啓蒙主義で道徳心や社会性を高める道具として使われたのに反発した、と言う事もあったらしい。 この論文ではこの様な娯楽ではなく、感覚に訴えるのではない、 崇高な精神と知性的な構想を持った「絶対音楽」と言う物がドイツ文化と同義語になって行き、 その過程を司ったのがA.B. Marxを始めとする「音楽評論家」たちだった。 そして、彼らはこの絶対音楽が何かとはっきり提示するのではなく、 「何で無いか」と言う消去法で行った。 すなわち、「絶対音楽」でない音楽~ドイツ以外の国の音楽、娯楽音楽、オペラなど歌詞のある歌曲(特にドイツ人でない作曲家によって書かれたオペラ)~が全てダメだ、と言う排他的な態度である。 しかも、このドイツ思想は、ドイツが経済力や政治力であまり強国では無かったため、 「ドイツ人はBildung(ドイツ版向上心)の精神で、物欲や金銭欲ではなく、向学心や向上心、文化的精神を大事にするんだ~」とした結果、この思想が浸透したのである、とする。 当時の音楽評論家が他の音楽をけなし、ドイツ音楽を持ち上げるのを読んでいると、 どうしても、アーリア精神と第二次世界大戦を思い出してしまう。 ちょっとショックだった。 石井宏の「反音楽史」を思い出した。

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