最近会った有名人、その3&その4

今日は二人の有名人に会った。 一人はピアニストのGarrick Ohlson, もう一人はソプラノ歌手のDawn Upshawである。 Garrick Ohlsonには公開レッスンでスクリャービンの小品を聴いてもらい、 Dawn Upshawには歌のコーチングでブリッテンのセレナーデとプーレンクの歌を聴いてもらった。 しかし、タングルウッドに来てからはジェームス・レヴァインとか、エマニュエル・アックスとかに教わったし、 ヨーヨー・マとか、マイケル・ティルソン・トーマスとかも、別に正式に会ってはいないけれど、 トイレの列で前後したり、コンサートの会場とかですれ違ったりしているので、 最近会った有名人その1のジョン・アダムスの様な興奮はもうしなくなってしまった。 皆同じ人間で、不安や、心配や、小さな幸せを日常的に感じ、 おやつも食べるし、トイレにも行くんだなあ、と言う感じ。 Garrick Ohlsonにはスクリャービンの左手の為の夜想曲、作品9-2と エチュード嬰ハ短調、作品2-1を聴いてもらった。 この曲はもう5月位から何回か演奏している曲だし、 本当は新しい曲でもう少ししっかりと長い曲を聴いてもらいたかったのだが、 何しろタングルウッドに来てから忙しかったし、 他のピアニストも「持ち曲が。。。」とこの公開レッスンはしり込みする感じの人が多かったので、 この曲達で出させてもらった。 Garrick Ohlsonは本当に良い人で、 「君の役に立つならば、何でも聞いてくれ! 何でも答えよう、一緒に考えよう」、 と言う雰囲気が言動のすべてからあふれ出てくる感じで、 一緒の部屋にいるだけで嬉しくなってしまった。 私のやっていることを全て最初に肯定してくれたあとで、 「でも、ここはこういう風にも感じられるし、 こういう風に見ることも、または反対にこういう風に分析することもできるけれども、 そういう選択肢を全て検証した後で、やっぱり今の自分のやり方が一番いいと思う?」 と言う形で質問提示をしながら、レッスンを進めていく。 そうすると、まだまだもっと曲や、自分の考え方を掘り下げられることが分かる。 自分の知っていること、経験したことを総動員して、惜しみ無く伝授してくれている感じが ひしひしと伝わってきて、感動した。 色々言ってくれたけれども、特必が一つ。 「こういうゆっくりな曲で、音の少ない曲は、弾き始めるのに勇気がいるよね。一度、僕が17歳だった時、カーネギー・ホール・デビューを当時30歳だったアシュケナージがシューベルトのソナタで始めた。僕は楽屋で『こんなにプレッシャーの大きなリサイタルで、どうやってこんなに隠れようの無い、透明な曲で弾き始める勇気を得たのですか』思わず聞いた。そしたらアシュケナージは『そんな勇気はとても無いよ。でもだから、舞台袖で頭の中で、一度提示部を全部弾いてから舞台に出たんだ。だから、舞台の上で弾き始めた時は、すでに曲は自分の中では始まっていて、僕はリピートの部分から弾き始めたんだよ。だから、なんとか弾き始められたんだ。』と答えてくれた。それから僕もいつもそうやって演奏を始めるようにしている。そうすれば自我や、無駄な邪念に邪魔されることなく、始めから音楽の為だけに弾けるからね」 Dawn Upshawも、タングルウッドに来る前には レッスンを受けられるなんて信じられない!と言う感じの有名人だったが、 会ってみたら、とても静かにゆっくりと一言一言丁寧に発音しながら喋る ちょっと仙人のような人で、舞台や録音の印象とはとても違った。 そして、とてもとても謙虚な人だ。 「私は自分の声が醜い、とずっと感じていて、 でも言葉を大切に発音し、その意味を深く感じ、考えて、表現することに意義を感じ、 そのことに誇りを感じてキャリアを積んできました。 音楽は、正直に言って子育てを含む自分の今までの人間関係のどれよりも多くの事を 私に今まで教えてきてくれましたし、私はそのことに本当に感謝しています。」 と、公開レッスンで声楽とピアノの研修生全員に向かって言い、 私はその潔い正直さに感じ入った。 今日も、言葉をいかに、一番効果的に伝えるか、と言う感じで音楽の事を考えていくレッスンだった。 こういう風に教えられるのは、二人とも、それぞれ試行錯誤を繰り返し、 時には自信喪失したりして、音楽の道を進んでいるから、 私たちの問題に同感できるんだなあ、と思った。 有名人と言うイメージが無くなって、変わりに偉大なる先輩、と言う風に思えてきた。 […]

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