音楽人生

冷たい手で弾くゴールドベルグ

いまだに変わっていなければ、公立学校の夏休みは毎年7月21日に始まるはずだと記憶しています。 こんなにはっきり記憶しているのは、子供ながらに待ち遠しかったからでしょう。 しかしまだまだその日まで2週間もあるというのに、日本は30度を越しているそうですね。 昨夜日本に電話したら、暑さの悲鳴が聞こえてきました。 私が今居るイースト・ハンプトンは避暑地と言うこともあり、現地入りした先月は肌寒い日もある程でしたが、 7月に入ってようやく入道雲が見られ、夏らしい気候になってきました。 それでも30度には到底手が届かず、湿度も低く、日陰の風が気持ちいいです。 それなのになぜか、冷房がガンガンかかっている建物があるのです! 先週月曜日にゴールドベルグの抜粋を演奏したAvram Hallが寒かった! 私はゴールドベルグなのに、トリの前に持ってこられ、待ち時間が長く、 出来るだけ温まっていようと待ち時間はなるたけ日向で過ごしていたにも関わらず、 ステージに出るまでには手がギンギンに凍えていました。 (これだけ弾きこんだ曲でよかった~。ちょっと不安な曲だったらこんなに冷たい手で弾けないよ) と思ったのもつかの間、ゆっくりで技巧的には簡単なアリアでさえも音を引っ掛けてしまったくらい 指が言うことを利かない!かじかんでしまっているのです。 抜粋だったため、壇上で急遽、弾くはずだった速い変奏曲を遅い物に変えたりして何とかしのぎましたが、 それでも不本意なミスを沢山してしまい、ちょっと残念で、悲しく、そして申し訳なかった。 曲にも、聴衆にも、ピアノフェストの主催者や、募金者、ボランティアー達にも、謝りたい気持ちでした。 こんなに入れ込んだ曲なのに。。。 ところが、お客さんたちの反応が私には信じがたいほど良かったのです。 「涙が出てしまいました」 「私は今までゴールドベルグは正直、退屈な曲だと思っていましたが、今日一気に考えが覆されました」 「今まで聞いた色々な人のゴールドベルグの中で一番良かった」 「本当に美しい演奏でした」 演奏者本人の評価と、聴衆の反応にギャップが出ることは良くあることです。 でも、私自身こんなに正反対だった体験はまったく初めてで、正直面食らってしまいました。 録音は一応あるのですが、怖くてそれを聞く気にもなれないほど、私にとっては不本意な演奏だったのです。 ピアノフェストの総監督でもあり、私たちの先生でもあるポール・シェンリーに謝りにいきました。 「手が凍えて、まったくコントロールが聞かなかったのです。不本意な演奏をしてしまいました。申し訳ない」 そしたら、ティベット風に私の頭を引き寄せて、自分のおでこと合わせて 「最高に美しい演奏だったよ。謝る必要なんてまったく無いんだ」 と言ってくださいました。 普段、誰とでも少し距離を置く様な人なので、余計に感動しました。 いまだに信じられないけれど、でもとりあえず、喜んで頂けた様で良かったです。

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Pianofest―リアリティー番組になる

ピアノフェストの卒業生で30代ロシア人男性のコンスタンティンは、クラシック音楽に一般人の興味をもっと向かせる為の作戦アイディアが色々在る。その一つがリアリティー番組。ピアノフェストと言う、14人の若いピアニストを密集させた空間にカメラとカメラマンを持ち込んで、これからピアノフェストが終わるまで張り込んで、ドキュメンタリー映画を作るのだそうだ。彼は良くしゃべる。いかにクラシック業界がこのままでは滅びてしまうか、クラシック音楽家としてこの業界を活性化するために私たちが今するべきことは何か、その独白を逃げられずに聞いていたら1時間半もしゃべり続けていた。制作後はこのドキュメンタリーはとりあえずYoutubeに載せられるそうだ。そして色々なテレビ局に持ち込まれ、上手く行けば来年からピアノフェストの日常を撮ったリアリティー番組が放映されることになるそう。 このコンスタンティンを含むピアノフェストの大半のピアニストと海岸に行った。今日は波が荒くなく、簡単にかなり沖まですいすい気持ちよく泳いでいける。天気も最高。泳ぎ疲れたらみんなで砂浜でゲームだ。この頃ほぼ毎日海岸に行っている。波が荒いときは波に転がされて水着の中が砂だらけになってしまったが、夜の海岸は星空が信じられないほど深くまで見えるし、今日の様に波が穏やかな時は本当に楽に泳げるので楽しい。そして子供の様にキャーキャーはしゃいでゲームをしていると、他の事を全て忘れてしまう。

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共同生活の意義

2010年の9月から始まった博士課程一年目は、兎に角物凄く充実していた。 ロサンジェルスから、ヒューストンと言う新天地に移って、その土地や文化になじむ、と言うこと在ったし、 私にとっっては物凄く久しぶりの学位に向けてのカリキュラムに添った勉強・宿題・試験。 その間に、学校代表としてのワシントンD.C.の国会図書館でのリサーチと演奏のプロジェクトが在り、 それが終わったらすぐ東北の大震災があり、チャリティーコンサートの企画・演奏で忙しくなった。 そして学校が終わったら急ピッチで練習をして5月・6月の日本での演奏会。 このEast HamptonでのPianofestの参加を決めたのは、 決まったスケジュールの無い、あくまで本人本位の海岸近くの音楽祭と聞いて、 正直、有給休暇をするつもりだったからだ。 そしてここに来て、本当にちょうど良かった。 私にしては珍しく、正午近く寝坊してみたり、2時間もぐっすり午睡をしたり、 海岸で一時間海を横目に貝を拾いながら一人で散歩したり… でも、一人だったらそのうち寂しくなっていたと思うし、ピアノとの距離感もつかみにくかったと思うけど、 ここではいつでも、人と居たければ、喜んで一緒に遊んでくれるピアニストが12人も居るし、 音楽もピアノもいつでもそこにある。 Pianofestの始まる前、『ピアノはしばらく弾くまい』と決心していた私は真夜中に起きて驚愕した。 枕の上で狂おしく指を動かしている自分に、目が覚めたのである。 本当に「狂おしく」と言う感じだった。手が疼いて、いたたまれない気持ちだったのである。 一人と言うのは、特に私のような性格だと、極端に走りやすい。 その分、共同生活だと『今日は休む!』と頑なに決心していても 「ここの所、あなただったらどういう指使いで弾く?」 と声をかけられて、それがきっかけで気がつくと楽しく4手を弾いていたり、 夕食前の10分、なんとなくちょっとパッセージをさらったり… そして、昨日の夜の様にみんなで遊んで大声を立てて笑っている自分を発見したりする。 どんなに『休もう』と頑固に決心していても、一人だったらあんなに手放しに笑わないもんなあ。

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Pianofestでの生活

ここでの生活はとても単純です。 要するに12人のピアニストの共同生活。 寝るのは近所の寝室に一部屋二人ずつ割り当てられてそれぞれそこで寝ますが それぞれ徒歩だと30分くらいかかるため中々「ちょっとお家に帰って…」という訳には行かないし、 練習も食事もインターネットも社交も全てメイン・ビルティングで行われるため、 起きて洗面とシャワーを済ませてからは眠るまで ずっとこの12人と一緒にメイン・ビルティングに居ることになります。 朝は8時半ごろ集合、適当にキッチンにあるもので各自自由に朝食を自分用に用意し、 食べ終わった順に練習室へと消えていきます。 「メイン・ビルディング」と言っても、これはかなり大きめではありますが、普通の住宅です。 その居間、キッチン、寝室、ありとあらゆる部屋に色々な大きさのピアノが全部で8台置かれています。 ピアノにあぶれたら、他の人とおしゃべりしてピアノが開くのを待ったり、読書やインターネットです。 外の日光浴をしたり、お散歩をしたり、町も徒歩約8分のところにあるので、 そこでコーヒーを飲んだり、ウィンドウ・ショッピングも出来ます。 ただし、ここはお金持ち用の避暑地なので、なにもかも、かなり高めです。 5時ごろになると、夕飯の支度が始まります。 キッチンの掃除や、洗い物、食事の支度など分担が細かく表に示されていて、 それにしたがってみんなおしゃべりしながらでも結構効率よく分担をこなしていきます。 7時が夕食の定刻で、その後は思い思いに一緒にテレビを見たり、ビールを飲んだり、 練習したり、電話で恋人とおしゃべりしたり、などなど。 そして10時ごろ、みんなの練習が終わったら、パーティーです。 今日は、みんなで夜の海岸に行く予定です。 私はみんなの準備が終わるのを待っている間にこのブログを書いています。 そうそう、今日はここの経費の寄付者の一人であるスペインの「プリンセス」が夕食に来ました。 スペインに皇室があることさえ知らなかった私はずっと冗談だと思っていて、 彼女が帰ってから彼女が本当に「プリンセス」であったことをみんなに言われました。 え!?

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忙しさの合間、そしてこれから音楽祭!

「わーーーーー!」と叫び続けている様な、 わくわくして楽しい活動を次から次へと飛び石しているような そういう時間の中で突然ポッと出来る、 待ち時間。 日本からNJの高校時代のホームステイ先、私のアメリカン・ファミリーのお家に帰ってきて 2日半、前後不覚に眠り続けたあと、NYで一泊二日した。 しばらくぶりの、懐かしい友達ばかり、立て続けに6人と、 公園をお散歩したり、芝生でごろごろしたり、お茶したり、食べ放題で無茶食いしたりしながら、 近況報告やこの頃の疑問や日本の現状や音楽やそれぞれの専門キャリアについて 思いっきりおしゃべりした。 その後NJに帰り、私のアメリカン・ファミリーとゆっくりお食事をした後は これから一ヶ月、今日から始まる音楽祭のための荷造り。 汗をかきながら一生懸命間に合わせた。 そしてNYにスーツケース2つとラップトップケースを担いで乗り込み、 音楽祭のあるイースト・ハンプトンにに向かう電車が出るまで突然2時間の空白。 お茶を買って、スタバでブログを書く。 ミント・ティーがおいしい。 これから行く音楽祭は「ピアノフェスト」と言ってNY州の半島、 ロング・アイランドのイースト・ハンプトンと言う町にある。 イースト・ハンプトンは海岸沿いのとても美しい別荘地で マンハッタンに住む上流階級の人たちが避暑地として使うことで有名。 この音楽祭は学費も滞在費も食費も全て出してくれ、その上に少しお小遣いをくれる。 クローデ・フランクやジェローム・ローエンソールなど、過去のゲスト教授のリストも貫禄あり。 公開レッスンや練習のほかに一ヶ月の間で6回ほどの演奏会に出演する。 私の友達で過去に参加した人たちは、何よりも一回12人と言う小規模な音楽祭での 友情の発展が楽しかった様で、 私は今年がんばった自分へのご褒美のつもりで海辺でゆったりしてこようと思っている。 音楽祭のリンクはこちら。 http://www.pianofest.com/Welcome.html

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