2003

ポーランドの春

 もう去年の4月になるが、ポーランドに行った。ショパンの曲想からポーランドはいつも小雪の降っている様な気のしていた私の印象は裏切られた。りんごの白い花咲く木々が点在、水の豊かな見渡す限りの田園風景。あのワルシャワの郊外は何故懐かしい気持ちがしたのだろう。  シューマンの協奏曲のゲネプロ(最終リハーサル)は、地域の小・中・高校生を招待して行われた。会場満席の子供達のそれでも遠慮したヒソヒソ声はブンブン蜂の唸り声のように演奏中も続いたが、それが無関心のせいではないことはステージを降りたとたん小学生にワッと囲まれて分かった。多分クラスでは道化役の10歳位の男の子がプログラムとペンの捧げもって皆に笑われながら近づいてくる。その子のプログラムにサインした後はもうどの手がどの子につながっているのか分からないような混雑の中で日本語で名前を書きまくった。私は自分の名前は好きだが、こういう時は「字画が多いなあ」とちょっと思う。  やっと最後の子供のサインをして、中庭に出て一息ついて朝食の残りのパンにかぶりついたら今度は高校生の男の子が数人歩いてきた。(恥ずかしい)(言葉が通じない)(何を言えば良いか分からない)等小学生の時は思いもしなかったことを次々思いながら、しかし逃げるわけにも行かない。突っ立っていたらば一人がかがんでたんぽぽの花を摘み、私に渡してそのまま皆で歩み去った。やっぱりショパンの国だ。

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豪華客船での旅

 現在世界一速い客船「オリンピア・エクスプロアー」でゲストアーティストとしての2週間半、計7回の演奏会を終えて今、ニューヨークに帰宅途中の飛行機内だ。フランスのニースで乗船し、スペインとポルトガルで停泊後、大西洋を横断して南米アマゾン川下りとカリブ海諸島巡りをした。終点のフロリダ州ではこの新しい船のお披露目会が旅行会社やマスコミを招待して行われ、そこで最後の演奏をして私の契約は終わった。面白い仕事があるものだ。  船には賭博場もジムもカラオケもディスコもある。船招待の学者や歴史家が毎日各々講義を行い、夜はダンスや手品の大掛かりなショーがある。それでもやはり船旅というのは時間を持て余すものらしい。800人の乗客の限られた社会の中で人々は無上に愛想よく、一期一会の気楽さも有って突飛な打ち明け話を交わす。 一方その陰で、360人の船員は週休なしで毎日10-14時間、低賃金で豪華演出に走り回る。その大半は発展途上国の若者だ。家族に送金する者も、貯金して祖国で店を始める夢を持つ者も、皿を運び、客室を掃除し、階段を磨いて年をとる。世界を凝縮したような船上で17日間100を下らぬ人生を垣間見て、人間模様に食傷気味だ。  船を後にして、もう口をききたくなかった。航空手続きを全て首振りで済まして通過した。それでも子供はやはり可愛い。離陸直後から前席の隙間から金髪巻き毛の女の子がしきりに私の眼を覗く。 やっぱり笑ってしまう。もうすぐニューヨークだ。

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