アニタ・ヒルと言うアメリカの弁護士・法学者は日本ではどれくらい知名度があるのでしょうか?
1991年10月、アメリカ最高裁の裁判官候補に名前が上がったクラレンス・トーマスに対してセクハラの糾弾をしたのはアニタ・ヒルです。彼女の他にもクラレンス・トーマスにセクハラを受けたと主張した女性は数人いたのですが、結局クラレンス・トーマスの人物審査のプロセスで公開証言をする機会は与えられず、アニタ・ヒルの証言もヒル自身の政治的思惑や信憑性などを疑う反対尋問にさらされ、クラレンス・トーマスは最高裁の判事としてそのまま承認されました。今でも最高裁の席に座っています。
それから30年。アニタ・ヒルの証言のお陰で女性や性暴力やセクハラの被害者の人権がいかに前進したかーその事を特集した講演会を聴講しに行きました。土曜日の午後4時間の集会でした。当時の審査委員会に実際に出席したリポーターから、1991年にはまだ生まれていなかった女優さんまで、様々な人がアニタ・ヒルの証言が、直接的であれ間接的であれ、自分の人生にいかにポジティブな影響を持ったか協議をした後、最後にアニタ・ヒル自身が登場し、インタビューに応えました。
なぜ証言をする決意をしたのか、という質問に対してのアニタ・ヒルの答えに私は痺れました。
「法律家として、そしてBrown vs. Board of Education(ブラウン対教育委員会裁判)の判決の恩恵で兄や姉とは違い、白人の子供たちと一緒の教育を受けられた最初の世代の黒人として、私は最高裁判の判事がいかにアメリカの将来を左右するかを知っていました。自分の知るトーマス・クラレンスの一面について公開証言することは、一人のアメリカ市民としての自分の義務だという信念を自分で否定できなかったのです。」
「証人の結果は、短絡的には私の惨敗でした。私は失望し、落ち込みました。でも思わぬことに、証言の直後、沢山の連絡を様々な形で受け取る事に成りました。私の証言をテレビで観た人たちからの連絡です。性暴力やセクハラを経験した老若男女が、性被害の後、自分もあの証言台に立った私がさらされた屈辱と全く同じ経験をした、というのです。こんなに多様で大勢の人が...信じられませんでした。」
「私は法学者として、それまで特に女性の権利問題は専門的に扱っていませんでした。でもこの証言を通じて、この問題に関する代弁者となる役目が回ってきたのです。」
「私は社会問題を代弁するリーダーに成ろうという野心は全く持っていませんでした。でもその時に私にこう助言する人が居たのです。『マーティン・ルーサー・キング・ジュニアだって、市民権運動のリーダーと言う役割は周りから望まれて、たまたま一番妥当な人間として、役付けされたのだから。』、と。...マーティン・ルーサー・キングの名前を出されたら何も言えません(笑)。」
私がアニタ・ヒルさんに痺れたもう一つの理由は彼女がユーモアのセンスに溢れ、弁舌が立ち、そして爽やかで明るく、実に素敵な女性だったことです。彼女は、セクハラや性暴力の被害に逢ったとしても、別にそれでその人の人格や人生が定義されるわけではない、と堂々と体現してくれていました。
「社会改革とか女性の権限向上とか、大義名分は大層でも、日常は全く華やかではありません。毎日の仕事は面倒な事務や細かい作業がほとんどです。そして、絶対的な解決や終わりは見えません。でもそれを毎日こなすのは、私がこの問題に身を捧げる決心をしているからです。」
野の君と帰りの車の中で「社会運動なんていうのは、自分の寿命が尽きる前に結果が出ると思ってたらできないね~」「そうだね~、自分の為にしちゃあ、いけないんだね~」と話し合いました。こういう会に一緒に出席してくれて、そしてこういう会話ができる野の君が大好きです。壇上の協議に参加した唯一の男性(男性に性暴力や女性蔑視の廃止を呼びかける草の根運動のリーダー)が、会場を見渡して「今日の聴衆の中で男性は2割か3割しかいない」と言及しましたが、野の君はその2割か3割の男性の一人であることに全く引け目も気負いも感じていない。そういう野の君が誇りです。
もう一つ、蛇足ついで、です。アニタ・ヒルの集会の始まる前、野の君が駐車している間、一人で秋晴の下をゆっくりと会場に向かって歩いていました。いつもより高いヒールの感触が物珍しく、胸を張ってゆっくりと空気を楽しみながら歩いていたのです。そしたら道路向かいの大学生が「素敵!」と大きな声を出したのです。大きな声だったので彼女の方を向きましたが、私に声をかけているとは全く思いませんでした。「あなた、素敵!着ているものもスタイルもみんな好き!」指をさして呼びかけられて、私の周りは他に人が居なくて、それで初めて私に話しかけている、と気が付きました。頬が痛くなるほどの満面の笑みが顔に広がるのが自分で分かりました。「Thank you!」大学のキャンパス内の気安さ、という事もあったと思います。もしかしたら顔見知りと人違いされたのかも知れません。でもびっくりするような大盤振る舞いの褒め言葉が、素直に嬉しく感じたのです。人種の違いや、世代のギャップをモノともせず、女性同士で何の思惑もなく褒め合える、お互いを応援し合える、そういう時代が来たのかも知れない、としみじみ嬉しかったのです。
お疲れ様です。
浅学のため、アニタ・ヒルさんは知りません。
公民権については、トム・クルーズ主演の映画「7月4日に生まれて」を視聴して現実を 知りました。
また、テレビドラマ『モーツァルト・イン・ザ・ジャングル』でクラッシック音楽家の実態らしきことも知りました。
いづれも、映画やテレビドラマですから、面白おかしく脚色があります。
映画が好きで以後と以外の日は、アマゾン・プライムで欠かさず観ます。
そして、アメリカが人権問題などで生きずらい国だということがよくわかりました。
小川久男