演奏道中記12.20:ボストン編~文化と科学、医療と環境、微生物と人間社会…全ての接点。

16日の夜からボストンに滞在しています。明日(21日)の9時~13時を終えて次はNY!今回の収録はまだ20代だけれども非常に才能あるチェリスト君とベートーヴェンとブラームスのアルバム録音です。

ボストンはハーバード、MITを始め、大学が大小数えきれないほど沢山あります。アメリカの中でも古い都市だからでしょうか、それとも東海岸で大西洋を隔ててヨーロッパに面しているからでしょうか。文化ー特に西洋文化を重んじる都市で、演奏会や美術館・博物館が充実している他、特に学者・教授タイプのエリート層にアマチュア音楽家が多いのです。そういう人たちのご厚意と友情で、私はボストンに来ると素晴らしい友情交歓の時に恵まれます。そうして段々分かってきたことの一つに、アメリカには代々研究者や大学教授の家系がボストンの様な都市に多くいて、これらの人たちが代々分野を超えた家族ぐるみの人脈を築いていて、この関係性から生まれてくる作品や発見も多いという事です。まあ、国や地域を問わずどこでもそうなのかも知れませんが、でも例えばある著名な社会学者と政治学者が幼馴染だったとか、この心理学者と文学者が近所だったとか聴くと何となくその世界観に共通項が感じられたリします。

そういう友情交歓とリハーサルの合間に、お世話になっているお宅の本棚を覗かせて頂くも楽しみの一つです。親子親戚夫婦一同、同居している家族全員が様々な分野の大学教授の本棚です。どの部屋にも、壁に備え付けられているものから、物凄く安そうなパイプ本棚まで、そこら中に本棚が在ります。詩集ばかりの本棚。教育論関連の本棚。時々目に留まった背表紙を手に取ってパラパラめくったりします。数多い本の中で、読破する本は短い人生で当然、限られます。(本も人と同じく、縁だな~)としみじみと思います。(本が人と同じだったら、これはパーティーだ!)少しずつ会話を進めて、時々凄く話しが会う人と出会って数時間話し込んでしまったり…今回は凄いのに出会いました。夜を明かして半分読破してしまいました。泊めてくれてる方が「もうあげるから、そんなに急いで読まなくても良いわよ...」とあきれる位、読んでいます。

ディディ・パーズハウス著:エコロジー・オブ・ケア:医療・農業・金融・そして人間と微生物の共同体の静かなパワー(2016)Didi Pershouse Ecology of Care: Medicine, Agriculture, Money, and the Quiet Power of Human and Microbial Communities.

著者の父方の曾祖父は放射能を医療に取り入れる研究をした、Dr. Francis Carter Wood。そして祖父はロボトミーを発見した脳神経外科医のWilliam Beecher Scovilleです。高校生時代から研究室で助手などのアルバイトをして育った著者はしかし、症状を患者と切り離して考える西洋医学に疑問を持ち、盲目の日本の鍼灸師の元での修行の後、鍼灸師になります。彼女がこの本で提唱している事は、地球と人体の平行線、そして現在の人間社会が面している医療システムの崩壊と環境破壊の共通項です。

例えば病原菌の発見により、全ての微生物が敵対視されるようになった20世紀。しかしその後、病原となる微生物は例外的で、我々の健康のバランスを保ち、環境と繋げているのは我々の細胞の数よりも遥かに多数体内で色々な働きをする微生物だと分かりました。しかし、全体像を把握せずに病原菌を排除する事を徹底した衛生医療により、現代社会の微生物の均衡には大きな乱れが生じてしまっています。これは農業による外注退治の副作用としての生物のバランスの乱れと全く同じです。

もう目から鱗!しかし、経験的に意識下でずっと思ってたことが立証された感じでもあります。ページをめくる度に新しい発見があり、毎回「ディディ、ありがとう!」と言う感じです。

「あげるから、もうそんなに寸暇を惜しんで読まないで…」と言って頂いたので、やっと昨晩はゆっくりと睡眠をとり、今朝はちょっとハーバード科学文化博物館に行ってきました。徒歩圏内だったことと、それから「科学と文化が一緒ってどういう事だろう」という素朴な疑問から、ここに行くことに決めたのですが、ここでも目から鱗!

この自然界の美しさを体現している模型の数々…これは全て19世紀にハーバード大学が研究の為に発注したガラス細工なんです!この特別展示会の為に何千というコレクションが色々な研究室から集められ、修復され、今ではチェコスロバキアやドイツのガラス工芸人の人たちの名前も大きく出ていますが、彼らは生前は特殊な研究家からその職人技を買われて重宝こそされたかもしれませんが、「芸術家」として名を挙げることは決してなかった人たちです。でも、その仕事を見るとその観察力、こだわり、工夫、技術、鍛錬…そのすべてに探求心を感じます。そして探求心ややはり、究極的には「愛」ではないでしょうか。

更に、こんな展示もありました。

スクーバダイブをして海洋生物を描き続けるリリー・シモンソンは、長年海洋生物学者のPeter Girguis教授の研究にイメージ提供をしてきました。「生物学者として忘れがちの全体像を、彼女の絵画が思い出させてくれ、新しい視点が発見につながるのです」と教授のコメントが引用されていました。Lilyさん自身の言葉で「科学と芸術は歴史的にはルーツを同じくしている」という言葉にハッとしました。ゲーテが色彩知覚のついての科学的な研究発表をしたことは知っていますし、レオナルド・ダビンチの解剖学や機械工学の研究の話しも知識としてあったのに、私はやっぱり芸術と科学を相反する物として考えていた、と自覚したからです。

音楽で脳神経科学や社会学・心理学などの分野で共同研究させて頂いたり、そういう分野に触れて語ったりすることに後ろめたさを感じていたけれど、良いんだ、私の方向は正しい、と背中を押された気持ちがしました。

インスピレーションを頂いています。

1 thought on “演奏道中記12.20:ボストン編~文化と科学、医療と環境、微生物と人間社会…全ての接点。”

  1. お疲れ様です。

    この一文は、脳科学者の本領発揮です。
    読み手に分かり易く、かつ、理路整然として
    真の教養が発露されています。
    本当は、すごい人なんですね。

    小川久男

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