楽器は共演者
今日はみなとみらいホールに試弾に出向いた。 ホール側のご好意で、ピアノ庫にて今週土曜日に使用可能なピアノを弾かせて、 どの楽器を使うか最終判断をさせていただくのである。 1号と7号と呼ばれるピアノが二台、オプションとしてあった。 両方ともスタインウェイ、そして勿論、フルコンである。 私は去年は7号を使った。 深い音色、倍音の美しさに加え、 鍵盤の抵抗力がしっかりとあるため、微妙なコントロールが効く、と言うことが決め手だった。 去年の『ショパンToジャパン』はしっとりとした抒情的な曲が多く、 音色の複雑さ、細やかさが必要不可欠だった。 逆に一番は煌びやかすぎて、『ショパンToジャパン』の様なプログラムでは 軽薄に聞こえてしまう。 しかし今度のプログラムは南欧。 フラメンコの様なメリハリの効いたリズム、 ギターをかき鳴らす音を真似た、幅の広い和音や、 トレモロを真似た素早い連打音、 そして手の交差や早業が多く使われる派手な曲が多い。 7番で弾くと、これらがモソッとしてしまう。 1番だと、かっこよく決まる! どんなピアノでも、その状況に於いて最前を尽くす。 例えば土曜日、舞台に7番があったらば、私は7番で弾けるよう曲の解釈を融通する。 しかし、選択の余地がある時はやはり演目のキャラクターにあった楽器を選びたい。 自分がコントロール出来ることに関しては最前の努力を尽くす。 出来ないことに関しては、受け入れ、その中でどうしたら一番良い演奏ができるか工夫。 例えば音響はコントロールが出来ない。 ホールがどんな建築物を用いて建てられているか、どういう形か、大きさか。 さらにその日の気温や湿度(湿度が高いと音は響かない)。 お客さんの入り具合(人間の体が音を吸う)。 そういうものを全て耳で判断して、1音1音計算。 音響もまた、共演者である。