November 2019

来夏の演目、ご希望はありますか?

2020年の夏の来日は、私の日本での演奏活動20周年目になります。本当に沢山の方々に支えられて、ここまで来れました。 来年はまたベートーヴェン生誕250周年でもあります。それからアメリカに於ける女性参政権が執行された100周年記念でもあるんです。 演目の案は色々あるのです。 案その①「ベートーヴェン:『運命』に惑わされるな!」 ベートーヴェンと言うと難聴で何年も苦しんだ後晩年失聴した悲劇と戦いながら作曲を続けたヒーローと言うイメージが強いと思います。イメージの通りベートーヴェンの有名な曲には短調で悲しい・苦しいイメージの曲が多いです。例えば『運命』『エリーゼのために』『悲壮』『月光』『熱情』... 肖像画もいつもこんな感じです。 でも、実はベートーヴェンの作曲の多くは明るい美しさやユーモアにあふれているんです。単純計算でも例えば32あるベートーヴェンのピアノソナタの内23曲は長調なんです。 このユーモアに溢れたベートーヴェンに注目したプログラムはどうかしら?そしてベートーヴェンは啓蒙主義的な考え方で、当時の女性蔑視に抗うように女性の演奏家の意見を重視したりもしています。ユーモアに溢れた作品の中でも特に女性に献呈されたソナタを弾いて、歴史的な女性問題やベートーヴェンの啓蒙主義も検討する演目なんて、どうでしょう? 今、バ~っとベートーヴェンのソナタを読み通しています。楽しい! このプログラムにこだわらずとも、お客様たちは私に弾いてほしい曲ってあるのかしら?お伺いしてみたいところです。コメント・ご連絡、お待ちしています。

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感謝すること。

アメリカは昨日は感謝祭でした。 アメリカ感謝祭の定番は七面鳥の丸焼き。内臓を抜いたお腹の中に詰め物をしてオーブンで焼きます。詰め物は主にパン粉や根野菜など、肉汁を吸って美味しくなるものに、ガーリックや香草など肉をより香ばしくするものを混ぜます。色々なレシピがありますが、私が大好きな詰め物のレシピは栗を使うんですよ!それからパンプキンパイ。カボチャの実をつぶしてバターやシナモンなどを混ぜ、パイ生地で囲んでこんがり焼きます。 感謝祭のご馳走を頂く前に、良くテーブルを囲んで一人ずつ、今現在特に感謝していることを順番に言う、と言う習慣があります。皆さんは何に感謝をしていますか? 私が感謝していることはいっぱいあります。 音楽人生を通じて成長を続けられていること 私の成長や発見を喜び、応援してくれる仲間に恵まれていること。 US-Japan Leadership Programを通じて交友関係や世界観を大きく広がって行っていること。 一日に何度も手放しで笑う日常生活がある、と言うこと。 自分が大事だと思うことにじっくり時間をかける贅沢。 シェアする喜びを楽しめること。 今年の感謝祭は西海岸では珍しく大雨で冷え込み、山のてっぺんが雪模様になりました。静かに家で沢山お料理をして、お料理の合間に練習と読書の一日になりました。そう言えば20代~30代を通じてずっと学校の練習室で練習せざるを得なかった私の将来の夢の一つに、「練習しながら隣のキッチンのお鍋でぐつぐつ美味しい物を煮込んでいる」と言うのがあったなあ。昨日は煮込むだけでなく、オーブンも使ったし、一杯良いにおいの美味しいものを作ったなあ。夢が叶っているんだなあ。感謝でいっぱいの感謝祭でした。

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ピアニストの朝

目覚めてから起き上がる前にまず色々考える。今日練習する曲の事。今日楽しみな事。昨日あったこと・交わした会話・美味しかったもの・感謝すること。そしていつもいつも、執筆の事は考えている。 起き上がる前にベッドの中でストレッチをする。上体を右に捻り、右ひざを曲げた状態で上体の左側に持ってくる。反対もやる。それから膝を回したり、自分の膝を赤ちゃんの様に抱えておでこに近づけたり、くねくねくねくね、布団の中でストレッチする。最近気温が低いので、布団の中がぬくくて、気持ちよい。 ベッドを去ったら、まず歯を磨いて、それからレモン水を作る。一個のレモンで1リットルほど作ってごくごく飲む。家の庭にはレモンがたわわになっていて、友人に配ってもまだ余って、どうしてよいか悩む。毎日一個は朝のレモン水で消費する。無農薬だし、皮の方が汁よりも栄養価が高い。と言うことで、レモン水を飲みながら、皮を刻んでお湯を注いでおく。 レモン水を飲んだら、運動着に着替えてジョギングに出かける。家から自分で何となく決めた2マイル(約3.21キロ)のコースは遠くにずっと山脈が見えていて、途中で公園やドッグパーク(犬と犬の飼い主専用。首輪を外して自由に走り回らせて良い砂場)があり、毎日変化に富んで面白い。山の色が毎日違う。くっきり青い山脈が見える時も、山頂が雲の帽子をかぶっている時も、なんだか木や草で緑色に見える時もある。公園もホームレスの人がジャングルジムのてっぺんで寝ていたり、ドッグパークの人が大げさに私に手を振ってくれたり、色々な事が在る。 帰ってきたら、体操をする。ストレッチやラジオ体操や、YouTubeと一緒にサーキットトレーニングなどをやる。その頃には汗だくになっている。どんなに寒い日でもちょっと動くだけで熱くなるなんて、身体ってすごい! 運動が終わったらシャワーを浴びずにはおられないくらい汗をかいている。シャワーを浴びたら、コーヒーを作って、ヨーグルト(フルーツと黒ゴマ黄な粉にそば粉やカカオやナッツを入れたもの)を食べる。最近洋梨が感動する美味しさ。汁が滴り、むさぼり食わないと汁がこぼれて勿体ない。熟した柿も脳を刺激する甘さ。どんなにグルメな食事も、熟れ熟れの果物には叶わないと思う。あまりの香りの高さ・美味さに、脳みそがぶっとんんで、我を忘れてしまう。食事が終わったらさっきお湯を注いでおいたレモンの皮のエキスを一日中お茶の様に飲む。レモンにはそれぞれ個性があって、レモン皮茶は爽やかでほとんど甘い時もあれば、苦い時もある。そういうのが一々、面白くて愉快。 レモン皮茶をすすり飲む頃には練習したくてうずうずしている。ゆっくりとウォームアップから始める。呼吸と姿勢が自然と整ってくる。全ての感覚に意識が澄み渡る。色々な事が自明となってくるような気がする。 最近、練習中に毎日思い出していることが在る。もう20年近く前の事だけれど、鮮明に思い出される。私はカウンセリングをかじったことがあって、その勉強会合宿での出来事だった。先生が生徒のカウンセリングを例として行うのを観察する、と言うフォーマットの時の事だ。生徒は少女の様に体が小さくてかわいらしい20代のソーシャルワーカーだった。彼女は、社会にも家族にも見捨てられた孤独な一人暮らしの老人の多さに困惑し、怒っていた。でも自分一人ではどうすることもできない。どんなに頑張っても追いつかないほどこういう老人が多い。彼女は泣き始めてしまった。カウンセラーはずっと聞いていたのだけれど、彼女がひとしきり泣き終わったところで、二人共立ち上がらせた。そして「それじゃあ、あなたはこれから私の体を思いっきり押してください」と言った。少女ソーシャルワーカーが「へ?」と言う顔になると「私を無関心な社会の体現だと思って、怒りを込めて私の体を腕で思いっきり押してみてください。」と言ったのだ。ソーシャルワーカーは「そうですか、それでは」と言う感じで、始めはしょうがなく、照れた感じで先生の肩を両腕で押し始めた。先生は体格の良い50代くらいの女性で、少女ソーシャルワーカーの2倍くらいの体重が在ったと思う。10秒くらい経った頃からソーシャルワーカーはだんだん気持ちが入って来て、顔を真っ赤にして「わ~~~~!!!」声を上げながら先生の体をぐいぐい押し始めた。先生がどんなに足を踏ん張っても踏ん張り切れない強さだった。先生が後ろに転がってしまうくらいソーシャルワーカーが押しまくるので、先生が「よし、よし、ちょっと方法を変えましょう。」と途中で止めた。「両腕で押すのはやめて、今度は右手の人差し指に怒りを全て込めて、私の左肩を指一本で押してください。」皆、ちょっと失笑と言うか(それで本当に発散できるかな~?)と言う雰囲気が漂った。でも少女ソーシャルワーカーはすぐさま人差し指で先生の左肩をグイ~と押し始めた。先生が「気持ちの全てを指に込めて!」と言ったら、ソーシャルワーカーは汗を一杯おでこに浮かべてと口を大きく『へ』の字にして、静かに涙をだらだら流し始めたのだ。今書いていて、私も涙が出てくる。 私も、最近毎日練習しながら、気持ちの全てをそれぞれの指先から鍵盤に伝えようと思って弾いている。言ってもどうしようも無いこと、他の人に分かってもらえない事、変えられない事が沢山ある。過去の傷。世界の不公平・不平等。皆、それぞれの立場で、やるせないことを沢山抱えて、生きている。何がどうやるせないかと言う物語の詳細ではなく、そのやるせなさにお互い共感することで、お互いを勇気づけ慰める—それが、音楽であり、文学だと思う。それが、人間性だ、と思う。

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思い出の財産と繰り返しに堪える美学。

誕生日を迎えました。 音楽家として、私は物質的豊かさよりも体験を優先したいと思って生きています。思い出と言うのは重要性が高い。記念日はしたことの無い経験や非日常性で、思い出深いことをしたいと思っています。いくつになってもお誕生日や祝日を手放しでお祝いしたい、と思います。 ...と言うわけで、Descanso GardensでEnchanted Forest of Lightsと言うホリデースペシャル期間限定の光のお祭りに行ってきました。行った事のある人から「映画『Avatar』のシーンの様にハイテクの照明効果が楽しめる。」と聞いていましたが、想像を超える大規模なものでした。普段は植物公園なのですが、11月の感謝祭の前から新年まで、毎年恒例でやっています。ライトショーや、触れたり乗っかったりすると反応する発光器具が、音響や霧など他の特別効果と一緒に広い公園中に工夫とテクノロジーを尽くして、配置してあります。Hot ciderと呼ばれる、これもアメリカホリデーシーズン特有のアップルジュースにシナモンなどを加える熱い飲み物で手と体を温めながら一時間じっくりと楽しみました。 本当に凄かったのですが、帰りに野の君と交わした会話が一番面白かったかな?「もう一度したいと思える体験と、一度で満足する体験の違い」と言う題目です。ライトショーは確かに感心したのですが、数日後に外国から来るお客様をお連れしようかと言う話しが出た時(もう行きたくない)と思ってしまったのです。物珍しいし、サービスとしてはお悦びいただけると思うのですが、私たち自身が二度と観たいとは思わなかったのです。 こだわりや芸術性が無い訳では決してない。例えば様々な模様のランプシェードが3D の影を広げていく趣向は、奇抜な世界観が提示され「良い仕事してますね~」と言う感じでした。 何度でも食べたいお料理や味が在る一方、楽しく美味しく食べても二度と思い出さない食体験もあります。音楽や読書体験でも同じく。この違いは何か?なんでこのライトショーは二度と観たいと思えないのか? ライトの中で楽しくはしゃいだ後、思いがけず深~い美学の会話をしてしまいました。素敵な誕生日でした。

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人生の優先順位。

春先から公共図書館との契約でレクチャーシリーズを提供している。支部によっては電子ピアノだったり、グランドがあったり...臨機応変に電子ピアノの場合は説明の補助に音を出し、簡単な短い曲や曲の抜粋を弾く程度。グランドの時は講義内容に沿った曲を披露したりもする。お客様も一番少ない時は10名に満たない時もあったし、多い時には立ち見が壁に引っ付く状態で60名とか入る。非常に貧しい地域も、非常に豊かな地域もある。CDがバンバン売れる時もあるし、帰ってみるとインスタグラムのフォロワーがバッと増えている時もある。「自分は90歳を超しています」と自己紹介してくれる方もあられるし、昨日は2年生(8歳)の男の子がお父さんに連れられて来てくれた。 昨日の支部は運転して一時間弱。「天上の音楽:聞こえない音楽」と言う題目で電子ピアノとパワポでのプレゼン。 途中で音楽が人間の生態に及ぼす影響などの言及でセラピー効果なども説明中に、眼鏡を取って泣き出した年輩の女性が居た。本人がうずくまって顔を隠したので取り合えず見て見ぬふりをしたが、終了後彼女が最近弟さんを亡くされたこと、音楽の治癒効果に感極まってしまった事などをお話ししてくださった。「そうだったんですか…涙されているのは気が付きましたが…」と返したら、隣にいた彼女の友達が「私だって泣きましたよ!」と唇をとんがらかす感じで訴えてきた。なんだか幼女の様で愛らしくて、ちょっと笑ってしまった。嬉しかった。 昨日、目覚めがけに夢見心地に突然「余命が後一年だったら...」と思い始めた。そしたら思いがけないことに、ものすごい解放感を感じる自分が居たのである。今実は執筆中の本で「自分の事を書いたら名誉棄損で訴える」と言ってきている重要人物がいる。余命一年ならそんなことを心配せずに何でも書ける。しかも絶筆のPR効果でもっとたくさんの人に読んでもらえるのでは...と思ったのである。そして余命一年なら人生の優先順位が否応なしにはっきりしてくる。素晴らしい!色々な悩みが一挙に解決! 今朝は起き掛けの夢でスーツケース一杯の現金をもらった。ここでもまたお金の心配が無かったら執筆と好きな曲の練習に集中できる...と人生の優先順位の明確化に頭が行った。 明日は誕生日。人生の節目。色々考えています。

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