音楽人生

古楽器演奏と歴史との遭遇

NYからです。 水曜日にレッスンを教えてから空港に直行。 真夜中にマンハッタンに降り立ちました。 今回のNYには3つの大きな目的があります。 1.私の6枚目のアルバムとなる「Chopin To Japan」の録音 2.6月1日に行う、ソプラノ歌手と彼女所有の1829年のウィーン製ピアノの演奏会に出演。 3.高校時代の私のホスト・ファミリーで以来私のアメリカンファーザーのエドの90歳の誕生日! 6月1日の演奏会は凄いいわく付きです。 私の10年来の友人であるソプラノ歌手のマルチェラはイタリア系アメリカン人。 彼女のご両親が育ったミラノ郊外の邸宅には 1829年にウィーンで作製されたフォルテ・ピアノが。 この楽器はイタリア建国に携わった貴族の一人でこの邸宅の元の持ち主が 邸宅と共に売った楽器だったそうです。 マルチェラのご両親は高齢化につき、この邸宅を手放すことに決めました。 ここを「第二の故郷」としていたマルチェラにとっては心痛を伴う決断で、 彼女は家の中に在った家具の多く、 そしてこのピアノを彼女の現在拠点地であるマンハッタンに引き取ったのです。 ずっと手付かずだったこの115歳のピアノにはたくさんの手当てが必要でしたが、 その後マンハッタンにある歴史的建築物に指定されている 現存する最古のマンハッタン内の建物(1765)で現在は博物館の Morris-Jumel Mansionに預けられることになったのです。 http://www.morrisjumel.org/ ここまでは私も前以て知っていました。 ところが昨日、リハーサルのために始めてこの邸宅に訪れてびっくり! ここはジョージ・ワシントンがアメリカ独立戦争の際、 総司令本部として住み込んでいた建物で、 壁紙からジョージワシントンが寝た寝具までそっくりそのまま残っているのです! さらに1829年作製のピアノを弾いてびっくり。 ライス大学での私の先生、Brian Connellyが古楽器の専門家であるため 私にも1829年のウィーン製のピアノが大体どんなものか予備知識はあったのですが、 実際に練習・リハーサルしてみると、シューベルトの歌曲が全く違った解釈が見えてきます。 鍵盤が軽く、発音が現代のピアノより控えめで、音の伸びも短い。 そうなると必然的にテンポがより軽やかになるのは頭では分かるのですが、 実際に当時のピアノを弾いてみると、 シューベルトが頭の中で聞いたであろう音楽がはっきりと聞こえてきます。 これはハンディキャップではなく、物凄いヒントなのです。 さらに声とピアノがしっとりと絡み合う。 現代のピアノと言うのはより大きな演奏会場で より大きな音量でより多くのお客さんを楽しませることが出来るよう開発されました。 どちらかと言うと、ソロ用、公開演奏用で、 サロン用、室内楽用に書かれた曲を念頭に置いてデザインされていないのです。 発音が控えめなこの楽器は弦楽器や声、管楽器と、実に仲良く共鳴します。 全く違う音楽の世界がパーッと広がります。 音楽人生の醍醐味。

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着物、考察

「ショパンToジャパン」のアルバムカヴァーのために着物で写真を撮りました。 ヒューストン在住で着物にお詳しいAさまが、 着物のコレクションを惜しげなく出して見せてくださいました。 着物と言うのをこんなに間近で検証したのですが 本当に砕身の工夫があらゆるところに施されていて、芸術品だと思いました。 着付けは、肌着から足袋から本当に細かく、 色々結ぶ物が在り、色々引っ張る物があり、色々大変です。 私の祖母は毎日着物でしたが、 毎日こうやってピンピン!スルスル(結ぶ音)と、朝の身支度を整えたのだな、 と思うと、儀式のような気持ちがしました。 私はそうしようと思えばパジャマから出かけるまでの身支度を 1分でも10秒でも必要に応じて済ませてしまいますが、 昔の女性はそうは行かなかったのだな、と その価値観と美的感覚と生活に思いを馳せました。 同時に自分の無頓着を少し反省も致しました。 帯をピッと締めると、気持ちもピッと引き締まる物ですね。

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音楽人生の素晴らしさ

凄いびっくり!そして、感動… 今さっき、メールが来ました。 『1998年の客船での旅について』との題です。 『夫と二人でアメリカからアテネまでの客船の旅に出た時、あなたがピアニストとして乗船していました。あなたが練習している最中こっそり忍び込んで聞き惚れたのを覚えています。あなたは恥ずかしがり屋さんだったけれど、本当にきれいなピアノを弾きました。 練習中のあなたの写真があるのですが、もしご興味が在ればお送りします。今、家の大掃除をしていて、たくさんの物を捨てています。この写真もあなたが欲しくなければ捨てようと思います。でも、お聞きしてみようと思いました。ご住所をお教え頂ければ、お送りします。』 もう16年前のこと。 客船では色々な乗客や乗務員と一期一会の濃い会話を交わしましたが、 正直に言ってこの女性がどなたか、思い出せません。 でも、胸が熱くなる思いがしました。 16年前の、まだ青二才の私がある夫婦の思い出の一部になっていたなんて。 音楽家の醍醐味だな~、としみじみと思いました。

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「焔に向かって」  

スクリャービンの「焔に向かって」を最初に聞いたときは「は?」と言う感じだった。 短い曲なのだが、 ある意味ミニマリズムと言っても良いほど単純で簡潔なモチーフが繰り返し、 音域と音量の高まりは在るものの、 伝統的な意味での和声の緊張と解決が無い。 明らかに『焔』を描写しているのだが、 印象派のように、感覚に訴えかけて描写する対象を彷彿させると言ったプロセスが無く、 むしろ焔をそのものになりきろうとしているかのよう。 美化したり、芸術化したり、と言う操作が無いため、 初めて聞く人の多くは狐につまされたような感じになるだろう。 しかし、弾きこめば弾きこむほど、勉強すれば勉強するほど、魅惑される曲である。 ホロヴィッツの有名な録画がある。 この動画でホロヴィッツは音を好き勝手に足しまくって、 ついでに曲もちょっと長くしてしまって 本当にスクリャービン作曲・ホロヴィッツ編曲と言う感じなのだが、 その効果は出ている。 この「デタラメ」と批判する人も居るであろう動画の中で 演奏前ホロヴィッツは知ったかぶりで 「この曲はスクリャービンが世の終わりをもたらす炎を描いているんだ」 と言っている。 実に眉唾だが、でもまあそう言われてから聞くと、それも納得できるような曲、そして演奏。 一方でスクリャービンの娘、そしてそのピアニストの妻が 「作曲家の意図に一番近い演奏」と讃えたのが スクリャービンの義理の息子ソフロ二ツキーの録音がこちら。 私はこちらの方がずっと好きだが、 これだって楽譜どおりとは言いがたい。 要するにこの曲に置いて、楽譜は「大体」なのだ。 トレモロなどの効果音が多く、楽譜どおりにきちんと弾くための練習は意味が無い。 勢い、インスピレーション、そしてほとんど芝居をするような 雰囲気を醸し出すための大きなイメージ。 どちらにしても悪魔的な曲、そして今まで私がチャレンジしたことの無い種類の曲だ。 これに大して山田耕筰の「青い焔」。 山田耕筰はベルリンに留学した後、日本に帰国する道中、 ロシアにしばらくとどまり、そこでスクリャービンのピアノ曲「詩曲」を聞いて ほとんどあきらめかけていた音楽への道に人生をかける決意をする。 「青い焔」もタイトルからしても、またその曲が意図するところとしても この「焔に向かって」を知った上での作曲と見て、まあ問題ないだろう。 この曲も最初に聞くと「は?」と言うような曲だが、 特にこうやってスクリャービンと比べると、面白い! さて、こういう最初に聞いて自分自身が「は?」と思ってしまった曲を お客さんにいかに納得して頂くか、と言うのが私のチャレンジ、である。

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電子ピアノで練習をする特典

ずっと電子ピアノで練習することを拒んできた。 アップライトだって出来ればイヤだった。 グランドで練習したい! グランドとアップライトでは中のメカニズムが違う。 従って、タッチが全く違う。 ましてや電子ピアノにいたってはいくら「タッチ・センシティブ」を歌っていても 中のハンマーを持ち上げて、そのハンマーが弦を打って、と言う実際の動きが無いわけだから 「ピアノ」を弾いているのとは似て全く非なるモノ!…とガン!と主張して来た。 ところが、背に腹は変えられない状況になって、 電子ピアノで練習するか、全く練習しない、と言う状況に置かれて見て、 これがびっくり!使えるのである。 ピアノで全く出来ない練習が可能になる。 何がびっくりと言って、音を消して練習することの効果ほどびっくりしたことは無い。 出てくるはずの音、音楽を頭の中で想像しながら、 指の動き、腕の重み、上体の姿勢に集中する。 練習の疲れの多くは、音にさらされる疲れなのだ、と実感した。 そして音が無い分、邪念無く肉体の動きと自分の理想に集中できる。 さらに、音楽に酔ってしまい、練習そっちのけで気持ちよくなってしまう危険も無い。 理性的に練習するから、効果増大。 譜読みもはかどるし、 難しいパッセージも感情的に成らずにきちんと練習するので、 結構簡単に弾けるようになる。 さらに、プレーバック機能が使える。 左手を録音して、それを聞きながら右手を弾いたり、そう言う練習も出来る。 和音だけを弾いて、和声進行を鳴らしながら、楽譜どおりに弾いたり、とか。 色々練習に工夫が出来る。 …これは使える。 今、ツアー中のホテルの部屋で練習が出来るよう、 電子ピアノを入れて飛行機で飛ぶためのケースを発注しようか、思案中である。

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