September 2015

現代曲の譜読み

私はTexas New Music Ensemble(テキサス現代曲アンサンブル)と言う 去年創立されたNPOの創始メンバーのピアノ担当である。 テキサス州に関係のある存命の作曲家の曲だけを取り上げるアンサンブル。 来る11月、このグループ主催のピアノ独奏会を演奏する。 ライス大学を始め、テキサスにある主要大学音楽部の教授の曲が多い。 テキサスと言うのは政治的に、一般的には右寄りで保守的とされる州である。 キリスト教信者の数が物凄く多いし、キリスト教ベースの保守的な考え方 (例えば女性問題、アボーションの問題、同性愛者結婚問題などに関して)を 強く主張したりもする。 そのせいだろうか。 現代曲も、一番実験的、アヴァンガードなものよりはずっと 調性がなんとなくあり、ジャズっぽかったり、テーマがはっきりしていたり、 聴きやすいものが多い。 (今日のブログのテーマからはちょっと離れるので蛇足かもしれないが、 そういう風に見るとアメリカ東海岸はヨーロッパより、西海岸は東洋よりで 美的感覚で現代曲が随分違う。) しかし、それでも現代音楽。 新しいこと、斬新なこと、新しい見解などを打ち出す野心をどこかに隠し持った曲が多い。 と、言うことは正規のクラシックのような 調性とか、メロディックなテーマとか、そう言うパターンが見つけにくい、のである。 こういう有名な実験がある。 チェスのチャンピオンたちにチェスボードを見せる。 駒がゲームの途中のように並べてある。 彼らはこれを一瞬見ただけで、記憶できる。 ところが、同じボードに駒を全くランドムに、ゲームではありえない配置をすると どんなチェスチャンピオンでも全く記憶できないのである。 意味あるものは理解ができるから、記憶できる、と言うことである。 現代曲の多くは、このランドムなチェスボードを記憶しようとするようなものだ。 非常に時間がかかる。 でも、段々、段々、自分なりの意味づけが出来てきました。 でたらめ言葉を台詞にもらっても、 大役者なら何等かの効果を上げるだろう。 私だってプロのピアニスト。 音楽を創ってみせるぞ。 どんな材料でも。 そういう意気込みで読んでいくと、 段々作曲家の意図した音楽も見えてくる。 面白くなってきました。

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クララの練習法―

今日のブログはReinhard Kopiez氏による「Suffering for her Art: The Chronic Pain Syndrom of Pianist Clara Wieck-Schumann」(2010)を参考に書いています。 クララ・シューマン(1819-1896)は3時間以上練習をしなかったらしい。 同世代の同じような超絶技巧の神童たち、例えばクレメンティやチェルニーは子供時代から8時間以上の練習が日課だったと言うのに、である。大人のカーくブレナーは12時間、ヘンゼルに至っては16時間の練習が日課だった言う記述もあるようだ。 しかし、クララは父親の指導のもと、練習時間と同じ時間が散歩やストレッチの運動に充てられ、 そしてオペラ鑑賞や観劇、演奏会鑑賞に積極的に連れていかれた。 (その代り学校は「時間の無駄」と言う理由で数年で辞めさせられている) それなのに1857年くらいから演奏が不可能になるくらいの苦痛に何度も見舞われ、 1873年の12月から1875年の3月までは演奏を全く休み治療に専念している。 なぜか。 色々考えられる。 1.使いすぎによるケガ、と言う説 夫ロバート・シューマンが自殺未遂の後精神病院に入れられた1854年からあと、 クララは7人の子供を養うために演奏活動を活発にした。 ブラームスの第一協奏曲など、クララにとっては全く新しい超絶技巧を沢山取り入れた曲を練習し始めた。 2.何等かの感染による炎症、と言う説。 3.精神的なもの 面白いのは、どんなに演奏会が増えても、クララは3時間以上は練習しなかったようだ。 教えや子供の世話、家計の管理など、できなかった、と言うのが現実かも知れない。 しかしそれでも物凄い数の、初演を含む演奏をこなし、 膨大なレパートリーを自分の物にしていた。 肉体的苦痛が演奏に伴うようになったあと彼女は 「練習はピアニッシモで」とか「今日はメゾフォルテで」と言った記述を沢山残している。 演奏時と同じように弾くことが『練習』ではない、と戒められる気持ちである。

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野外コンサートとラテン系クラシック

土曜日のシーズンオープニングに続き、 日曜日は同じ室内オーケストラの同じ演目で野外演奏をしました。 会場はライス大学のすぐ北にあるヘルマン・パークのミラーシアター。 ヒューストン・シンフォニー、バレー、グランドオペラなども出場するほか、 シェークスピアなどの演劇、ブロードウェーミュージカル、 そして和太鼓など民族色の強いグループも出場します。 出し物はすべて無料。 無料ではあっても配布されるチケットを受け取って入る 屋根のついたちゃんと椅子に座って鑑賞する場所と、 その外にある広い芝生でピクニックなどをして鑑賞する場所があります。 冬の寒い時期以外はほぼ毎週何等かの出し物があります。 私も和太鼓やシェークスピアやミュージカルなど、何回か見たことがあります。 こう言う野外劇場にはもちろん問題も、あるのです。 雨など、気候がすぐれないときがある。 音をどうしてもスピーカーで通さずにはできないので、アコースティックの音楽には不利。 チケットをちゃんと受け取って屋根付きの場所で真剣に鑑賞したい人には 芝生でピクニックしたり、子供を走り回らせたりしている人の雑音は気になる。 でも、逆に良い点と言うのが盛りだくさん! 例えば、チケット制の屋根付き・椅子付きの部分は障がい者用の対策が万全。 実際にこの会場で何度も車いすやストレッチャーの重度障がいの方々をお見受けして 感銘を受けました。 それから子供が、自由に音楽を楽しめる。 「静かにしなさい!」と言うピリピリした雰囲気が無いだけ、 大人も子供が少々はしゃいでもおおらかな気持ちで楽しめます。 屋根付きの場所でもリラックスしてビール缶など片手に姿勢もだらしなく楽しんでいる人。 中にはお弁当を食べている人もいます。 そして何より、こういう会場で本物を無料で提供するのは、すごい! 普段演奏会ではあまり見かけないような人たちを沢山見かけます。 例えば子だくさんの家族。 いかにも移民と言う人たちや、いかにも留学生、いかにも年金暮らし、と言うような 演奏会のチケットが経済的に負担のような人たち。 そういう人たちが本当にリラックスして楽しんでいるのを見るのはうれしいです。 そして一番うれしかったのが、今回の演目のトリを飾ったラテン系の音楽で 皆が口笛を吹いたり、踊りはじめたりして、ものすごく盛り上がったことです。 この曲です。 生憎の雨で、客足は少し寂しかったものの、 土曜日の盛装の演奏会とはまた違った醍醐味を味わいました。 ヴィヴァ、音楽!

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オケのコンサートに乗る日

独奏のコンサートと違って、オケのコンサートに乗る日は緊張感が少ない。 その代り、ソロの練習や、論文執筆、そして生活のペースダウンをしないで いかに演奏をこなすか、と言うことが重要事項になってくる。 今日は朝は6時起き。 夜の本番はシーズンオープニングのギャラなので、 後でオケ付きのドーナー(寄付してくださる方々)をお招きするパーティーのイベントにも出席。 その時を見込んで朝の身支度はいつもより入念に。 そして朝食を取ったあと、8時過ぎに学校の練習室に入り、練習開始。 9時半まで練習して(11月の現代曲リサイタルの譜読み) 10時開始のオケのリハーサルに向けて、出発。 会場には10分前には入ったのですが、すでに奏者はほとんど全員着席状態。 素早くハーモニアムのチェックや、最終の打ち合わせを行い (音量の微調整をするために、ふたの開け閉めを担当するアシスタントがそばに座ることに) 10時ぴったりにリハーサルが始まります。 11時には私の乗る曲はリハーサル終了。 昼食は外で食べることにします。 どんなに小さな本番でも、やっぱり本番の日はいつもより多めに食べます。 『古き良きアメリカ』風の「House of Pies」と言うライス大学の学生を始め、 この地域一帯に愛されている24時間営業のお店でポーチドエッグとトーストとポテトの朝食セット。 すごいボリュームです。 食べながら、することのリストを作ります。 書くべきメール、整理するべき郵便物、払うべき請求書、スケジュールするべきレッスン… 図書館でも、楽譜を借りたり、録音を聴いたり、することのリストはどんどん長くなっていきます。 お腹とリストが一杯になったらお家に帰って、一つづつリストの項目をチェックオフ! 一段落したら、学校に行ってもうちょっと練習して、 その後入念におしゃれをして、5時に開演に余裕を持って着くべく4時には出よう! 5時開演、7時終演。 終演後は近くのカントリークラブでのギャラに出席です。 今日は幸い、気持ちの良い快晴です! それにしても面白いのは こういうスケジュールだから見える、色々な奏者の、化粧を落とした素顔。 今夜ばっちりお化粧することを見込んでか、 今日の朝のリハーサルは皆ほとんどすっぴん。 自分があまり化粧をしないため、私は男性のように誰がどのような化粧をしているか、疎い。 ところが、すっぴんを見て初めて 「あの美しい女優のような顔は要するに、ものすごいアイメークだったのですね! もしかして、付けまつげ+マスカラ+アイシャドー+アイライナーなど、などですか!?」 みたいな。 皆、素顔もきれいなのに。 それによく見ると、ちょっと怖そうな印象だった人が、意外とあどけない顔だったり。 何だかちょっと家族になったみたいで嬉しい。 すっぴんも良いものです。

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今週末はハーモニアム!

今週末はこのオケ曲のハーモニアムパート担当です。 https://youtu.be/wmMpbGdrivA ハーモニアムと言うのはペダルオルガンの事です。 アコーディオンとパイプオルガンの中間と思ってください。 小学校の教室に置いてあるペダルオルガンの豪華版です。 ストラウス、マーラーなど19世紀末、20世紀初頭の作曲家は好んで使います。 昔はペダルで空気を楽器に送り込み、それで音量を調節することもできたのですが、 今は大抵のハーモニアムは電気で空気を送り込んでいるため 微妙な音量のコントロールはしにくくなりました。 奏者の運動量は減りますが。 膝を開いたり閉じたりすることでコントロールする「ニー(Knee)ペダル」があり 右のニーペダルは音量、左のニーペダルはオクターブを足したり引いたりするのに使いますが、 私が今回弾いているハーモニアムは右のニーペダルが馬鹿になっています。 ピアノに比べると、実に非音楽的な鍵盤楽器だ… でも、オケと弾くのは楽しいです。 ソロでも、オケの一パートでも、息と気持ちを一つにしてハモると言うのは音楽人生の醍醐味。 今回一緒に弾くオケはヒューストンでも重鎮。 今年10周年記念を迎えるリヴァ―オークス室内楽団。 http://rocohouston.org/ このオケはユニークな理想を掲げた演奏活動を行っており、 その為に色々表彰されたり、メディアで取り上げられたりもしています。 例えば、聴衆との距離を縮めるため、 毎回演奏会の度に抽選で四名の人が最初の曲だけ、壇上でオケ奏者に交じって聞きます。 それから、地域のボーイスカウトや、日曜学校など、子供のためのグループを招待して、 演奏会全部ではなく、2曲くらい20分だけホールで聴く「演奏会初体験」もやります。 子供たちの入場は会場全体にアナウンスされ、 壇上の奏者も聴衆も一緒になって拍手で迎えます。 また、健康上の理由から会場に足を運べないご高齢の方々のために 地域の介護施設と提携して、演奏会の録画がダウンロードで観れるようになっています。 また奏者同志の関係も良くするためにも、色々な試みがされています。 例えば、午前と午後のリハーサルの間の一時間に豪華のお昼がケータリングされます。 皆、テーブルクロスのかかったテーブルで座ってお昼をいただきながら歓談します。 それから一つのプログラムのリハーサル・演奏中に必ず一回は 誰かのお家でピザパーティーが開かれます。 オケの鍵盤パートと言うのはあまり多くありません。 だからいつもエキストラ状態なのですが、 それでも私がリハーサルのために会場入りすると、 色々な人が笑顔で手を振って、迎えてくれます。 仲間、そして同志です。 さあ、リハーサルに行く準備をするぞ! 行ってまいります。

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