去年の暮、執筆中の本に関して初めて数人のエージェントと話しをしました。その時に、出版社に持ち込むために必要なプロポーザルを書くように言われ、プロポーザルのテンプレートと書き方に関する文献を沢山もらいました。その後、すでに出版経験にある友達などからお手本をするためにプロポーザルを送ってもらったり、色々な人に相談に乗ってもらっていたのですが…
…なぜか今まで、全く手を付けていなかった…
9月8日に締め切りのグラントにこのプロポーザルを提出しなくては行けず、慌ててその時に送ってもらったテンプレートやお手本に今日はザーッと目を通し始めました。
まず、プロポーザルとはなんぞや。(あくまでアメリカの出版業界の話しです)
出版業界も苦しい今、本の出版の持ち込みにセールスピッチ(売込用の宣伝)が必要になります。このセールスピッチを文書にまとめたものがプロポーザルです。プロポーザルに必要な要素は大体どれも同じですが、本のジャンルによって書き方と長さが全く違います。フィクションかノンフィクションか。学術本か一般書か。私は元々舞台恐怖症を克服するまでの自分の手記を書くつもりでした。手記は一般的に全文書き上げてからプロポーザルを書いて出版社と掛け合うのが一般的です。が、去年の暮のエージェントとの話し合いで、これは私の2冊目の本にするべきだ、と口説かれ、取り合えずハウツー本を書くように、と勧められました。ハウツー本の場合、出版社が構成や市場調査などに色々口出しをしたがることが多いので、本体を書く前にプロポーザルをまず出版社に持ち込むことを勧められます。
ハウツー本のプロポーザルに必要な要素
- あらすじ
- 対象読者(市場の大きさ・この本を買いそうな人達・それ以外にこの本に興味を持ちそうな人達、など)
- 著者について(経歴と主題に関する専門知識の裏付け:教育・経験・これまでに発表した著書や記事など)
- 同類の本(似たような本がどれくらい出版されているか。そういう本がどれくらい売り上げを伸ばしているか。そして自分が出そうとしている本が似たような本とどう違い、どこがより優れているか)
- 広報と売込の計画(自分のファンベース・広報を手伝ってくれそうなネットワーク・コネ・抜粋を出版してくれそうな雑誌、など)
- 目次と各章のあらすじ
- 本文からの抜粋
私の本の概要
2019年の秋にNIH(アメリカ国立衛生研究所)が音楽と脳神経科学の研究に20億円だす、と発表しました。そして数か月後の暮に、WHO(世界保健機関)が初めて、世界各国から発表されている900の研究を検証した結果、音楽や芸術は人間の健康や生活向上に有効である、と公式発表しました。でもじゃあ、どうやって音楽を日常生活に活用すれば、社会的に適応すれば、音楽の効果を活用する事が出来るのか…ここの所はあまり具体的には発表されていません。私が書こうとしているのは、そういう本です。
私は、脳神経科学から考古学や霊長類学までの様々な研究をご紹介して、じゃあその研究結果をどのように具体的にピアノを通じた音楽体験で自分の生活向上や精神衛生・健康に役立つことができるのか、と言うことを書きます。読者の対象は、ピアノと何等かの関係を持っている人たち。初心者からプロまで、ピアノを実際に練習・演奏される方は勿論、間接的な関係をピアノと持っていらっしゃる方も対象に入れます。間接的にピアノとの関係が在る方々というのは、例えば過去に弾かれたとか、これから弾こうと考えているとか、ご家族にピアニストがいらっしゃるとか、ピアノを聴くのが大好き、とかまあ、そう言う感じです。
色々な人のプロポーザルを読んで
…まず、泣きたくなりました。みんな、凄い。私なんか、足元にも及ばない。その文章力。構成力。リサーチ。トピックの目の付け所。
でも、段々読み進めるうちに面白くて面白くて、もうそんなことどうでも良くなってしまいました。すでに出版されている本のプロポーザルをいくつかぼかしてご紹介します。
例えば、英国がフランスなどのナチス占領地区に送り込んだスパイの約1割が(40人)が女性だったって、皆さん知ってました?捕まったら凄い拷問の末、ほぼ確実に殺される。実際にこのスパイの多くがそうやって死んでいます。それを承知でスパイ活動をしているのです。その女性スパイの一人の、生い立ちと、スパイ任務を受諾した動機と武勇談。
それから、ローマ帝国の崩壊は本当にゲルマン民族の侵攻のせいだったのか?ゲルマン民族が悪者ということで落ち着いている歴史を、ゲルマンを率いたリーダーの視点から書いた歴史本。知っていると思っていた史実が正反対の視点から語られると、歴史というものの意義そのものにすら、疑問が湧いてきます。
それから経済学の歴史を正しく理解するために、経済学者の生い立ちや教育背景などから、彼らが持っていたであろうバイアスを差し引いてもう一度彼らの提示する学説を検証しよう、と言っている本。
それぞれのプロポーザルが約100ページ。これらをザーッと読み通し、更に興味が湧くとちょっとグーグルで追加のリサーチしたりして、今日は一日集中しました。沢山読んで分かったことは、プロポーザルは本の文体や調子を反映するので、本当に様々。凄く学術的で一文一文の密度がすごく濃いものから、ほとんど口語体でリズム感に溢れて読みやすいものまで。自分の本をどういうスタイルで書きたいのか、チャンと今から考えないと。取り合えずとっつきやすいのが良いなあ。
それにしても…今朝起床時には知らなかったことを、就寝前の私が沢山、沢山知っている。これは凄い!これは幸せだ!私はこういう生活が好きだ!毎日こういう風でありたい!人生万歳!音楽人生万歳!そして、こんなに色々な人がこんなにたくさん素晴らしい仕事をしている。これらの本の多くはベストセラーにならない。でも、本当に良い仕事をしている、それだけで良い!みんなすごい!人類万歳!学問万歳!探求心万歳!
プロポーザルに読み疲れて、読むスピードが落ちる度に、バッハとベートーベンを練習しました。今日は本当に素晴らしい一日だった。
お疲れ様です。
「プロポーザル」と言う主題に対する見事な展開ですね。
浅学であれば気が付かないことも広く深く見えてしまう能力があるのですね。
本も音楽と同様に、ソナタ形式なら人は慣れ親しんだリズムなのでスムーズに理解できるのではと思いました。
小川久男
( ̄∇ ̄;)ハッハッハ。ソナタ形式の本は良かったですね。
小川さんにとってソナタ形式はリズムですかー面白い。
いつもコメント、ありがとうございます。