"patience, patience"

Emanuel Ax氏とのコーチングが今日もあった。 一昨日のコーチング、そしてそれからのリハーサルの成果で 一昨日よりは完成度が高いメンデルスゾーンで、指針を請うことができたと思う。 Ax氏はソロ活動も精力的にこなしているが、同時にヨー・ヨー・マやパールマン等との共演でも有名だ。 そして、ピアノと弦と言う、全く異質の楽器をうまく統合させるために、 ピアノの音をかなり厳しく制限し、弦を生かそうとする。 その概念はこの前のコーチングで理解したので、今回はそこのところはマスターして行ったが それでも、昨日のブログでも触れた、ピアノよりも間のある弦のテンポ感と言うものを 私の独奏の部分でまだうまく掴めず、そこのところを何度もやり直させられた。 その時、何度も”Patience, Patience"、と言われた。 2001年に亡くなった、私を凄く可愛がって、引き立ててくれたNYの指揮者も、 そういえば繰り返し私に言った、”Patience, Pateince". どう訳せば良いのだろう。 忍耐とか、我慢とか、辞書に載っている言葉だとちょっとニュアンスが違う。 あえて言えば、「待つ心」、 あるいはこの場合だと「信念を持って、ゆったりかまえて待つ心」だろうか。 そして、この二人の私が尊敬する音楽家たちは、なぜ二人揃って私にそう言うのだろう。 音楽的に、もっとフレーズに余裕を持たせて、そんなに結論に急がないで、と言う意味にも、 自分の音楽家としての成長、学習の過程をせかさないで、と言う意味にも取れる。 そして、曲が熟す過程を信じて、せかさないで、と言う意味もあるのだろう。 OK, pateince, patience.

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アンサンブル教訓

8時半~11時半   バスでキャンパスに行き、練習 11時半~12時半   ポルトガル作曲家、キャンポス・パーシの歌曲、コーチング 12時半~1時半   練習、移動 13時半~15時半   メンデルスゾーンの三重奏、リハーサル 16時~17時   ジェームス・レヴァインのマスタークラスの準備レッスン(歌曲) 17時~18時   7月5日の演奏に向けて、ルーカス・フォスのソロ曲、レッスン 18時~20時   キャンパスから寮に戻り夕食、そしてまたキャンパスへ 20時~21時半   エマーソン弦楽四重奏演奏会(アイヴス、ドヴォルジャーク、バーバー) 21時半~0時   ピアニスト達とビールとおつまみの会 トリオのリハーサルが、今日はなんだか重荷に感じた。 5月下旬に、全員に室内楽の課題が渡されているはずで、 私は課題を知ったその週から譜読みを始めた。 でも、私のパートナーたちはここに来てから譜読みをして、 私のやりたい、勢いあるテンポでまだ弾けない。 私が一人で頑張っても皆を引っ張ろうとしても 「もっと協調性を持って、聴きあって」 と言われるし、まだ弾けてない人と協調するのも癪に障る。 などと、ちまちま考えて、リハーサルに少し遅刻して着いたらば、 ヴァイオリニストとチェリストが二人で一生懸命練習していた。 彼らも、オーケストラのリハーサルや、マスタークラスなどで、 かなり忙しい日々を送っているのはずなのに、 今こうやって寸暇を惜しんで練習している。 「しばらく練習する? 私は散歩でもしてくるよ」 と言ったら、コックリうなずいて続けている。 小雨が降っていたが、傘を持って歩き始めた。 小道伝いにずっと歩いていたら、どんどん森のようなところに入って行き やがて霧が出てきた。 木々の向こうにあるものが良く見えなくなって来て すごく幻想的な感じだなあ、と思いながら歩き続けていたら いきなりぱっと湖の淵に辿り着いていた。 向こう岸まで一キロ以上在りそうな、しっかりとした湖で雨が水面を打ち続け、 跳ね上がる水滴が不思議な模様を描いている。 しばらくそのままボーっと見とれていたら なんだか息が楽になってきた。 ピアノ三重奏の場合、自然と「ピアノ 対 弦」と言う風になる。 音楽的にもそうなるし、リハーサルの過程においてもそうだ。 ピアノの受け持つ音は弦二人あわせたものの10倍以上になるだろう。 ピアニストが必死こいて準備していったリハーサルで 弦楽器奏者が初見をしている、と言うのは 奨励はできないにしても、現実的には良くある状況で 彼らだけのせいにするのは、かわいそうだ。 テンポ、そして勢い・方向性の意見の相違も楽器の性格の違いから来るものもある。 弦は伸ばした音を好きな用にできるから、どう音を伸ばすかで勝負したいが、 一方ピアノは一度音を出してしまったら、もうその音はどんどん消えていくだけだから なるたけ早く次の音を弾いて、なんとか一直線にメロディーを保ちたい。 彼らの、「もっと遅く弾きたい」と言う意思表示をすべて準備不足のせいにするのは あまりにも意地悪だし、自分本位かも知れない。 弦と一緒に弾いている以上、私も弦の美的感覚、性格に合わせる努力をするべきで ただ単にパラパラ音を速く弾けているからと言っても、 アンサンブルとしてきれいに響かなかったら意味が無い。 そんな事を考えて、気を取り直し、来た道を戻り、 リハーサルしに戻ったらば、二人ともとても良くなっていた。 夜、エマーソン四重奏の「Ozawa Hall」での演奏を聴きに行った。 1+1+1+1が4以上だった。

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エマニュエル・アックス(ピアニスト)にコーチングを受ける。

「音と音の間にはっきりとした意図が無い時走る傾向が、君にはあるようだね」 今日、リハーサル中に言われた。 当たっているが、悔しい。 悔しいが、当たっている。 メンデルスゾーンの三重奏の二番(作品66、ハ長調)を 7月5日のコンサートに向けて、準備中。 昨日初めての顔合わせで、 今日すでに、かの有名なピアニスト、エマニュエル・アックス氏とのレッスンがあった。 ヴァイオリンの子もチェロの子も楽譜をもらったのが3日前だとか。 考えてみたら私もそうだが、でもこの曲を弾く、と言うことは5月下旬に知らされていたので、 ちゃんと自分で楽譜を購入して譜読みを済ませてあった。 しかし、彼らはそういう気は回らなかったようで、 とにかく一緒に通してみて、まっつぁお。 二人とも才能はあるのだろうが、私より多分大分若いし、 老婆心も働いて、かなりリハーサルを仕切ってしまった。 何しろ、この曲は音が多く、そして作曲家の指示するテンポが非常に速い。 指示通りに弾くと、クライマックスまでまっしぐらに走り切るような方向性が必要で、 それをこなすにはかなり技術的に自信を持ってないと、 焦燥感ばかり強調されて、余裕のない演奏になってしまう。 昨日の午後で彼らの準備不足が判明して 夜、二人で弦だけのリハーサルをするように強く要請し (私は歌の伴奏があったので)、 今朝、8時からリハーサルして午後のコーチングに挑んだ。 そうしたら、アックス氏に作曲家の指示するテンポをとりあえず忘れて、 とにかくそれぞれのセクションの個性を強調するように、と指示された。 確かに、「正しく」弾いても、「音楽性」を無視していたらば、本末転倒だ。 そんなに言葉や数字で曲を形づけようとしないで、もっと自由に感じてご覧 との、お言葉でした。 ちょっと面目は潰れたが、でも確かにこの頃私は音楽を楽しんで弾くことを忘れていたかも。 ハンマークラヴィアなんか弾いて、いい気になって、 頭でっかちになっていたかも知れない。 アックス氏は本当に優しい人で、 一緒の部屋にいるだけで、部屋の空気がなごむような人だ。 土曜日と、日曜日にも立て続けにコーチングがある。 今日も午後のコーチングのあと、9時半から11時までリハーサルした。

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今までのリズム、これからのリズム

Tanglewood, 着いてから三日目やっとこ終了! 昨日も長かったが今日も長かった。 月曜日からのの一日のパターンをまとめると大体こんな感じ。 7時前   起床 8時    朝食 8時半  バスで寮からキャンパスに行き、練習。 12時   図書館で録音を聞いたり、歌の歌詞の訳をまとめたり、リサーチしたり。 午後   講義、リハーサル、コーチング・レッスン 6時    夕飯 7時    もっと講義、リハーサル、コーチング・レッスン 夜遅く  なぜかいつもビールを楽しく飲むはめになり、1時、2時位にブログを書いて、就寝。 このスケジュールなのに、なぜか眠くならない。 朝はぱっと眼が覚めるし、夜はいつまでも眠くならない。 やはり興奮状態なのだろうか。 今日は夜、声楽家たち(約20人)とピアニスト、そして教授群が全員集まって 歌手たちが一人一人何かを歌う、と言うクラスがあった。 ピアニストはもちろん、交代で伴奏をする。 皆、力唄―演技力、声質、声量、存在感、個性、音楽性と、みんな物凄く、感激してしまう。 私は声楽家と共演した経験がまだ少ないのだが、 ここでいろんな声楽家とリハーサルしたり、歌のレパートリーを勉強しているうちに、 段々とりこになってきた。 鳥肌が立つほど感動することの多い一日だった。 明日は朝の8時からリハーサル。 今日は、早寝!

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何でもできるピアニストを目指して。

大体世の中一般にそういう傾向があると思うが、 音楽界でも、分業が進んでいる。 ピアニストはピアノを弾くだけ。作曲家は書くだけ。 オーケストラの音楽家はソロを弾かなくなり、 全く練習することを止める先生もいる。 つい最近あるピアノのクラスで、先生がブラームスの交響曲を弾いたところ、 ピアノ科の学生のほとんどが何の曲か知らなかった、 と言う場面に居合わせたことがある。 それではいけない、と言う動きも同時に在って ここ、タングルウッドではピアニストは実に様々なこと、 普通にピアノ科の学生として学校にいる分には絶対しないようなことをさせられる。 まず、ここに来るために選ばれた11人と言うのがすでに変わっていて、 1人は元声楽家志望、もう一人は元作曲家志望、 それから元ハープシコード専科のピアニストも居る。 11人全員がソロ以外の演奏(アンサンブル、伴奏、コレぺティ)などの経験が多少はある。 そして、さらにこれから7週間、とにかくピアノと言う楽器のあらゆる使われ方を経験する。 その下準備と言うことなのか、今日は 合計6時間に渡る講義と実演のクラスがピアニストに必修として課せられた。 最初のクラスはボストン・シンフォニーでスタッフ・ピアニストとして20年目の Mr. Corlissが総譜の読み方、総譜から弾かなければいけない時の準備の仕方、 リハーサル・ピアニスト(声楽家がオケやフル・アンサンブルとリハーサルする前に ピアノ伴奏と指揮者と下稽古をつける時のピアニスト)の役割と、役の効率的な果たし方、 チェレスタ、オルガン、ハープシコードなど、オケの中の鍵盤奏者として弾けなければいけない 多様な鍵盤楽器のデモンストレーション、など。 そして次はアリア伴奏のクラス。 それぞれ課せられたアリアを準備してきて、 メトロポリタン・オペラのスタッフ・ピアニスト二人の前で次々弾かせられるのだが、 まず弾く前にそのアリアがどういうオペラのどういうシーンで、どういう役柄に歌われるのか 歌詞の内容まで説明させられる。 そして、伴奏パートを弾いていると、矢継ぎ早に この旋律はオケ版ではどの楽器が弾く旋律か、 どこで歌手の呼吸を予期しなければいけないか 次々と聞かれ、即答できないとお説教される。 私は有名なモーツァルトのドン・ジョバンニの中でも有名なアリア、”bati, bati" だったので、なんとかクリアできた(?)が、 皆ストラヴィンスキーとか、すごく歌手が揺らすのでつけるのが大変なプッチーニとか すごく上手でびっくりした。 一人の子はピアノに編曲したものでなく、総譜から弾いたし、 もう一人の子はチャイコフスキーの”エフゲニー・オネーギン”の手紙のアリアを ロシア語で歌いながらオケ・パートを弾ききった! 皆、あっぱれ。 ピアニストだけがいろいろなことをさせられるのでは無く、 ここでは作曲家が自分の曲を指揮したり、 弦楽器奏者たちもオペラ、オケ、室内楽、ソロ、協奏曲と色々弾かせられるし、 とにかく盛りだくさん。

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