November 2014

教職、そしてコミュニティーカレッジの現実

今年の誕生日は火曜日だった。 火・木の午後はLone Star Collegeで教える日。 「おやつを持って来るから。そして私のしたい授業をするから!」 火曜日が誕生日だと言うことはクラスに宣伝してあった。 子供の頃、家族に盛大に祝ってもらったせいだろうか? 誕生日は皆に祝ってもらうもの、と言うスタンスにいくつになっても恥ずかしさを感じない。 当日、私の大好きなTrader Joe’sで健康志向のスナック菓子を買い込んで 教室に入ってびっくり。 クラス全員に行き渡る分のカップケーキを焼いてきてくれた子。 クッキーを焼いてきてくれた子。 ケーキを買って来てくれた子。 りんごを持ってきてくれた子。(アメリカで教師にりんごを渡すと言うのは歴史的な習慣で、今では象徴的でほとんど実践されないが、知識を象徴する果実を教師に渡すことでその教えへの感謝を示す、とされていた) ... 凄く感激した。 授業のあと。 いつも私は結構ビジネス志向で、 いつまでもおだべりを続けたい生徒たちのお尻をたたくようにして 教室から追い出すことにしているのだが、誕生日の日はおだべりにつきあった。 そしたら、凄くまじめで私のクラスの成績はトップのMちゃんがもじもじしながら 「随分前だけど、来学期も教えるか決めていないと授業中に言ったでしょ? 私は続けた方が良いと思います。 私がこの学校でとった授業の中で一番好きな先生だし、 先生の授業を音楽に興味がある子に推薦したいからです。」 と言ってくれたのだ! 本当に嬉しくって、もしかして一番のプレゼントだったかも。 Mちゃんは最近いつまでも授業のあと私が皆のお尻をたたき出すまで居残って でも他の子と違って何を言うでもなく、皆の後ろにいつもなんとなく居るだけだったので (暇なのかな~)と思っていたのだけれど... そうか~、それを言ってくれたかったのか。 「ありがとう、Mちゃん!凄く嬉しい! デモね...『来学期は教えません』ってもう電子メール出しちゃった...」 Lone Star Collegeはヒューストンの北に5つのキャンパスを所有するマンモス・カレッジだ。 現在の生徒数は9万人。 ヒューストン界隈では最大の高等教育機関で、 全米で一番の急成長を遂げているコミュニティーカレッジである。 ラジオを聴いているとLone Star Collegeが番組をスポンサーしているとアナウンスがある。 どのキャンパスも凄くモダンな建築でお庭も花が咲き乱れ、噴水があり、美しい。 5つのキャンパスの3つには素晴らしい演奏会場がある。 ところが。 明らかにお金がうなるほどあるこの教育機関が私のような非常勤音楽講師に支払っているのは Contract Hour 35ドル。 要するに、実際に教えている時間、一時間につき35ドル。 しかし、教室で教える、と言うのは実際の授業時間よりずっと沢山の仕事がある。 勿論授業の始まる前には教室に入り、 教材を整え、必要な準備をし、入室する生徒に挨拶する。 授業時間が終わっても、質問がある生徒がいる。 理解に時間のかかる生徒は居残りさせる。 […]

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宣言!

しばらくブログをお休みしていました。 う~ん、この二週間、色々あったな~。 ナンだか怠けていた様でもあり、物凄く色々駆けずり回って達成したような... 私のブログをいつもチェックして、 その内容に一喜一憂してくれている家族を始め友人・知人には申し訳なかったのですが、 でも私には多分必要な時間だったのです。 「人生の優先順位」と言うテーマで書き始めたブログエントリーでもお察し頂けたかもしれませんが、 これからの人生の方向性を影響する決断がいくつか目前にあって、 心と頭が忙しかった他、 アドヴァイスを求めるべく私が信頼・尊敬する人々に面会したりしていたのです。 決断その一。 来学期はコミュニティーカレッジで教えない。 決断その二。 練習と演奏を教えに優先させる。 決断その三. 私にとって日々の練習は私を私たらしめる必要な要素。その事に罪悪感を感じない。 決断その四. 上をしつつ、どうやって経済的に責任ある社会人としてやっていくかリサーチをするため、 そして自分のベストを尽くすために、 博士課程の卒業を急がない。 どうやってこの結論に達して行ったかは、 これから少しずつ近況報告の形ブログしていきます。

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自分の極限ベストを常に目指して精進すること。

今週末は土曜日、日曜日と演奏会に出演した。 ヒューストンのコミュニティーに浸透したにオーケストラ演奏活動を始めて今年で10年目の River Oaks Chamber Orchestraのコンサートである。 アメリカ国内で破産の危機にさらされていたり実際破産してしまうオケが相次ぐ中 聴衆も予算も例外的な成長を見ているとしてアメリカ中から注目されているオケ。 色々斬新な試みで音楽の質を妥協せず、しかしどんなレヴェルでも聴衆に楽しんでもらえるよう 色々な工夫を試みている。 その一つに委嘱作品の世界初演がある。 私が出演したのはそんな世界初演のチェレスタのパート。 『不思議な国のアリス』の続編『鏡の国のアリス』の中に出てくる デタラメ詩『Jebberwocky』に触発されて作曲された曲。 最後にはJebberwockyの朗読も入る、 約15分色々な音響効果が楽しく、夢に溢れる曲である。 この他にも例えばプログラムの一曲目では 聴衆の中からくじで選ばれた4人が壇上に招かれて、 オケの中でオケの演奏を間近に体験できるとか、 子供が喜びそうな曲を一曲だけ選んで、 プログラムの中でその曲だけ子供たちが聴衆の拍手を浴びながら入場して オケ初体験をする、とか 本当に細やかな工夫が優しい、すばらしい企画が沢山。 土曜日はこのオケが拠点にしているヒューストンのオフィス街にある教会、St. Johnでの演奏。 日曜日は今回が初めてと言う、ヒューストンの北に約45分車を走らせた所にある コミュニティーセンターでの演奏だった。 このプログラムで私は思いがけず人生観を影響されてしまった。 ベートーヴェンの協奏曲でソロ出演していたAnne-Marie Mcdermottの演奏に感動したのである。 神経が研ぎ澄まされた、一瞬の気の緩みも感じさせない、息を呑まれる演奏だったのである。 しかも聴衆は余り良くなかったのだ。 土曜日の晩は「ここぞ」と言う静かなパッセージで遠慮なく咳き込む人がいた。 咳というのは伝染する物らしい。 一人が咳をすると、「じゃあ私も」と言う感じで咳がどんどん増える。 でも、Ann-Marieは動じること無く、本当に禅僧のような集中力だった。 そしてそのあと太っ腹にも弾いてくれたバッハのイギリス組曲2番の前奏曲のアンコールで 私は度肝を抜かれたのである。 私に最近練習が後回しに成りがちだった自分を深く反省させる演奏だった。 就職活動が何だ!論文がなんだ! 本末転倒!私はピアニストなのに!全てはピアノをうまく弾くためのはずなのに! 血迷ってしまっていた! 土曜日の演奏後のレセプションで 「オケの中でチェレスタを弾いているピアニストですが、あなたの演奏に触発されました」 と自己紹介をしたら、とても喜んでくれた。 日曜日は本当に泣きたくなるほどの会場だった。 最高の音響で素晴らしい会場だったのだが、客入りが本当にチラホラ、と言う感じ。 Anne-Marieが本当に可哀想で、私はまんまん中に座った。 そしたら私の目を見ながら最高の演奏を弾いてくれたのだ。 そして、演奏後にギュッと10秒くらいハグしてくれた。 「音楽人生は楽なことばかりじゃないけれど、でもやっぱり素晴らしいわよね」 と、ギュッと私の上腕を掴んでくれた。 私は練習します! 迷いが吹っ切れた。

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私の人生で大事な物、その5.「本番の高揚」

最近演奏の機会に恵まれている。 今週の水曜日はヒューストン界隈での演奏会を多く手がける Da Camera of Houstonと言うNPO主催のA Little Day Musicと言う演奏会に出演した。 Houstonのオフィス街で正午から1時まで、昼休みに音楽を楽しんでもらおうと言う企画で Houston Grand Operaの拠点、Wortham Theatreと言う堂々とした会場のロビーで行われる。 今回のプログラムはメゾ・ソプラノとヴィオラとピアノ、 そしてメゾ・ソプラノとチェロとピアノのための室内楽。 ブラームス、コープランド、Jake Heggies, Loefflerと 古典から現代まで色々な音楽言語でEmily DikensはBaudlairなどの素晴らしい詩を歌う、 かなり素晴らしいプログラムで、 リハーサルも本番も楽しかった。 本番の緊張、そして共演者との以心伝心、と言うのは何度体験しても凄い。 一秒が物凄く長く感じられ、その間に色々なことを感知できるし、 物凄いパワーを託されたような気持ちになる。 お客さんが本当にピーンと張り詰めて聴いてくれているのが伝わってくる時は そのパワーは本当に倍増されて、自分以上の何かに繋がって 凄い仕事が出来る時がある。 今回の水曜日はそう言うコンサートでした。 Loefflerと言うドイツ生まれのアメリカ人作曲家の書いた曲を演奏した時は 本当に背筋が寒くなりました。 老いた鐘が過去を振り返る、と言うBaudlaireの詩ですが、 曲の中に死者を祭るグレゴリアン聖歌「Dies Irae」がピアノパートに何度も出てきます。 始めは「安易だ」と思ったけれど、聴衆に喰らいつかれて、私も一緒に感動してしまいました。 その曲直後の写真をどうぞ。

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私の人生で大事な物、その4「挑戦」と「目標」

私のとても大切な友達が数年前に言ったこと。 どうしてそう言う発言に至ったのか、経緯も何もかも忘れてしまったが 「ハッ」とさせられて書き留めて置いたので、覚えている。 『人間と言うのは挑戦を必要としている。 だから自分が重要だと信じる挑戦を自分に課し続ける努力を常にしなければいけない。 これを怠ると、自分の脳みそが自動的に挑戦を手当たり次第に求めてしまい、 そう言う挑戦は非生産的であることが多い』 この名言を思い出したのにはいくつか理由がある。 最近私は論文優先で、練習と演奏がちょっとおろそかに成っていた。 ところが急に立て続けに演奏の機会が入ってきたのだ。 例えば先週決まった、NYで21日に弾く演奏会では3楽章から成るこんなソナタも弾く。 シューベルトの歌曲に基づいた変奏曲になっているのですが、 (簡単そう)と思われた方は、1分30秒に飛んで下さい―難しそうでしょう。 難しいのです! この演奏家はノルウェーの作曲家の特集なのだが、私はグリーグのソロの曲集も弾く。 グリーグは叙情的で美しく、技術的に難しい物は少ないのだが、それでも3週間ですよ! ところが、練習し始めて、奮い立っている自分を見出したのである。 (そうそう、この感覚!)とうなづきながら、我を忘れて練習している。 楽しい。 脳みそがプルプルと反応している。 もう一つ、この名言を思い出した理由。 今週末の土・日にヒューストンで非常に地域浸透しているオーケストラ、 River Oaks Chamber Orcestraが委嘱した曲の世界初演で チェレスタのパートを担当させていただくことになった。 初めてのROCOとのお仕事が嬉しかったのだが、 このオケのユニークな支払い法を学んで、浅ましい自分を発見してしまったのである。 このオケはプログラムの何曲弾こうが、演奏者は全て同じ金額が支払われる。 私は一曲だけ。 しかも大きなパートでは無い。 (儲けた!)と思ってしまったのである。 お金を儲けることを目標にするほど空しいことは無い、と思って音楽家になったつもりだったのに。 はっきりとした目標を明確に胸に刻まなければ。 と、言うか私にははっきりとした目標があるのだ、一瞬忘れていただけで。 『死ぬまで毎日、音楽の修行を通じて、ピアニスト、芸術家、そして人間として成長し続ける。その為には毎日自分の幸せに責任を持つこと。貢献でき、触発されるコミュニティーに属していること。そして演奏し続けること』 この目標はもう10年くらい公言し続けている目標。 それに最近加えて『美とは何かを問い続け、美しくある努力と心配りをする事』

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