美笑日記4.14:魔女狩り…?

昨日、満面の笑顔のお客様に拍手喝采を受けて、私も嬉しく演奏会を終了した直後、お客様との歓談中のことです。

お客様①「あなたのCDのいくつかに英語と一緒に日本語の記載もありますね。あなたは日本でポピュラーなの?」
私:「ポピュラーかどうかは知りませんが、日本でも演奏活動を行っています。」
お客様①「知らなかったわ!日本でもクラシック音楽は聴かれているの?日本人は…我々の西洋音楽を好き好んで聴くんですか?」
私:「…Yes...(内心ちょっとため息)…」
お客様②「君が最後から2番目に弾いた曲はなんていう曲?題名をもう一度教えてくれる?」
私:「この曲のことですか?(ピアノでさわりの部分をチャラチャラ弾いて見せる)」
お客様②「(驚愕した様子を見せながら)そ、そんなにいきなり弾けるものなのか。…君は魔女じゃないのか?」
私:「…?これくらいなんでもないですよ。」
お客様②「(自分の「魔女」発言が気に入った感じで)いやいや、君は魔女だよ!君は危ない‼ 投獄されるべきだ!(笑)」
私:「(無言でピアノの蓋を閉め、片付けを始める)…(笑顔は絶やしていません)…」

お客様①もお客様②も、悪気があったとは思っていません。

お客様①の発言(白人女性ー初めてのお客様)に関しては、とっさに私が思ったのは(渡米したての1990年代はこういう質問を今よりも頻繁に受けた気がする…)というものでした。可能性としては、例えばこのお客様が認知症を患っていらして、彼女の頭の中はもしかして1970年代くらいだったのかもしれないのです。もしくはすごく田舎の周りに白人しかいない小さな村で生まれ育ち、たまたまロサンジェルスに遊びに来ていたかもしれない。更にお客様①とご一緒にいらしていたお友達(やはり白人女性ー私の演奏会の常連さん)が友人の発言を聞いて恥ずかしそうでいらしたので、この明らかな無知から来る発言に関して敢えて何も言わなかったのは正解だったと思います。

お客様②の発言はもう少し問題が複雑です。多分、お客様②ご本人(白人男性ー私の演奏会の常連さん)は、私を褒めるつもりだったのだと思います。しかし、私の理解する魔女狩りの歴史は、社会的な力を持ってしまった、あるいは持ちそうな女性を見せしめにした女性蔑視と女性抑圧の歴史と言える部分が多々あるのです。そして女性の舞台芸術家の背景には遊女の歴史が長く、そして歴史的に女性が力を得る僅かな可能性のある数少ない道の一つが遊女(娼婦)として成功することだった(だから魔女狩りで筆頭に上がった)、という背景もあります。お客様②がその歴史をどこまで理解されていたかは知りかねますが、その発言がいかに問題を含んでいるかということをどう事を荒立てずに伝えることができたのか…うんうん考えながら、今朝(ああ、「私が男性だったらあなたは同じことを言うでしょうか?」と返せばよかったんだ…)と思いながら目覚めました。

この二人の発言が昨日の私に特に引っかかったのは、金曜日の夜に公開となったニューヨークフィルハーモニーのレイプ事件とその後の醜態についての記事がSNSで炎上し、いろいろ思い悩んでいたからということもあります。日本語でググっても日本語の報道には全く上がっていないようなので、少し遡って説明します。

注:ここからは、強姦の描写も含みます。センシティブな方はお気をつけください。

金管楽器というのは一般的に肉体的必要条件から技術的に男性の方が有利な楽器です。更に金管楽器奏者の間では体育会系的なマッチョで男性優位な文化が一般的にあるというのが、私の今までの観察ですし、一般的な意見といって間違っていないと思います。アメリカで最古、創立1842年のニューヨークフィルハーモニー(以下NYフィル)の金管楽器に入ってきた最初の女性, Ms. Stewart (2009年入団・トロンボーン)も, 二人目の女性、Ms Kizer (2010年入団・フレンチホルン)も免職となりました。二人目の女性金管楽器奏者としてMs. Kizerが入団6か月目にトランペット奏者、Mr. Muckeyにレイプをされ、一人目の女性金管楽器奏者のMs. StewartはMs. Kizerかばったからだ、というのが女性たちの主張であり、一般の見解です。

事件は2010年、NYフィルがコロラド州にツアーしている際に起こりました。告発を受けたトランペット奏者は「同意の元」と主張をしているのですが、コロラド州警察が事件当初レイプとみなしてMr. Muckeyに対しMs. Kizarへの接近禁止令を発令した理由は以下です。

  • Mr. Muckeyは女性関係が派手で、更に性的冗談を多発するなど行為が目立ち、過去にレイプの告発を別の女性から受けていた。
  • Ms. Kizerは事件の晩、夫がコロラド州に到着するのを待っていた
  • Ms. Kizerは深酒をあまりしないのだが、その夜はMr. MuckeyとMr. Wongに渡されたワインを飲んだ後に記憶が飛んだ
    • のちに髪の毛からGHB(ガンマ・ヒドロキシ酪酸というパーティードラッグ)が検出された
  • 朝Ms. Kizerが目を覚ますと吐しゃ物が周りに散乱しており、更に裸な自分を発見した。
    • Mr. Muckeyは「(Ms. Kizerが)吐いたので服を脱がして洗濯をした」と説明し、服を渡した。
    • 自分の部屋に戻り、シャワーを浴びている最中、着用していたタンポンが取り出すのが難しいほど深く挿入されてしまっており、その時に初めて強姦を疑った。(それまではMr. Muckeyの評判や過去のレイプ告発についてはMs. Kizerは知らず、更に同僚にそんなことをされる可能性について思いもめぐらせなかった)
    • 証拠となったそのタンポンからはMr. MuckeyのDNAが検出された。

問題①はここでMr. Muckeyも共犯を疑われたオーボエ奏者のMr. Wongも解雇されず(結局「証拠不十分」で刑事責任追及には至らなかったので)、代わりにレイプ告発をしたMs. KizerとMs. KizerをかばったMs.Stewartが免職となったことです。

問題②、そして14年前のこの事件が今再びメディアに注目される背景にはこういういきさつがあります。2018年#MeTooのさなかに、この時点で8年前のこの事件が再び問題視され、もう一度捜査の対象となり、その結果理由は公言されないままMr. MuckeyとMr. Wongが解雇処分となりました。ところが、この二人が2020年に復職し、しかも解雇時から復職までのお給料も全て支払われることになっていたというのが今回の報道であり、炎上の理由です。これは2018年に解雇になったMr. MuckeyとMr. Wongが音楽家組合に「自分たちの権利が侵害された」と駆け込み、NYフィルに働きかけることを依頼した結果です。Ms. KizarもMs. Stewartも音楽家組合の会員ですが、組合が女性たちではなく(依頼を受けたとはいえ)男性たちを援護したこと、そしてNYフィルが組合の要請をのんだことに対して、SNSが炎上しています。

私がなぜこの事をブログに書くのかと言えば、私はこの一件はたまたま今この瞬間メディアの注目を浴びているけれども実は氷山の一角にすぎず、これに似たような不正が100倍も1,000倍もあると、自分の音楽界での体験を根拠に思っているからです。更に、この一件の真相や解決を求めるよりも、こういう事件の全てが結局我々みんなの痛手であり、社会的損失だと一人でも多くの人に認知してもらいたいからです。ではなぜ英語のブログではなく、日本語のブログに敢えて書くのかと言えば理由は二つです。一つは英語ではこの事件に関して今現在進行形で多くの人が多くのことを言いすぎているからです。もう一つは日本の方がアメリカよりも女性蔑視やセクハラや性暴力にまつわる苦労の矮小化が更に著しいと思うからです。

悲嘆や絶望は行動を抑圧しますが、怒りは行動を促します。しかしもっと長期的に効果があるのは、こういう事件の一つ一つを大きな社会現象の例の数々だと認めて、その上でその根底にある原因解明をして、状況改善を目指すことだと私は信じています。私は、この事件そのものに必要以上に感情的になることは賢いとは思いません。例えNYフィルが今回の炎上を重く受け止めMr. MuckeyやMr. Wongを再び解雇したとしても、長い目で見て性差別や性暴力の風潮に大きな影響を及ぼすとは私は思いません。私は、私個人の間接的な知り合いも関わっているこの事件とその報道や炎上について書くことで、この事件に自分の中で片を付け、そして女性蔑視や女性虐待という社会現象の根本的な原因究明と改善を続けるスタンスに戻ろうとしています。

更になぜ私がこの事を日本語のブログに書くかと言えば、セクハラやレイプというのは、一種の魔女狩りだ、と言いたいからです。女性を黙らせ、見せしめにし、そしてその社会参加権・社会的効力を葬るシステムとしては、結果的には魔女狩りと同じだ言ってもよいと思うのです。

後日談(4月16日):炎上した記事を受け、NYフィルは「オーケストラ内外からの強い感情を受け」Mr. MuckeyとMr. Wongを4月15日(月)から一時自宅待機とした、とNYタイムズが報道しました。NYフィルの奏者たちを代表する委員会は「我々はCara(Ms. Kizer)の主張を信じます。またMr. MuckeyとMr. Wongの被害にあったのは複数だと多くの団員が思っています。このオケの管理職にみられる奏者の危惧や不安をないがしろにする風潮は変えなければいけないと思っています」と声明を発表。また、去年から音楽家組合の総監督に就任したSara Cutlerは「女性として、音楽家として、また音楽家組合の新しい会長として記事を読んで驚愕しました。できる限りの力を注いでNYフィルの今までの風潮を変えるよう努めます」と記事に声明を発表しました。

2 thoughts on “美笑日記4.14:魔女狩り…?”

  1. Dear Makiko,
    Thank you so much for sharing this information. I read very seriously. This kind of problem could be hidden under many places in music industry. I am so glad that you share your deep observation. I will spread your article to my colleges and friends. I deeply appreciate your effort.
    Best regards,
    Sachiko Jaquez

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