May 2011

人生の課題を一つクリアした気持ち

昨日は、すみだトリフォニー小ホールでリサイタルをしました。 振り返って見ると、22日のみなとみらいから一週間しか経っていないのが信じられないほど、いろいろ考えて、いろいろ反省・練習してきて、自分で言うのもなんですが、一皮脱皮できたような気持ちです。帰ってきてすぐ、録音を聞いてみました。まだまだ、ですが、でも、これから、という気持ちがします。 ゴールドベルグを弾く、と言うのは私にとっては一つの人生の課題だったのだ、と思います。そして昨日は一つの人生の課題をクリアしたような、大きな感慨が有りました。みなとみらいでは「ゴールドベルグでは眠くなってしまったが、リストではその迫力にびっくりして目が覚めた」と言ったようなコメントをいろいろな方から頂きました。でも、昨日は「それぞれの変奏曲がヴァラエティーが在って、面白くて、眠くなるなんて考えられなかった」と言って頂けました。 みなとみらいでの経験を経て、初めて分かったことですが、私のゴールドベルグ観と言うのはこういうものです。 ゴールドベルグと言うのは一つの大きな真実のようなものをいろいろな角度から検証しているような曲。そしてそれぞれの変奏曲はいつも新しい視点(ある意味、新世界)を提示している。だからそれぞれの変奏曲が、パっ、パっと、新しい観点を提示しなければいけないのだが、同時に「ゴールドベルグ」と言う一つの大きな世界を一貫して提示しなければいけない。 このことが自分の中ではっきりしただけでも大きな、大きな収穫でした。そして、ゴールドベルグをまがりなりにも演奏して聞いていただけるところまで来た、と言う物凄い感慨に、昨日の演奏後、襲われました。 11年前、日本で初めての演奏会を「海外で活躍する若手音楽家を応援する会」というNPOの働きかけでやらせていただいてから、私を支援してきてくれた人たちみんな。毎年、私の演奏会のためにいろいろ奔走してくれる、私の家族。そして今でも応援を続けてくれている「海外で活躍する音楽家を応援する会(なぜか、「若手」と言う言葉を抜かれてしまいました...)」。毎年お友達と誘い合わせて来てくださる聴衆の方々。長野や島根からも足を運んでくれる私の親戚。いろいろなアドヴァイスや意見交換の機会を与えてくれる音楽マニアの人たち。幼少のころからいろいろ教えてくれている先生たち...今、感謝の気持ちでいっぱいです。 私は本当に特権的な人生を歩ませてもらっていると思います。こうして音楽の修業と演奏を通じて、いろいろなことを感じ、考え、歩んでいく機会と時間を与えてもらっている。その恩返しとして私ができる小さな貢献は、そういう人生の歩みのプロセスを通じて私が得ているものを、乞われた時にシェアする体勢をいつもとっていくことだと思っています。昨日の演奏会の後、知人に東北の地震と津波の跡地をまわる、と言うお話をいただきました。私に何ができるかわかりませんし、怖い気もします。村によっては人口の40パーセントもの方が亡くなってしまったところもあるそうです。でも、こう言う機会をいただいたからには、行って私ができる精一杯のことをしたいと思っています。 演奏後は、特にちょっとでも自分で満足できる演奏の後は、ものすごい人類愛と言うか、そういう感情に襲われます。生きていて良かった、音楽をやってきて、良かった。私の人生に今まで関わってきてくれたみんなに、ハグをして回って、「ありがとう」、「ありがとう」、と言いたい気持ちです。 そしてまた、次の演奏前には、自分の人生をのろうのです。「なんでこんなこと始めちゃったんだろう。こんなに難しい人生、こんなに難しいこと。。。」、と。 ハハハ。

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5月28日(土)13時半から錦糸町の墨田区トリフォニー小ホール

皆さん! 私の演奏会に是非、是非いらしてください。 時; 5月28日(土) 開場13時、開演13時半 場所;墨田区トリフォニー、小ホール。最寄りの駅は錦糸町 プログラム;ゴールドベルグ変奏曲とリストのソナタ。 入場料;一般 3千円、高校生以下、2千円 http://www.triphony.com/concert/list.php?sch_date=201105#p28

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本番の録音を聞く、ということ

自分の録音を聞く、特に本番直後に聞くのは、はっきり言って苦しい。自分の声の録音を聞くような、「気恥ずかしい」と言うような生ぬるい言い回しでは表現しきれないような、歯がゆい、いたたまれないような、居心地の悪さ。そして「失敗した」とまだありありと覚えている箇所に近づく時の、逃げ出したく成る様な気持ち。でも、特に同じプログラムでもう一度本番を控えている今みたいな状況では、ダントツ一番の勉強方であることには、間違えない。今日は、腹を据えて、この間の日曜日のみなとみらいでの演奏会を聞いてみた。 ゴールドベルグに置いて私の次の課題は、「縦」の要素と、「横」の要素のバランスである、と自覚した。「縦の要素」に含まれるものは、落ち着いた、しっかりと時を刻む拍、縦に重なる(同時に鳴る)音の成すハーモニー、そして旋律と旋律のかもし出す対位法。「横」の要素ははしっかりと一つの音から次の音へと紡がれて行くメロディー、そして全体の構築を浮かび上がらせる方向性。日曜日の演奏では私はあまりにも「横」の要素にばかり気をとられて、「縦」が足りず、結果前倒し的な演奏になっていた。 リストにはもっとメリハリが必要だ。歌舞伎の見栄を切るときのような、潔い「動」と「静」対象。そしてリストでは「縦」と「横」の境界線をもっと意識的にあいまいにして「斜め」の要素をところどころ作らなければいけない。それは、メロディーとハーモニーの境界線が無くなる時。拍の揺らしがメロディーと絡み合う時の事だ。 録音を聞いていて、拍手の合間お「ブラヴォー」、そして暖かい拍手の、その長さに救われた。今週の土曜日まで、もっとがんばる!

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ゴールドベルグを演奏する、と言う体験

この5月22日に、みなとみらい小ホールでゴールドベルグ変奏曲とリストのソナタで、リサイタルを行いました。ピアノ曲でも特に有名で、「大曲」とされている曲を二つ並べたプログラムで、気負いもあり、弾き始めた時は少しあせっていましたが、だんだん乗ってきて、とても詳しくて、毎年厳しい評価を下さるお客様にも「終わりよければ全てよし」と及第を頂き、客席からはゴールドベルグ、リストのソナタ両方に「ブラヴォー」を頂き、嬉しかったです。 しかし、まだまだ課題は多く在ります。反省をこめて、書き出してみようと思います。 ゴールドベルグ。 この曲で今私が特に難しいと感じる点は以下です。 ① 長い(リピートを省いても45分くらい)この曲を全体的に起承転結の方向性をつけ、初めから終わりまでお客様と一緒に(飽きさせないで)体験するためにはどうすればよいのか ② それぞれの変奏曲の特色をかもし出すための変化と言うもの、あまり変奏曲と変奏曲の間を空けずにパッと出すための自分自身の頭の切り替えはどうすればうまく出来るのか。それぞれの変奏曲が、その日の音響、その日のピアノにあったテンポではっきりと自信を持って弾き始めるのには、どうやって腹を据えればよいのか。 ③ 長い変奏曲の過程を経て、最後に冒頭の主題を繰り返す―その最後の主題を美しく弾くのは比較的簡単ですが、一番最初の主題の第一音から「ゴールドベルグの世界」にする為にはどうすればよいのか。 リストのソナタ ① ゴールドベルグより荒いつくりの曲のため、どうしてもゴールドベルグと同じ真剣さで弾けない。ゴールドベルグの緻密さは無いが、反面、誇大妄想凶のようなスケールの大きさがある。それを出すための演劇の要素をもっと研究しなければ。 ② ペース配分の問題。最後が一番の難所なのに、そこに来るまでに肉体的に疲れてしまっている。もっと計算して力を抜けるところで十分に充電して備えておける余裕を持とう。 ③ 速いパッセージや跳躍の技術的に難しい部分の合間にある、ゆっくりと歌い上げる情緒的な部分の緊張をどう保つか。少しだれ気味。 今週末の土曜日、墨田区のトリフォニー小ホールでも13時会場、13時半開演で同じプログラムで演奏します。 がんばるぞ!!

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