音楽人生

学期末II

「前からストレスが強くなってくるとパニック・アタックに襲われるんだけど、こんなにひどかったのは生まれて初めて。昨日の夜と今朝、泣いてしまった」 木曜日のルネッサンスの期末試験の前私に打ち明けてくれたのは私より一年後輩の博士課程をやっている子です。この子は運悪く、ルネッサンスの期末試験のと同じ日に音楽理論のクラスのプレゼンテーションが重なってしまい、皆から同情を買っていた子でした。 「さあ、腹式呼吸をして、背筋を伸ばして!大丈夫、どういう結果でも命には関わらないよ!」 と励ましながら、私はひそかに感謝していました。 この子も私も、今学期受けている授業は二つだけ。 勿論、その上に自分の練習・レッスン・演奏があり、さらにそれぞれ担当のクラスを教えているのですが、(こんなに大変なのは、自分はもしかして効率が良くないんだろうか?理解が遅いんだろうか?今学期がこんなに大変なら、博士課程の最終筆記・口答試験はどうなるんだろう…)と言う自己猜疑と戦いながら勉強する毎日だったのです。この子が打ち明けてくれたおかげで(ああ、皆大変なんだ~~)と言う安心感、連帯感が出来、ちょっとホッとして明るい気持ちでルネッサンスの試験に臨めました。 何しろ、ルネッサンスの授業だけで教科書のほかに平均50ページの学術論文を14,読んだのです! 今、この文章を書くために読んだ論文の数を数えて、改めてびっくり! 凄い!時間がかかるわけです。 さらにその上に、楽譜を勉強し、曲を聞いて、それぞれの作曲家の音楽史に置ける位置と特徴を把握しなければいけません。その上に40ページ近い論文まで提出したのです! 私たちは頑張った!えらかった! 木曜日はそんな訳で、結構大変だったのですが、昨日(金)は良いことが沢山ありました。 まず、教えている「非音楽専攻のための音楽理論」のクラスの期末試験実施。 (難しくしすぎたかな~、皆時間内に終えられるかな~)と心配ですが、自信満々の振りをして配り、「Good luck!」と激励してタイマーを開始します。 皆、物凄く集中してカリカリ鉛筆の音を鳴らしています。私は自分のルネッサンスのまだ残っている色々を片付けながら、今学期のもろもろを思い出して感慨深い思いで居ました。(この子たちは私の一学期の授業の何を一番覚えているんだろう。何か一つで良いから、音楽をもっと好きになるきっかけが与えられたら本望だな~)と思っていたら、一人、又一人と終わった順に生徒が試験を私に渡しに来ます。 「今学期、ありがとうございました。」と言ってくれる子。 他の生徒を気遣って静かにスマイルをしてくれる子。色々でしたが、最後まで粘って「もう時間だよ~」と言ってもまだ鉛筆を話さなかったA君は試験を渡したあと、もじもじとして中々去りません。「どうかしたかな?」と言ったら、「このクラスは、僕の一番好きなクラスでした、凄く楽しかったです。ありがとうございました。来年もこの続きの音楽理論IIを取るけれど、本当はあなたが教授だったら良かった。(私は来学期もう一度音楽理論Iを教えるのです)」と言ってくれたのです!嬉しい! そして、本当はまだ色々勉強する必要があるのですが、昨日は午後いっぱい練習してしまいました。ちょっとだけのつもりが、やめられないくらい楽しく、気持ちよかったのです。 さらに昨日の夜は学校のオーケストラのコンサートがありました。私は今までは指揮を勉強していたこともあって、オーケストラのコンサートは勿論、リハーサルにもしょっちゅう顔を出していたのですが、今学期はそんな余裕が全く無く、コンサート自体も沢山欠席してしまったくらいで、昨夜のコンサートは久しぶりだったのです。去年修士を得て卒業した作曲家の曲の初演があり、ストラヴィンスキーのDivertimento、そして休憩の後はチャイコフスキーの交響曲5番、と言う演目です。特にチャイコフスキーは去年自分も指揮のために勉強した曲でしたし、楽しみにしていたのですが、想像以上の感動とインスピレーションをもらいました。改めて(ああ、今自分がこんなに勉強しているのは、このためだった)、と勇気をもらうような気持ちでした。勉強していると、兎に角課題をこなし、試験に備えるために必死になってしまい、それを自分の音楽人生とつなげることすら忘れがちに成ってしまいます。そう言う時期があっても、それはそれで良いのだと思います。でも、昨日の練習やオケの演奏会で思い出させてもらうと、本当に自分の人生の選択に音楽を選んだことに嬉しい、誇らしい、気持ちになります。 昨日は良い日でした。 さあ、今日も頑張るぞ!

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近況報告

「忙しい」と感じてしまう。 まず、十日後にあるルネッサンス音楽の試験。 来年の9月に迎える博士課程の筆記と口頭試験の下準備でもあるこのクラス。 中世の沢山の王朝、そしてそのパトロンの影響によって変わる、音楽の流行。 そしてもちろん、王朝の影響について勉強し始めたら、政治についても勉強しなければいけない。 政略結婚、色々な王朝メンバーの病気、死。 さらに印刷機の発明による音楽市場の変化。 それまで音楽家から音楽家へと口伝えで伝承されてきた音楽が、 印刷機の発明によって一挙に一般市場へと広がる。 そしてそれによって変わる音楽のスタイル、楽器、アンサンブル、社会需要。 学べば学ぶほど、自分の知識の浅はかを思い知らされる。 そして、例えばこの時代の色々な王様の名前一つとっても、兎に角大変。 チャールズ、と言う名前を例にとって見よう。 チャールズ8世(1470-1479)と言うのが、フランスに居る。 音楽史に置ける彼の重要性と言うのは ハプスブルグ家の皇女、Margare of Ausutria(1480-1530)と言う 後の重要な音楽のパトロンと、 彼が12歳、彼女が2歳(!)の時に政略結婚させられることだけなのだが、 ややこしいのはこの後結婚が色々な政治的理由で消滅し、 スペイン皇太子との結婚もこの皇太子が結婚6ヵ月後に死亡してしまい、 その後サヴォイ公とも結婚するが彼も3年後に死亡。 結婚はもう生涯ごめん、と決めたマーガレットは この後6歳でブルターニュ公に即位した甥っ子のチャールズ5世の養育係、そして政治代行係になる。 さらにこのチャールズ5世は後に16歳(1517年)でチャールズ一世としてスペイン王に即位。 なぜ皆「チャールズ」なのか。ややこしいではないか! ルネッサンスの試験のほかに天正遣欧少年使節のリサーチもある。 今、私の学校のロッカーは気をつけて空けないと本のなだれに襲われる。 日本から送ってもらった資料、さらに図書館で取り寄せてもらった資料。 合わせるとスーツケース一個分。 さらに12月中旬から1月にかけて企画進行中の様々な独奏会。 ドビュッシーとショパンの関係を中心にしたプログラムを企画しているのだが、 ショパンのほうは新しいレパートリーが多く、 ドビュッシーの方も今年の夏のプログラムを拡張して 「金魚」や「パゴーダ」など特に日本、あるいは東洋の影響の大きい物をいくつか譜読み中。 そして「非音楽専攻のための音楽理論」のクラス。 準備と宿題の採点で毎週どうしても10時間くらい使ってしまう。 19人居る生徒は大半とても熱心で本当に可愛い、と感じるが、 段々追いついてこれない生徒も出てきてしまった。 宿題が半分以上未提出の生徒―来年の卒業を見越して、ビジネス・プランの企画で忙しかったらしいが 試験で41点を取ってしまい、私が警告を発したところ、全くクラスに来なくなってしまった。 私は彼を落第するしかない。 でもそうしたら、彼は今年卒業できないのである。 他にも、生徒の個人情報が色々耳に入ってくる。 生徒は青春の真っ只中。 金八先生の用に色々ドラマが在る。 どこまで立ち入れば良いのか、立ち入っても良いのか。 そしてどこまで客観的に彼らを評価するべきなのか。 でも。 アパートは住み心地が良くなって来た。 ルームメートは落ち着き、洗濯機も回るようになり、勉強机もベッドも入り、 日当たりは良く、冷蔵庫には果物が詰まり、 家に帰るのが楽しみ。 車の運転も段々身に付いて来た。

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週末の過ごし方

週日の就寝が毎晩深夜近くそして割りと早朝に起きているためか、はたまた新生活の刺激の多さのためか、週末はかなり寝坊をしてしまう。昨日は土曜日。起きたら11時でびっくりした。金曜日の夜帰宅後から土曜日の午前中というのは一番気持ちがゆったりしている。その感覚を一時間でも長く楽しみたくて、土曜日の朝はゆっくり豪華な朝食を用意したり、外食したりする。最近のお気に入りは「IHOP]と言う店。International House of Pancakesの略でIHOP.その名のとおりパンケーキ(ホットケーキのことです)の専門店で、シロップは色々なフレーバーで5種類くらいある。と言っても、パンケーキに限らずクレープ、ワッフル、そしてパンケーキのねたを混ぜ込んでふわふわにしたオムレツなどの朝食のヴァラエティーは豊富だし、サンドウィッチやサラダなどの普通の食事も結構充実している。日本のファミレスに雰囲気が良く似ていて、店舗もとても多い。IHOPには身体障害者が多いなあ、と思っていたが、昨日気が付いたのだけれど通路の幅がどの店舗も一貫して広く、車椅子でも通りやすいのである。さらに未就学児は朝ごはんは無料とか、一般大衆の身に立って運営をしている感じ。とても親しみが持て、支援したいお店である。 そうしてゆったりと朝食を終えるともう正午はとっくに過ぎている。ここらへんからちょっとずつ現実感が忍び寄ってくる。新居の住み心地向上のためのやることリストがいやおう無しに攻め寄せてくる。さらに、新車(中古車ですけど、私の新車!)もニーズが少なからずある。家具屋、電気屋、雑貨屋、金具屋、色々な店のはしごが始まる。昨日はお店のはしごの途中に急な土砂降りに見舞われた。ヒューストンは土が粘土で水はけが悪く、土砂降りが2時間も続くとすぐに道路が洪水状態になってしまう。それを避けるための渋滞が始まる。そんなこんなで昨日は帰宅は夜の8時。 今日の午後は学校でのリサイタルである。日本で弾いたプログラム「音で描く絵」をヒューストンで披露します。ヒューストン界隈の日本人コミュニティーの方々も多く来てくださるはず。楽しみです。 ルネッサンスの宿題はまたもや後回し。今はルネッサンスの大作曲家デュファイが、この頃盛んに勉強された「演説法」に基づいて作曲したのでは?と言う論文を読んでいる。

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オバマ対ロムにー大統領選

アメリカに住み始めてから実に20年以上経って始めて大統領選をかなり真剣に追っている。 たまたま今お世話になっている居候先の友達が政治学の専門家だからなのだが、 思いがけなかった勉強をさせてもらっている。 私はアメリカの永住権は持っているが、市民では無いので選挙権は無い。 だから、と言うわけでもないが、今まで政治は本当に我関せずで来てしまった。 テレビも持っていなかったし… Presidential debateを明日に控えて、CNNはオバマとロムにーの1時間半にわたるドキュメンタリーを繰り返し流している。民主党、共和党と言う二つの党の立場の違いと、この二人の政治家の人生背景と政治哲学の違いは実に如実で怖いくらいだ。私でも価値観の違いから来るこの二人の対極さは良く分かる。私は全くオバマ派で、ロムにーを支持する人が一人でも居ることが信じられないくらいだけれど… ああ、またルネッサンスの宿題が後回しになってしまった。

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非常時の勉強、練習

新居への引越しは中々完了せず、毎日一時間の往復を余技無くされている。 さらに、引越し、中古車の購入に伴う雑用のもろもろに登校前と帰宅後の主な時間を持っていかれてしまう。そんな中、それまで何気なくすごしていた時間がとても貴重になり始めた。 例えば、登校・下校途中。私はまずライス大学からメトロレールと呼ばれる路面電車まで10分ほど歩き、それから電車に揺られて17分。さらに、バスで約20分、そしてバス停から約15分運転して帰宅している。この電車での17分とバス上の20分がものすごく貴重になってきた。教えている音楽理論のクラスの宿題の採点や、ルネッサンスのクラスのための読み物。時間制限があるから、必死になって集中する。ものすごく効率が上がる。さらに早起きして行う宿題や、教えるクラスの準備。夜にやると、疲れているしいつまでも夜なべしてしまうが、朝にやると何しろ締め切りが迫っている。背水の陣である。終わらなければ、遅刻するか、準備不足である。どちらもいやだ。必死になる。練習も同じく。一時間しかない、となると、「一日中練習日」と言うのと違って、どうしても優先順位を明確に、はっきりと目標を持って、効率よく練習するようになる。芸術的・精神的ではないかも知れないが、とりあえず今は効率第一、である。 昨日は新居の排水パイプを修理するためのパイプと道具、さらに掃除・選択に必要な道具や洗剤や、シャワーカーテン、電球などを大量に購入することに帰宅後の3時間を費やした。さらに、お金も大量に使ってしまった。「世捨て人の音楽修行人」から「人並みの生活をするピアニスト」に昇格するのは、中々大変である。

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